「狭心症」を疑う「心電図の波形」にはどんな特徴がある?【医師解説】

狭心症は心電図でわかるの?Medical DOC監修医が狭心症の心電図波形・心電図経過や何科へ受診すべきかなどを解説します。

監修医師:
佐藤 浩樹(医師)
目次 -INDEX-
「狭心症」とは?
狭心症とは、心臓に酸素と栄養を送る冠動脈の血流が一時的に不足し、心筋が虚血状態に陥る疾患です。冠動脈が狭くなることで起こります。具体的には、冠動脈の内壁にLDLコレステロールが沈着してプラークを形成したり、血栓が付着したりするためです。これにより、労作や精神的緊張など心筋の血液需要が高まる状況で、心臓への血液の需要と供給のバランスが崩れて、さまざまな症状が起ります。典型的な症状は、前胸部の痛みや圧迫感です。中には、この症状に加えて、左肩、腕、顎に症状が放散することもあります。発作は、安静にすると、十数分以内で自然に軽快することが多いですが、症状が強く持続する場合は心筋梗塞への移行も考えなければなりません。診断には、心電図、運動負荷試験、冠動脈造影などが用いられます。治療は、生活習慣の改善、薬物療法、必要に応じてカテーテル治療やバイパス手術が行われます。
狭心症の心電図波形
狭心症は虚血性心疾患の1つであり、発作時に心筋虚血の心電図波形を呈します。心筋虚血を起こした際の代表的な心電図波形を以下に詳しく説明いたします。
異常Q波
異常Q波とは、心筋梗塞などによって心筋が壊死し、その部位の電気的活動が失われた結果として出現する異常な心電図所見です。通常、Q波は心室中隔の興奮を反映するごく小さな陰性波です。したがって、幅が狭く、深さも浅いのが一般的となります。しかしながら、異常Q波は、幅が0.04秒(1mm)以上に延長し、かつ深さが同じ誘導におけるR波の4分の1以上となるのが特徴です。異常Q波は、V1~V4など前胸部誘導を中心に出現することが多いです。特に、陳旧性心筋梗塞の診断においては重要な所見であり、心筋虚血が過去に不可逆的なダメージへと進行したことを意味します。予後判定や治療方針決定において大きな意義をもちます。
一方で、狭心症は冠動脈の一時的な血流不足により心筋が可逆的な虚血に陥る病態であり、心筋は壊死には至らないのが特徴です。そのため、狭心症の発作時に認められる心電図所見で、異常Q波が出現することは一般的にはありません。もし、異常Q波が確認された場合は、心筋梗塞や他の心筋障害を疑う必要があります。
STの上昇
ST上昇は、心筋の虚血や損傷を反映する重要な心電図所見のひとつです。特に、心筋梗塞や冠攣縮性狭心症に特徴的にみられます。心筋梗塞は、冠動脈が動脈硬化や血栓により急激に閉塞し、心筋への血流が長時間途絶することで心筋が壊死する疾患です。一方、冠攣縮性狭心症は、冠動脈に一時的な強い収縮(スパズム)が起こり、心筋への血流が急激に減少することで発症する疾患です。冠動脈自体に高度な狭窄がなくても起るのが特徴と言われています。
診断的には、連続する2つ以上の隣接誘導で一定以上のST上昇が認められることが重要です。具体的には、胸部誘導(V2・V3)では男女や年齢によって基準値が異なり、0.15〜0.25 mV程度以上の上昇が目安とされます。その他の誘導では0.10 mV以上の上昇が有意とされています。
ただし、狭心症においてST上昇は通常みられません。発作時は、むしろ水平型あるいは下降型のST低下が主に認められ、これが典型的所見とされています。
冠性T波
冠性T波とは、心筋虚血や梗塞によって出現する特徴的なT波変化を指す心電図所見です。心筋が酸素不足に陥ると、心臓内の電気的活動に異常をきたし、その結果として、T波の波形が変化します。心電図上では、左右対称性で陰性T波として観察されることが多く、特に前胸部誘導(V1〜V4)において現れることが多いです。
冠性T波は、心臓以外の要因でも起きる非特異的なT波変化と異なり、診断的意義が高いです。特に、陳旧性心筋梗塞の確認や虚血範囲の推定に有用と言われています。ただし、狭心症においては心筋虚血が一過性かつ可逆的であるため、冠性T波は一般的に認められません。狭心症ではむしろST低下や軽度のT波変化が主な所見であり、冠性T波が持続して存在する場合には心筋梗塞など不可逆的な虚血障害を疑う必要があります。
狭心症の心電図経過
