「急性心筋炎」を発症すると現れる「症状や好発年齢」はご存知ですか?【医師解説】

急性心筋炎とは?メディカルドック監修医が急性心筋炎の症状・原因・なりやすい人の特徴・治療法などを解説します。

監修医師:
大沼 善正(医師)
目次 -INDEX-
「急性心筋炎」とは?
心筋炎とは、感染症、薬剤、自己免疫の異常などにより、心臓の筋肉(心筋)に炎症が起きる病気です。心膜(心臓を包む膜)にまで炎症が及ぶと、心膜心筋炎といいます。心筋に炎症が起きると心臓のポンプ機能に障害をきたし、心筋の収縮する力が低下したり、不整脈を起こしやすくなったりします。
急性心筋炎とは、心筋炎が発症して30日未満のものをいいます。
30日以上経過したものは、病態に応じて慢性活動性心筋炎、慢性炎症性心筋炎、慢性心筋炎、心筋炎後心筋症に分類されます。
軽症の場合は自然に回復することが多い病気ですが、まれに重篤化し、命の危険もあるような病気です。
急性心筋炎の代表的な症状
発熱、頭痛、咳、喉(のど)の痛み
よくある「喉のかぜ」といわれる症状です。医学的には咽頭炎といわれます。対処としては、通常のかぜと同様で解熱鎮痛剤や咳を抑える薬で様子を見ることが一般的です。
喉のかぜから心筋炎に進行する可能性はかなり低いため、まずはかかりつけや一般内科を受診しましょう。
腹痛、吐き気、嘔吐、下痢
一般的に「お腹のかぜ」、医学的に急性胃腸炎といわれる症状です。軽い症状であれば、水分をこまめにとり、安静にすることで多くは改善します。食事がとれない場合には、クリニックや病院を受診し、点滴を受けるようにしましょう。
消化器症状後に、下に挙げたような胸痛、息切れ、動悸などが出るようなら、循環器内科を受診しましょう。
胸痛、息切れ
上記かぜ症状に引き続き、胸痛を生じる場合には、心膜心筋炎を起こしている可能性があります。痛みは胸の真ん中で、息を吸うときや咳をしたときに痛みが強くなることが特徴です。また痛みは、座った状態で前かがみになると改善することもあります。
心筋炎により心臓のポンプ機能が低下すると、心不全を発症する可能性が高まります。心不全になると、動いたときに息が切れやすい、呼吸がしにくいという症状をきたします。また寝ているときに呼吸困難で目が覚めることもあります。
胸痛や息切れが生じたときには、心筋梗塞との鑑別や、心不全の治療が必要となるため、夜間や休日であっても救急外来や循環器内科を受診するようにしましょう。
動悸、めまい、失神
心筋炎により心臓のポンプ機能が低下すると、不整脈を起こしやすくなります。不整脈により急に脈が速くなると動悸を感じ、逆に遅くなりすぎるとめまい、失神をきたします。
かぜ症状に引き続き、動悸やめまいを起こすようでしたら、夜間であっても救急外来や循環器内科を受診しましょう。
急性心筋炎の主な原因
感染症(ウイルス、細菌、真菌など)
心筋炎の原因は多くはウイルス感染症によるものです。パルボウイルスB19、ヒトヘルペスウイルス6、アデノウイルス、コクサッキーウイルスB3などがあります。
パルボウイルスB19は伝染性紅斑を発症します。両頬がリンゴのように赤くなるため、「リンゴ病」といわれたりします。アデノウイルスは咳、鼻水、喉の痛みなどのかぜ症状を起こします。新型コロナウイルスでもごくまれに、心筋炎を引き起こすとされています。
まずは内科を受診し、胸痛や息切れが出てくるようなら、循環器内科を受診するようにしましょう。
薬剤
抗がん剤で心筋炎を起こすことがあります。抗がん剤の中でも、免疫チェックポイント阻害薬、アントラサイクリン系抗がん剤などが原因となります。また新型コロナウイルスに対するワクチンでも、まれではありますが心筋炎を起こすことが報告されています。
心不全の症状(息切れ、呼吸困難など)がある場合、まずは原因薬剤を処方している担当医にしっかりと伝えましょう。自己判断で薬をやめないように注意が必要です。
自己免疫性疾患
自己免疫疾患とは、自分の体にとっての異物(ウイルス、細菌、腫瘍など)を排除するための役割を持つ免疫機能が、間違って自分自身の正常な細胞や組織に対して攻撃してしまう病気です。強皮症、全身性エリテマトーデス、多発性筋炎、多発血管炎性肉芽腫症などの病気があります。症状は病気によって異なります。心筋炎以外にも、発熱、皮疹、関節痛、筋肉痛などがあります。脳、皮膚、腎臓、神経、消化管など、病気によってさまざまな臓器に障害を認めることが特徴です。
自己免疫疾患は膠原病内科で診療しますが、まずは症状が出ている臓器を診察している診療科(目の症状なら眼科など)を受診しましょう。
急性心筋炎になりやすい人の特徴
20~40代の男性
急性心筋炎は全年齢で起こりえる病気ですが、20~40代の男性が心筋炎を起こしやすいと報告されています。原因は明らかではありませんが、可能性として男性ホルモン(テストステロン)が関係しているのではないかと考えられています。
