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男性に多い「大動脈解離」、実は発生率に男女差なし 熊本大学らが新発見

 更新日:2024/01/16

熊本大学らの研究グループは、「これまで男性に多いとされてきた大動脈解離が、実際には男女で発生率に差はない可能性がある」という分析結果を発表しました。この内容について、中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

熊本大学らが発表した研究内容とは?

今回、熊本大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介する研究は熊本大学らの研究グループによるもので、研究成果は米国心臓病学会が発行する医学雑誌「JACC: Advances」に掲載されています。

研究グループはこれまで男性が女性の2~3倍発症しやすいとされてきた大動脈解離が、実際に男性と女性で発症率の差が出るのかを調査しました。調査にあたって研究グループは、病院到着前に死亡した人にCTを使った死因の調査をおこなっている宮崎県延岡市の県立延岡病院に着目し、大動脈解離と診断された患者と死後に大動脈解離と分かった人をあわせて分析しました。

調査の結果、2008~2020年までの間に大動脈解離になった患者数は、男性が129人で女性が137人でした。人口比などを調整した発生率は、男性の場合、年間で10万人あたり16.7人、女性は年間で10万人あたり15.7人となり、男女でほぼ差はみられませんでした。一方、病院に到着する前の死亡者の割合は、男性が21%に対して女性が37%と、女性の方が高い結果となりました。

研究グループは「今回の研究は、男性よりも女性の大動脈解離の方が病院到着前の死亡率が高く、大動脈解離の発生率自体には男女差がないことを示した初めての研究です。これらの結果は、大動脈解離の病態の理解および予防・治療戦略の発展を目的とした今後の研究に役立つものです」とコメントしています。

大動脈解離とは?

熊本大学らによる研究グループが研究対象にした大動脈解離について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

大動脈は内膜、中膜、外膜の3層に分かれています。中膜が裂けて大動脈の壁に血液が流れ込み、大動脈内に2つの通り道ができる状態が大動脈解離です。ほとんどの場合、大動脈解離は突然、胸や背中の激痛とともに起こります。起こったばかりのときは、血管が裂けているために血管の壁が薄くなって、破裂しやすい状態になっています。特に上行大動脈に解離が及ぶA型と呼ばれるタイプでは、1時間に1%ずつ死亡率が上昇すると言われており、48時間以内におよそ半分の患者さんが亡くなるとされています。

大動脈解離の原因は、動脈硬化や高血圧、喫煙、ストレス、脂質異常症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、遺伝などの要因が関係すると考えられています。大動脈解離の発症は冬場に多く、夏場に少ない傾向があります。時間的には日中が多く、特に6~12時に多いと報告されています。

今回の研究内容への受け止めは?

熊本大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

女性の大動脈解離が男性よりも病院到着前死亡率が高く、大動脈解離の発生率自体には男女差がないことを初めて報告した研究として、高く評価されると考えます。ただし、当該研究施設の特徴、日本における人口の高齢化、併発している慢性疾患、研究対象地域の気候の影響などのバイアスが存在するので、今後さらなる前向きの多施設での検討が望まれます。救急医療の現場で有用な知見と考えられます。

まとめ

熊本大学らの研究グループは、「これまで男性に多いとされてきた大動脈解離が、実際には男女で発生率に差はない可能性がある」という分析結果を発表しました。研究グループは「大動脈解離は男性に多いと認識していたのは、病院に辿りついた氷山の一角を見ていた可能性がある。男女とも病気について啓発することが大切」とも話しており、しっかりと大動脈解離のリスクについて認識をすることが重要になりそうです。

この記事の監修医師