”急に靴がきつくなる”は「特発性拡張型心筋症」?生存率やなりやすい人も医師が解説!

特発性拡張型心筋症とは?メディカルドック監修医が特発性拡張型心筋症の症状・原因・なりやすい人の特徴・余命・検査方法・治療法・予防法などを解説します。

監修医師:
大沼 善正(医師)
目次 -INDEX-
「特発性拡張型心筋症」とは?
左心室の収縮力が低下し、さらに左心室が拡大してしまう病気を拡張型心筋症といいます。そのなかでも、高血圧や弁膜症、狭心症など明らかな原因がなく起こるものが、特発性拡張型心筋症と診断されます。
特発性拡張型心筋症の代表的な症状
特発性拡張型心筋症には特徴的な症状はありませんが、心不全を発症すると以下のような症状を起こします。
呼吸困難
心不全になると、肺うっ血といって「肺の血管に血液がうっ滞し、間質(肺組織のすきま)に水分がにじみ出た状態」になることがあります。
肺に余分な水分が貯まっているような状態なので、夜間寝ているときなどに、突然息苦しくなり、呼吸ができなくなります。少し頭を起こした状態になると改善します。
安静にしても息苦しさが改善しない場合や、夜間に突然強い呼吸困難が出現した場合には、速やかに救急車を要請しましょう。
むくみ
心不全では全身の血液の循環が滞るため、手足がむくむことがあります。
とくに徐々に心不全が悪くなってきたときに、起きやすいとされています。
急に靴下の跡がつくようになった、靴がきつくなった、指輪がきつくなった、数日から数週間で体重が増えてきたといった変化が見られるときには心不全の可能性があります。
このような場合には、循環器内科を受診しましょう。
疲れやすさ
肺うっ血などで肺に水が貯まると、少し動いただけでも息切れや疲れやすさを感じるようになります。明らかな原因がなく、急に疲れやすくなったり、息切れやむくみが出たりするようなら心不全の可能性があります。
疲れやすさがある場合には、まずは内科を受診し、必要に応じて循環器内科などを受診するとよいでしょう。
動悸、めまい、失神
特発性拡張型心筋症では、心房細動や心室頻拍、または洞不全症候群、房室ブロックなど様々な不整脈を引き起こすことがあります。
心房細動や心室頻拍は脈が速くなる不整脈であり、症状としては動悸を感じることが多く、洞不全症候群、房室ブロックは脈が遅くなる不整脈であり、めまい、ふらつき、失神などを引き起こします。
いずれも数分以内に収まるようであれば、改善した後に循環器内科などを受診しましょう。
安静になっても症状が続く場合には、救急外来を受診する必要があります。
特発性拡張型心筋症の主な原因
以前は原因不明とされていましたが、最近では遺伝性(家族性)、非遺伝性(非家族性)が原因と考えられるようになりました。
成人の拡張型心筋症では、両方の原因が合わさって起こることも多いとされます。
遺伝性(家族性)
家族性拡張型心筋症では20~40%で遺伝子変異が起こるとされています。
心臓の筋肉を構成するタンパク質の一つにタイチンといわれるものがあります。このタイチンを設計するための遺伝子情報に異常を来すと、心臓の筋肉(心筋)の構造や働きに異常が起こり、拡張型心筋症を発症することがあります。
また細胞核の中にラミンA、ラミンCというタンパク質があり、これは細胞核の形や強さを保える骨組みのようなタンパク質です。このタンパク質を作るための遺伝情報に異常がある場合にも心筋に異常が起こり、拡張型心筋症などの病気を引き起こすようになります。
家族性拡張型心筋症の人は、必要に応じて専門の病院で遺伝子検査が行われることがあります。
非遺伝性(非家族性)
非遺伝性の原因は未だ不明な点も多いのですが、慢性的な心筋の炎症や、自己免疫反応(自分で自分の体を攻撃してしまうこと)などの関与が考えられています。
なんらかのウイルス感染がきっかけとなり、自分で自分の心筋の細胞を攻撃することが原因ではないかといわれていますが、詳しい機序に関しては現在も研究中です。
特発性拡張型心筋症になりやすい人の特徴
特発性拡張型心筋症とは、「明らかな原因がなく起こる拡張型心筋症」のため、なりやすい人を特定することはなかなか難しいといえます。
男性に多いことと、家族性に発症することがあることが知られています。
男性に多い
診断される年齢としては、60歳前後が多いという報告があります。ただし、それ以外の年齢層の人でも診断されることはあります。
また男女比では、2.6:1と男性に多い傾向がみられます。
遺伝性(家族性)
遺伝子の異常により、心臓の筋肉を構成するタンパク質や細胞核のタンパク質を作る遺伝子情報に変異が生じることがあります。ご家族の中で、拡張型心筋症と診断された人がいる場合は、自覚症状がなくても定期的に健康診断を受診したり、心電図や心エコー検査したりすることが早期発見につながります。
特発性拡張型心筋症の余命・生存率
特発性拡張型心筋症に限った大規模な生存率データは限られていますが、拡張型心筋症全体としての予後については、いくつかの報告があります。
日本では拡張型心筋症が心臓移植の原因疾患として最も多く、2018年8月までに実施された408例の心臓移植のうち、68%が拡張型心筋症を原因とするものとされています。
