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生活習慣による認知症リスク、遺伝要因の3倍

 更新日:2023/03/27
心代謝性疾患の多疾病罹患による認知症リスクは遺伝要因の3倍超

イギリスのオックスフォード大学らの研究グループが、「心代謝性疾患の多疾患罹患があるグループは遺伝的に認知症リスクが高いグループに比べて、認知症リスクが3倍に上る」という結果を発表しました。このニュースについて濵﨑先生にお話を伺います。

濵﨑 秀崇 医師

監修医師
濵﨑 秀崇(医師)

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東京大学理学部卒業、広島大学医学部卒業。国立国際医療研究センター病院、国府台病院勤務を経て、2017年4月より「濵﨑クリニック」に勤務。糖尿病を専門に、内科疾患および内分泌疾患を幅広く診療。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本体力医学会評議員。

研究グループが発表した内容とは?

今回、オックスフォード大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。

濵﨑 秀崇 医師濵﨑先生

今回の研究はイギリスのオックスフォード大学らの研究グループによるもので、学術誌「The Lancet Healthy Longevity」で発表された内容です。研究グループはUKバイオバンクのデータの中から、2006~2010年に認知症を罹患していない60歳以上の白人20万3038例を抽出して、健康状態や遺伝子データを調査しました。イングランドとスコットランドの登録者では2021年3月末まで、イギリスのウェールズの登録者では2018年2月末まで追跡し、さらに対象のうち1万2236例の脳MRI画像を解析しました。

その結果、全体の10.2%の2万636例が生活習慣病の代表である糖尿病、脳卒中、心筋梗塞の3つの疾患のうち、いずれか1疾患の既往歴がみられました。また、1.1%にあたる2287例が2疾患、0.1%の138例が3疾患全ての既往歴がみられました。3つの疾患の既往歴がないグループに対する認知症の調整ハザード比は、1つの疾患がみられたグループで1.94、2つの疾患がみられたグループで3.46、3つの疾患がみられたグループで5.55となりました。遺伝的リスク別に見ると、低リスクに対する認知症発症の調整ハザード比は、中等度リスクで1.27、高リスクで1.68でした。

このことから、心代謝性疾患を3疾患合併したグループは遺伝的高リスク例に比べて、認知症発症リスクがおよそ3倍に上ることが判明しました。また、心代謝性疾患の多疾患罹患は、海馬の体積や灰白質総体積の減少、白質の高輝度体積の増加と独立して関連していました。

日本における認知症の現状は?

日本での認知症の現状について教えてください。

濵﨑 秀崇 医師濵﨑先生

2020年時点で、65歳以上の認知症の日本人の数は、約600万人と推計されています。2025年には、高齢者の5人に1人にあたる約700万人が認知症になると予測されています。認知症には脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきるアルツハイマー型認知症、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による血管性認知症、幻視や歩幅が小刻みになって転びやすくなるレビー小体型認知症、スムーズに言葉が出てこない、言い間違いが多い、感情の抑制がきかなくなる、社会のルールを守れなくなるといった症状が現れる前頭側頭型認知症など複数タイプが存在します。

発表内容への受け止めは?

オックスフォード大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。

濵﨑 秀崇 医師濵﨑先生

認知症は日本だけでなく、世界中で問題となっています。WHOによると、認知症の患者は毎年1000万人ずつ増えており、2050年までに1億5000万人を超えると推測されています。今回の研究は、遺伝的なリスクと糖尿病や脳卒中、心筋梗塞などの生活習慣が関連した病気によるリスクを比べたものですが、結果は生活習慣を改善させることのインパクトの大きさを示しています。「たとえ遺伝的なリスクを抱えていても、健康的な食事や適度な運動をするといった健やかな生活を送ることが、認知機能低下を防ぐ可能性がある」ということが明らかになりました。認知症の発症機序が全て解明されたわけではありませんが、日頃から糖尿病や脳卒中、心筋梗塞などの生活習慣病を予防する生活を心がけることが大切です。

まとめ

イギリスのオックスフォード大学らの研究グループが、「心代謝性疾患の多疾患罹患があるグループは遺伝的に認知症リスクが高いグループに比べて、認知症リスクが3倍に上る」との結果を発表したことが今回のニュースでわかりました。2025年には高齢者の5人に1人がかかると言われている認知症についての研究は、今後も注目を集めそうです。

この記事の監修医師