加湿器で肺炎になるのをご存じですか? 表れる症状とは? 予防や治療法も医師が解説

風邪などの予防のために秋や冬になると加湿器を使用する人も多いと思います。しかし実際、加湿器が原因となって肺炎になることがあるのをご存知ですか? 一体なぜ、加湿器が肺炎の原因になるのか、どう気をつけたら良いのかなど、かつぬま内科クリニックの勝沼先生にメディカルドック編集部が聞きました。

監修医師:
勝沼 伸英(かつぬま内科クリニック)
加湿器が原因で肺炎になるのはなぜ?

編集部
加湿器が原因で肺炎になることがあると聞きました。本当ですか?
勝沼先生
はい、本当です。加湿器が原因で肺炎になることを「加湿器肺炎」と呼んでいます。医学的には「過敏性肺炎」と呼ばれています。
編集部
加湿器肺炎とはどのようなものですか?
勝沼先生
そもそもの加湿器とは、機器から水分を放出し、部屋の湿度を一定に保つための電化製品です。加湿器肺炎とは、この機器のなかでカビや菌が発生し、それらが空気中に放出されることで発症した肺炎のことをいいます。
編集部
以前、テレビのニュースでも放送されていました。
勝沼先生
特にニュースになっているのは、レジオネラ属菌の感染「レジオネラ症」です。レジオネラ属菌とは、水道水や空調設備などに生息する細菌で、感染すると高熱が出たり、呼吸困難に陥ったりすることがあります。レジオネラ症は免疫力の低い高齢者や新生児などが感染しやすく、加湿器を原因としたレジオネラ肺炎による死亡例も報告されています。
編集部
加湿器肺炎の症状はどのようなものですか?
勝沼先生
「薬を飲んでも咳が治らない」「家に帰ると咳が出る」といった症状が一般的です。怖いのは、加湿器肺炎は通常の肺炎と違って過敏性肺炎に分類され、吸い込んだカビや菌が肺でアレルギー反応を起こすことが原因であるため、抗生物質が効かないということ。通常の肺炎であれば抗生物質で治療できますが、加湿器肺炎にはそのような薬剤は効果がありません。そのため症状が長引くことが多いのです。
加湿器肺炎が疑われるときには? どのような検査を行うのか?

編集部
加湿器肺炎が疑われるときには、どのような検査をするのですか?
勝沼先生
まずはCT検査をして肺の状態を観察します。そのほかに内視鏡を使って肺の組織や細胞を採取し、詳しく調べることもあります。また、血液検査を行って白血球を調べることもあります。問診も重要で、「加湿器を使うと咳が出る」「外出先では咳が出ない」といった情報も診断に役立ちます。
編集部
通常の肺炎との鑑別が必要なのですね。
勝沼先生
はい。加湿器肺炎が疑われる場合には、実際に数日間入院してもらうこともあります。入院することで加湿器から隔離され、症状が出ないようであれば、加湿器肺炎であったことがわかります。
編集部
加湿器肺炎はどのようにして治療するのですか?
勝沼先生
軽症であれば、加湿器の使用を中止することで症状の改善が期待できます。重症の場合にはステロイドなどを使用し、炎症を抑えてアレルギー反応を抑制することもあります。
加湿器肺炎を予防するにはどうしたら良いのか?

編集部
加湿器肺炎を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか?
勝沼先生
まずは加湿器のメンテナンスが大切です。加湿器のなかの水は毎日取り替えるなど、きちんと手入れをするようにしましょう。それから加湿器のなかに入れる水は、ミネラルウォーターではなく水道水を使用すること。ミネラルウォーターはカビや菌が繁殖しやすいので、使わないようにしましょう。
編集部
昨年しっかり清掃せずに片付けたものを、今年また取り出して使うということは危険ですね。
勝沼先生
はい。シーズンが終わって片付けるときには、必ずきちんと清掃することが必要です。その際には取り扱い説明書をしっかり読んで、メーカーが説明している方法で正しく清掃をするようにしましょう。加湿器の清掃には、クエン酸や加湿器専用の洗剤を使うことが推奨されています。
編集部
ほかに気を付けることはありますか?
勝沼先生
トレイやフィルターなども定期的に掃除しましょう。気化フィルターや吸気グリルの清掃方法などは、取扱書に載っていると思います。それらを参考にしてこまめに清掃することが必要です。
編集部
加湿器にはさまざまな種類がありますが、肺炎を予防するにはどのようなものが良いのでしょうか?
勝沼先生
気化式、スチーム式、ハイブリッド式、超音波式などさまざまな種類がありますが、そのうち気化式や超音波式はタンクの水をそのまま微粒子として室内に噴霧します。そのため、カビや菌が広がりやすいという欠点があります。一方、ハイブリッド式の一部やスチーム式は水をヒーターで加熱してから使用するため、カビや菌の増殖を防ぐことができ、加湿器肺炎の予防に効果的です。厚生労働省も「レジオネラ属菌は60度で5分間殺菌するため、水を加熱して蒸気を発生させるタイプの加湿器は、感染源となる可能性は低い」と述べています。これから加湿器を選ぶ際に、参考にしてください。
編集部
最後に、メディカルドック読者へのメッセージがあれば。
勝沼先生
加湿器で肺炎になることがあるからといって、「加湿器を使わない」と判断するのは早計。風邪や感染症対策のためにも、部屋をしっかり加湿することは重要です。その際には適切な使用を心がけるようにしましょう。もし自宅に加湿器がない場合には、洗濯物を室内に干したり、就寝中濡れたタオルを枕元に吊るしたりすることでも良いと思います。そうした加湿をしっかり行っても咳が続くなど、感染症が疑われるときには、なるべく早く病院を受診してください。
編集部まとめ
今やなくてはならない家電の一つになった加湿器。しかし、正しい使い方で使用しないと、かえって健康を害することもあるようです。使用方法やメンテナンスの仕方など、必ず取り扱い説明書の指示に従うようにしましょう。
医院情報
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診療科目 | 内科、循環器内科、呼吸器内科 |