拡張型心筋症については、平成11年の厚生省の調査によると5年生存率は76%となっており、亡くなる原因の多くは心不全や不整脈によるものとされています。
最近では、薬物治療、心臓再同期療法、植え込み型人工心臓など様々な治療の選択肢が広がっており、予後は改善してきているものと思われます。
特発性拡張型心筋症の検査法
これらの検査は、拡張型心筋症を診断するとともに、高血圧や弁膜症、冠動脈疾患など、原因となる他の病気を除外する目的で行われます。
心電図
健康診断などでもよく行われている検査です。一般内科や循環器内科など広く実施されています。
心房・心室の拡大、心筋の伝導障害、不整脈などの診断に役立ちます。
外来で行う検査であり、体への負担もありません。
そのほか、ホルター心電図など長時間心電図を記録する検査もあります。これは主に不整脈の診断に役立ちます。
心エコー
超音波を使い心臓の機能を計測する検査です。
外来で行うことができ、拡張型心筋症の診断に欠かせない検査となっています。
心臓の筋肉の動きを見たり、弁膜症を調べたりすることができます。
主に循環器内科で行われます。
MRI検査
MRIとは、磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging)の略語です。強い磁石と電磁波で体内の状態を把握します。とくに心筋の状態や性状を詳しく調べるのに有効な検査です。
心臓MRIの目的としては、
- ①心臓の機能評価
- ②その他の心筋症との鑑別
- ③心筋の性状評価
- ④重症度・予後の評価
があります。
多くの場合、循環器内科の外来で実施されます。
核医学・CT検査
核医学検査では放射性同位元素が心筋に取り込まれる程度を見ることで、心筋の細胞の状態を画像化・定量化することができます。心筋組織の状態を見ることができ、心筋の血流、心臓交感神経機能の評価にも有効です。
心臓CTでも心臓の形態評価、壁運動評価、冠動脈の形態や狭窄の有無を評価することができます。
多くの場合、循環器内科の外来で実施されます。
心臓カテーテル検査
心臓を栄養している血管(冠動脈)に直接造影剤を注入し、その流れを透視で見ることで、冠動脈の狭窄・閉塞を調べます。
左心室に造影剤を流すことで、左心室の収縮程度、弁膜症の程度を評価できます。
心筋生検といって心筋をごくわずかに採取し、炎症や特殊な心筋疾患がないかを調べる検査を行うこともあります。
また心臓の内圧を測定することで、心臓にどれだけの負荷がかかっているのかも評価することができます。
いずれも入院が必要な検査であり、循環器内科で行われます。
検査だけであれば、2~3日程度の入院となります。
特発性拡張型心筋症の治療法
特発性拡張型心筋症は心不全、不整脈、心臓の拡大に伴う弁膜症などを合併することがあるため、それに対する治療がメインとなります。
薬物治療
治療は心不全の治療と同様に行われます。
主に以下のような薬剤が使用されます。
- ①利尿剤:むくみをとり、体に余分な水分が貯まらないようにする
- ②ACE阻害薬・ARB・ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬:神経体液性因子(交感神経やRAAS)を抑え、心臓の負担を軽減し、予後を改善する
- ③血管拡張薬:血管抵抗を下げ、心臓にかかる負担を軽くする
- ④強心剤・昇圧剤:心臓の収縮力を向上させる、血圧をあげる
- ⑤心拍数調整薬:心拍数を適正に保つ
心不全の程度により外来または入院で治療が行われます。
特発性拡張型心筋症の治療は、薬物療法含め、ほとんどが循環器内科で行われます。
ACE阻害薬:アンジオテンシン変換酵素阻害薬
ARB:アンジオテンシンII受容体拮抗薬
ARNI:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬
MRA:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
RAAS:レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系
僧帽弁形成術・置換術
左心室が拡大すると、それに伴い僧帽弁も拡大し、僧帽弁閉鎖不全症を引き起こします。
以前は左室形成術(拡大した左心室を切って、縫って縮める手術)と、僧帽弁の形を整えたり(僧帽弁形成術)、新しい弁に交換したり(僧帽弁置換術)する手術が行われることがありました。しかし、左室形成術は予後改善効果が乏しいとされ、現在では積極的には行われていません。
最近では体への負担が少ない、MitraClip(マイトラクリップ)を使用し、僧帽弁の逆流を減らす治療が行われています。
MitraClip:太ももの付け根からカテーテルという細い管を挿入し、僧帽弁の逆流している部分をクリップで挟んで閉じ、血液の逆流を減らす治療法。
心臓再同期療法
左心室が拡大し、収縮力が低下すると、左心室と右心室の収縮に時間差が生じることがあります。両方の心室の収縮のタイミングが合わないと、心室全体の収縮力が低下します。
心臓再同期療法では、
- ①左心室と右心室にリード線を挿入
- ②両心室からタイミングを合わせてペーシング(電気刺激で筋肉を収縮させる)
- ③左右心室の時間的なずれを修正
- ④それにより心収縮能を向上
