「糖尿病が肺がん発症リスクを上昇させる」糖尿病治療薬の有無でリスク変動
中国の中山大学の研究グループは、糖尿病と肺がん発症との関係を探る研究を実施し、「糖尿病が肺がん発症リスクの上昇と関連していた」とする結果を医学雑誌「Lancet」の査読前公開サイトに投稿しました。このニュースについて郷医師に伺いました。
監修医師:
郷 正憲(医師)
研究グループが発表した内容とは?
今回、中山大学の研究者グループが発表した内容について教えてください。
郷先生
今回中山大学のグループによる研究は、2006~2010年にイギリスのバイオバンクに登録された、がん未発症の28万3257例に対して、HbA1c(ヘモグロビンA1c)、前糖尿病(糖尿病予備軍)、糖尿病と肺がん発症との関連についての解析をおこないました。「中央値11.02年の追跡期間中に全体の0.83%にあたる2355人が肺がんを発症し、血糖値が正常な人と糖尿病患者では肺がん発症リスクが20%高くなり、前糖尿病患者では肺がんの発症リスクが37%高くなった」という研究結果が示されました。
次に糖尿病患者が治療薬を使ったかどうかでリスクが変化するのかを検討しました。その結果、治療薬を使用した場合は肺がん発症リスクの有意な上昇は認められませんでしたが、治療薬を使っていない場合だと33%リスクが上昇しました。さらに、HbA1cと肺がん発症の関連性について分析すると、HbA1c値が5.1%付近まではリスクが低下した一方で、HbA1c値が5.1~6.0%では肺がん発症リスクの上昇は66%と急激な上昇をみせました。なお、それ以降のリスクの上昇は緩やかになりました。
研究グループは「前糖尿病、糖尿病は肺がん発症リスクの上昇と関連していた」と結論付けています。そして、「糖尿病治療薬の使用は、糖尿病患者の肺がん発症リスクを低下させることが分かった」ともコメントしています。
発表内容への受け止めは?
中山大学の研究者グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
郷先生
これまでも、肺がんと糖尿病の関係については示唆されていました。その一方、肺がんになる人は喫煙者が多く、喫煙は糖尿病の誘発因子でもありますので、「糖尿病があるから肺がんがあるのではなく、同じような原因によって肺がんと糖尿病が発症するのではないか」という認識が多数を占めていました。
しかし、今回の研究では、それらの仮説をある程度否定する内容になっています。というのも、注目すべき点として「糖尿病の治療をおこなった場合、肺がんのリスクが低下する」というデータが出たところにあります。つまり、糖尿病を放置することそのものが、肺がんの発症に関与しているということが分かったということです。この結果は、ある程度の驚きを持って受け止めています。
ただし、まだ考慮すべき点があるのも事実です。内服で糖尿病を治療せずに放置するような人は、健康に対する意識が低く、禁煙などができていない傾向にあるため、肺がんの発症リスクも高くなっているのではないかとも考えられます。今後、糖尿病が肺がんを引き起こす因果関係についての研究がさらに進むと思われます。
糖尿病と関連する病気で注意すべきものは?
今回は糖尿病と肺がん発症リスクについての研究を紹介しましたが、糖尿病と関連のある病気で注意すべきものを教えてください。
郷先生
糖尿病は生活習慣病の1つとして、積極的な治療が求められています。そして、糖尿病と診断された場合、ほかの生活習慣病も合併している可能性が高いため、高血圧や脂質異常症などの確認も必ずおこなわれます。これらの病気が合併していると、動脈硬化が進行して脳梗塞や心筋梗塞のリスクが上昇するため、検査が必要となってきます。
また、糖尿病は食生活の乱れによって引き起こされることもありますが、がんによって起こる場合もあります。治療への反応性が悪かったり、異常値が出たりした場合には、がんが発症しているかを調べることも忘れてはなりません。なお、心理的な要因で食生活が乱れていることもありますから、心理的なアプローチも必要になってきます。
このように、糖尿病を発症すると合併症が隠れている可能性もあります。様々な検査をおこなう必要が出てくるので、糖尿病には注意が必要です。
まとめ
中国の中山大学の研究グループが、糖尿病と肺がん発症との関係を探る研究を実施し、「糖尿病が肺がん発症リスクの上昇と関連していた」とする結果を医学雑誌「Lancet」の査読前公開サイトに投稿したことが今回のニュースでわかりました。日本の糖尿病患者は予備軍も含めると2000万人いると言われており、今回の研究結果は今後も注目が集まりそうです。