狭心症は、発作からの時間経過により変化するのが特徴です。経時的な心電図変化の詳細を以下でご紹介いたします。
発症前
発作前の心電図は、多くの場合明らかな異常を示さず、発作がなければ正常範囲であることが一般的です。しかし一部の症例では、発作に先行して心筋虚血の前駆所見が認められることがあります。具体的には、一過性にT波が増高したり、尖鋭化したりする変化です。これらの所見は非特異的であるため、単独で診断することにはなりませんが、臨床症状や経過と併せて評価することで狭心症の存在を示唆する手がかりとなることがあります。
急性期
急性期には、心筋虚血を反映した典型的な心電図変化を認めます。代表的な所見は、水平型または下降型のST低下であり、虚血の強さや範囲に応じてT波の陰性化や平坦化を認めることも少なくありません。一方、冠攣縮性狭心症では一過性のST上昇が出現し、通常の狭心症とは異なるパターンを呈します。
回復期
発作中に認められたST変化が速やかに基線へ戻るのが特徴です。ただし、T波に関しては発作消失後もしばらく陰性や平坦な形で残存することがあります。しかしながら、時間の経過とともにこれらの変化も改善し、多くの場合は正常化します。
慢性期
発作がなければ心電図は正常所見を示すことが多く、特徴的なST変化やT波異常は認められません。そのため、安静時の心電図検査のみで狭心症を診断するのは難しいのが現状です。
「狭心症の心電図」についてよくある質問
ここまで狭心症の心電図について紹介しました。ここでは「狭心症の心電図」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
心電図以外に狭心症の検査法について教えてください。
佐藤 浩樹 医師
狭心症の診断では、心電図が基本となりますが、通常行われている心電図検査では特徴的な所見が得られることは少なく、補助的な検査が必要となることが多いです。代表的検査は、運動負荷試験で、トレッドミルやエルゴメーターを用いて心拍数を上昇させ、心臓により血液が必要な状態を起こし、狭心症の有無を診断します。症状と心電図変化により評価します。加えて、心エコー検査では、壁運動異常の有無や心機能を非侵襲的に確認でき、ストレス心エコーによって負荷時の虚血評価も可能です。さらに、心筋シンチグラフィやPETでは放射性同位元素を用いて心筋血流分布を画像化し、虚血範囲や重症度を把握できます。近年では、冠動脈CTが発達し、冠動脈の形態的狭窄やプラーク性状を外来にて、非侵襲的に観察できるようになりました。最も確定的な検査は冠動脈造影です。直接的に冠動脈の狭窄部位や重症度を評価でき、治療方針の決定にも直結します。これらの検査を組み合わせることで、狭心症の診断精度が高まり、適切な治療選択につながります。
まとめ 心電図検査は侵襲なく簡単に行える非常に有用な検査
狭心症の診断において心電図は最も基本かつ重要な検査です。発作時には、ST低下やT波変化が現れるため、虚血の存在を直接反映する所見として臨床的意義が大きいです。ただし発作が短時間で消失することも多く、心電図だけで確実に捉えられない場合もあります。そのため、補助的に、運動負荷試験、心エコー、心筋シンチグラフィ、冠動脈CTなどが併用されることが多いです。さらに冠動脈造影は確定診断に有用ですが、侵襲を伴うため、まずは心電図で異常を捉えることが第一歩となります。心電図は狭心症診断の中心を担っているといえます。
「狭心症」と関連する病気
「狭心症」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
整形外科系
狭心症で現れる前胸部の痛みや圧迫感に似た症状を呈する疾患は多いです。その中には、命にかかわる疾患もあります。早期の診断と治療は極めて重要なので、医療機関を早めに受診することをお勧めします。
「狭心症」と関連する症状
「狭心症」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胸痛
- 胸部圧迫感
- 左腕のしびれ
- 左肩の痛み
- 心窩部痛
これらの症状は狭心症以外の疾患でも認められます。症状が強い、持続する場合は、命にかかわる場合もありますので、自己判断せず医療機関を受診してください。