を目的としています。
ペースメーカを植え込む方法とほとんど同様の手術であり、入院は1週間程度必要です。
植え込み型左心室補助人工心臓・心臓移植
心不全が最重症(ステージD)であり、薬物治療や現存する心不全治療を行っても繰り返し入院する、若年(65歳未満が目安)の人に心臓移植が検討されます。
また、心臓移植を待機する間に、心不全や亡くなることを予防するため、植え込み型左心室補助人工心臓(植え込み型LVAD)が使用されます。
心臓移植は、日本において国立研究開発法人国立循環器病研究センターを含む限られた施設(2025年8月時点で12施設)で実施しています。
カテーテルアブレーション、植え込み型除細動器
拡張型心筋症では、心房細動や心室頻拍など不整脈も合併することがあります。
カテーテルアブレーションとは、不整脈の原因となっている異常な電気信号の発生源や伝導路を、カテーテルを用いて焼灼(または冷却)し、根治を目指す治療法です。
しかし、心室頻拍では突然死を起こすリスクがあるため、カテーテルアブレーションを行った後でも、植え込み型除細動器が使用されることがあります。
植え込み型除細動器とは、ペースメーカに似た形状の機器であり、心臓の電気信号を常に監視して、心室頻拍などの致死的な不整脈が発生したときに電気ショックを自動で行ってくれる機能を持っています。
特発性拡張型心筋症の予防法
特発性拡張型心筋症の予防は、発症そのものを予防する確立された方法はありませんが、病気の進行や心不全の悪化を防ぐための対策を行うことが重要です。
食事療法
塩分を多くとりすぎると、むくみやすくなり、体に水分をため込む方向に働きます。そのため、加工食品を避けるなど、減塩に気を付けるとよいでしょう。また糖尿病や肥満がある場合には、摂取カロリーについてもコントロールが必要となってきます。
アルコール
適度なアルコール(純アルコールで20g程度)にとどめておくのが一般的な目安です。
ビールであれば500ml、日本酒であれば1合までが目安です。ただし、心不全の程度によってはそれ以下のほうが望ましいこともあり、禁酒が必要なこともあります。
禁煙
タバコは、冠動脈がスパズム(一過性に収縮したり、けいれんしたりすること)を起こすとされており、心臓への負担を増やす一因となります。
そのため、拡張型心筋症の人には禁煙が勧められます。
運動
有酸素運動を中心とした運動トレーニングは、心不全の悪化を防ぐために大切です。心臓リハビリテーションが施行できる施設で、現在の心肺機能にあった運動処方をしてもらいましょう。
「特発性拡張型心筋症」についてよくある質問
ここまで特発性拡張型心筋症などを紹介しました。ここでは「特発性拡張型心筋症」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
特発性拡張型心筋症の予後は悪いのでしょうか?
大沼 善正(医師)
拡張型心筋症の予後は、心機能低下の程度や、心筋の線維化(本来は柔軟な心筋が硬くなること)の範囲、致死的な不整脈の有無など、複数の要素によって左右されます。
適切な薬物治療含め、心臓再同期療法、植え込み型左心室補助人工心臓や心臓移植、また食事療法や運動療法など組み合わせることで、予後の改善が期待できます。
特発性拡張型心筋症は完治するのでしょうか?
大沼 善正(医師)
特発性拡張型心筋症は慢性的な疾患であり、遺伝的な背景を含む複数の要因が関与しているため、完治させるということは難しいと考えられます。
しかし、治療を継続していくことで心不全が安定したり、心機能が改善したりするということもあります。
特発性拡張型心筋症の禁忌事項について教えてください。
大沼 善正(医師)
塩分や水分、アルコールの過剰摂取は心不全を悪化させる可能性があります。
また心不全がよくなった場合でも、薬を自己判断で中断することは心不全悪化の原因となるため、避けるべきであると考えられます。
まとめ
特発性拡張型心筋症は薬物療法などの治療が進んでおり、適切な治療で予後の改善が期待できます。
ただし、症状がよくなった場合でも、治療を中断すると悪化することもあります。
そのため特発性拡張型心筋症と診断された場合には、継続的な治療が必要です。
また、ご家族の中に特発性拡張型心筋症と診断された方がいる場合や、気になる症状がある場合には、早めに医療機関を受診しましょう。
「特発性拡張型心筋症」に関連する病気
「特発性拡張型心筋症」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
循環器系の病気
特発性拡張型心筋症に伴う心不全や不整脈は、適切な治療介入によって改善すると言われます。健診で異常を指摘された場合や、症状がある場合には、循環器内科で相談することをお勧めします。
「特発性拡張型心筋症」に関連する症状
「特発性拡張型心筋症」に関連する症状は7個ほどあります。
各症状の詳細についてはリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
特発性拡張型心筋症は無症状で経過することの多い病気ですが、これらのような症状がある場合には、循環器内科で早めに検査を受けて必要に応じた治療を行うことが推奨されます。
参考文献