遺伝的要因
筋肉を構成するタンパク質に「タイチン(titin)」といわれるものがあります。タイチンの設計図となる遺伝子を、タイチン遺伝子といいます。この遺伝子に異常があると、拡張型心筋症など心筋の病気を起こしやすくなります。さらに、このタイチン遺伝子の異常があると、心臓の筋肉の脆弱性のため、心筋炎を起こしやすくなると考えられています。
急性心筋炎の治療法
薬物療法
循環器内科で治療します。基本的に心筋炎そのものを治療する薬はありませんが、ウイルスや細菌によるものと特定された場合には、その感染症に対する抗ウイルス薬や抗菌薬が使用されることがあります。
心不全を発症している場合には、心不全に対する薬物療法を行います。むくみがある場合には、利尿剤を使用します。心臓の働きが弱っている場合には、強心薬(心臓の働きを助けるための薬。ドブタミン、ホスホジエステラーゼ(PDE)III 阻害薬など)が用いられます。
入院治療が必要であり、期間は重症度によって異なります。リハビリに関しては、心不全に対するリハビリと同様に行われます。
経皮的補助循環
循環器内科での入院が必要となりますが、心臓血管外科もある、循環器診療の体制が整った病院での治療となります。大動脈内バルーンパンピング(心臓の働きを助けるためのバルーンを大動脈内に留置)、インペラ(IMPELLA®)(左心室に留置し、血液循環を助ける機械)、VA-ECMO:体外式膜型人工肺(動脈と静脈に留置する、心臓と肺の代わりをする補助装置)などを使用します。
長期の入院が必要となり、心臓に対するリハビリも行われます。
免疫抑制療法
循環器内科で治療が行われます。急性心筋炎の中でも、好酸球性心筋炎や巨細胞性心筋炎などの特殊な心筋炎では、免疫抑制療法による生存率の改善効果が報告されています。好酸球性心筋炎とは薬のアレルギー、血液疾患(好酸球増多症候群)、寄生虫感染、自己免疫疾患などで、好酸球が増加し、好酸球が心筋に炎症を起こす病気です。巨細胞性心筋炎は多核巨細胞が心筋に浸潤することで発症する病気です。
入院は循環器内科で行いますが、まれな疾患であり、状態に応じて特定機能病院(高度医療の提供ができる病院)での治療が必要となります。
「急性心筋炎」についてよくある質問
ここまで急性心筋炎について紹介しました。ここでは「急性心筋炎」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
急性心筋炎の生存率はどれくらいでしょうか?
大沼 善正 医師
軽症で、合併症もない場合には、ほとんど問題なく回復します。ただし、急性心筋炎治療開始時に心機能が低下している(左室駆出率50%未満)、心室性不整脈が出ている、血圧が低く全身の状態が不安定の場合には、生存率が低くなるとされています。急性心筋炎全体でみると、5年で全体の約4%の人が心臓死または心臓移植を必要としたと報告されています(イタリアによるレジストリ研究3)
急性心筋炎を発症しやすい年齢層を教えてください。
大沼 善正 医師
急性心筋炎は全年齢で起こる病気ですが、その中でも20~40代の男性が発症しやすいといわれています。理由としては、男性ホルモン(テストステロン)の影響や、運動量の多さ、感染曝露の頻度の高さ、などの複合的な要素が考えられています。
編集部まとめ
急性心筋炎は入院治療が必要な病気です。かぜ症状の後に、胸痛、息切れ、動悸などが起こったときには、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
軽症の方では、ほとんど後遺症も残らず改善し、生存率も高いといわれています。ただし、重症であった場合には、心筋炎が治療終了した後も、障害が残る可能性があります。また心不全を起こしていた場合には、心不全と同様の治療を必要とします。
早期発見・早期診断が重要であり、治療後も主治医の指示に従って、定期的な病院受診を続けるようにしましょう。
「急性心筋炎」と関連する病気
「急性心筋炎」と関連する病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
呼吸器科の病気
消化器科の病気
急性心筋炎は、心筋梗塞や狭心症の鑑別も必要な病気です。胸痛や息切れがある場合には、循環器内科を受診しましょう。
「急性心筋炎」と関連する症状
「急性心筋炎」と関連している、似ている症状は9個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
急性心筋炎では、かぜ症状の後の胸痛、呼吸困難などを起こした場合に発見されます。疑わしい症状の時は、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。



