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日常生活で“無礼な扱い”を受けると老ける!? 「老化と差別」の関係を明らかにした最新研究

 公開日:2024/05/28

アメリカのニューヨーク大学の研究グループは「差別を受けることで、老化の生物学的プロセスを早める可能性がある」という研究結果を発表しました。この内容について中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

アメリカのニューヨーク大学が発表した内容とは?

アメリカのニューヨーク大学の研究グループが発表した内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介する研究はニューヨーク大学の研究グループが実施したもので、研究結果は学術誌「Brain,Behavior,&Immunity-Health」に掲載されています。

研究グループは、アメリカの成人約2000人から血液サンプルと調査票を収集して研究を実施しました。参加者には、「日常的差別」「重大な差別」「職場差別」の3つの差別経験について質問しました。日常的差別とは、日常生活における微妙で些細な無礼の事例を指します。重大な差別は、警察官から身体的に脅されるなど、強烈な差別の事例に焦点を当てています。職場における差別には、不当な慣行、職業上の機会の阻害、アイデンティティに基づく処罰などが含まれました。

研究の結果、こうした差別が生物学的老化の促進に関連していることを研究グループは明らかにしました。日常的な差別と重大な差別は一貫して生物学的老化と関連していました。また、職場で差別を受けた場合も老化の加速と関連していましたが、その影響は比較的軽いものでした。黒人の研究参加者はより多くの差別を報告し、生物学的年齢が高く、生物学的老化が早い傾向がありました。一方で、白人の研究参加者は差別が少ない傾向にありました。おそらく差別を受ける頻度が低く、対処戦略も少なかったため、差別を受けたときにその影響を受けやすいという結果が出ました。

研究グループは、今回の研究で得られた結果について「これらの知見は健康な老化を支援し、健康の公平性を促進するために、あらゆる形態の差別に対処することの重要性を強調するものです」と述べています。

今回の研究の背景は?

ニューヨーク大学の研究グループが、差別と老化に関する研究を実施した背景を教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

人種、性別、体重、障害などのアイデンティティに基づく差別を経験した人は、心臓病、高血圧、うつ病など、さまざまな健康問題のリスクが高まるという研究結果がすでに報告されています。こうした健康問題のリスクが高まることに対して、正確なメカニズムは完全に解明されていませんが、身体のストレス反応の慢性的な活性化が一因である可能性が高いことを研究グループは指摘しています。

研究グループは、持続的に差別されることで老化の生物学的プロセスとの関連性を指摘する研究が増えていることに着目しました。そこで、差別と老化の関係をよりよく理解するために、ストレスと老化プロセスの生物学的影響を評価するために使用できるマーカーであるDNAメチル化の3つの測定に注目し、今回の研究が実施されました。

研究グループが発表した内容への受け止めは?

ニューヨーク大学の研究グループによる発表への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

「老化のプロセスの進行」には様々な要因が影響し、その因果関係を証明する多くの研究がありますが、これまで差別と老化のプロセスの進行の関連を調べた研究はなかったため、大変興味深い研究であると考えます。対象の多くが中高年の白人で、その過半数が女性であるため、若年の有色人種の男性などに関してのデータは乏しいことや、差別と感じるのには個人差が大きいなどのバイアスの存在には注意が必要と考えられますが、老化のプロセスの進行の指標に採血での生物学的マーカーを用いたことは素晴らしい研究と言えるでしょう。また、職場の差別よりも日常生活における差別の方が老化のプロセスの進行に影響していることから、今後は個人の差別の解消を進めていく必要があると考えられます。

まとめ

アメリカのニューヨーク大学の研究グループは、「差別を受けることで老化の生物学的プロセスを早める可能性がある」という研究結果を発表しました。今回の結果はアメリカでのデータになりますが、差別はどの国でも、もちろん日本でも起きる可能性があります。差別と健康への関係を示した今回の研究結果は注目を集めそうです。

この記事の監修医師