「大動脈瘤破裂」の前兆症状はご存知ですか?破裂すると現れる症状も解説!

大動脈瘤破裂とは?Medical DOC監修医が大動脈解離との違い・前兆・破裂すると現れる症状・破裂する原因・治療法・予防法などを解説します。

監修医師:
藤井 弘敦(医師)
目次 -INDEX-
「大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)」とは?
大動脈は、心臓から出た血液を全身へと送り出す、体の中で最も太い血管です。大動脈はその走行によって、胸部を通る「胸部大動脈」と腹部を通る「腹部大動脈」に分かれます。
大動脈の血管壁が弱くなり、一部が風船のように膨らむ、または突出した「瘤(こぶ)」のようになった状態を「大動脈瘤」と呼びます。
正常な大動脈の直径は、胸部で約30mm、腹部で約20mmとされており、これが1.5倍以上に拡大すると大動脈瘤と診断されます。膨らむ場所によって「胸部大動脈瘤」や「腹部大動脈瘤」と呼ばれています。
「大動脈瘤破裂」とは?
膨らんだ大動脈瘤が限界を超えて裂けることが「大動脈瘤破裂」です。 破れると大量出血がおこります。大動脈は太く流れも速いため、破裂すれば短時間で致命的な出血になり一瞬で命を脅かす非常に危険な状況を招きます。
「大動脈瘤破裂」と「大動脈解離」の違いとは?
「大動脈瘤破裂」と「大動脈解離」の違いについて解説しましょう。「大動脈瘤破裂」は、瘤状に膨らんだ大動脈壁が破れて血液が体外(胸腔や腹腔)に出血する病気です。一方「大動脈解離」は、大動脈壁の一番内側の膜(内膜)が裂け、血液が壁の真ん中の膜(中膜)に流れ込むことで層状に剥がれていく病気です。大動脈解離では、血液は血管の外にはでませんが、血液が流れる本来の通り道が狭まり(狭窄)、臓器に血が届きにくくなる(虚血)など重大な合併症を引き起こします。
どちらも命に関わる危険な病気です。
大動脈瘤が破裂する前に現れる前兆症状
多くの大動脈瘤は、初期はほとんど自覚症状がありません。しかし、瘤が大きくなると、破裂の前兆ともいえるサインが現れることがあります。これらの前兆を知っておくことで、早めの受診や治療につながることもあります。ここでは、特に注意すべき5つの症状について解説します。
胸や背中の痛み
胸部大動脈瘤が拡大してくると、胸や背中に鈍い痛みや圧迫感を感じることがあります。今までに感じたことのないような強い痛みや、急激に悪化する痛みがある場合は特に注意が必要です。
咳や血痰
大動脈瘤が気管や気管支、周辺組織を圧迫することで、長引く咳や、まれに血痰が現れることがあります。通常の風邪とは明らかに違うと感じた場合は注意が必要です。
声のかすれ(嗄声)
大動脈瘤が喉の近くを走る神経(反回神経)を圧迫すると、突然声がかすれたり、弱々しい声しか出なくなったりすることがあります。特に、急な声の変化がある場合は注意が必要です。
食べ物が飲み込みづらい(嚥下困難)
大動脈瘤が食道を圧迫すると、食事中に飲み込みにくさを感じることがあります。特に固形物が詰まるような感覚があれば、注意が必要です。
腹部や腰の痛み、拍動するしこり
腹部大動脈瘤の場合、お腹や腰に鈍痛を感じたり、臍周辺で拍動するしこり(腫瘤)に気づいたりすることがあります。痛みを伴う拍動性の腫瘤を感じた場合は、特に注意が必要です。
これらの症状に気づいた場合は、放置せずすぐに病院を受診してください。大動脈瘤が一度破裂してしまうと命に関わるため、迅速な対応が必要です。
なお、大動脈瘤は薬で進行を止めることはできず、基本的に外科的治療(手術)が必要となります。そのため、受診する際は、心臓血管外科・血管外科のある病院を受診しましょう。
大動脈瘤破裂すると現れる症状
突然の激しい痛みや意識が遠のく感じ -そんな症状が、大動脈瘤破裂のサインかもしれません。万が一のときにすぐ対応できるよう、どのような症状が出るのかをわかりやすくお伝えします。
今までにない激しい痛み
大動脈瘤が破裂すると、多くの場合、まず現れるのがこれまでに経験したことのないような強烈な痛みです。痛みは背中、胸、腹部、腰など前触れもなく急に現れるのが特徴です。
急激な血圧低下
破裂によって体内で大量の出血が起こると、血圧が急激に低下し、顔面蒼白、冷や汗、皮膚の冷感・湿り、手足の冷えなどが生じます。脈が速く、弱くなることもあります。
これらは体の循環が破綻しつつある状態であり、命の危険がすぐそこまで迫っている合図でもあります。
意識の消失やもうろうとする感覚
血圧の低下により脳への血流が不足すると、意識が遠のいたり、失神して倒れてしまったりすることがあります。「呼びかけに反応しない」「目の焦点が合わない」といった症状が見られた場合は、すでに重篤な段階に入っている可能性があります。
吐血や血便などの消化管出血
破裂が消化管に近い位置で起きた場合、大量の吐血や血便が突然現れることがあります。
なぜ、吐血や血便が起こるのか疑問に思われる方もいるかもしれません。これは動脈と消化管との間に異常な通路(動脈瘤—消化管瘻)ができ、大量の血液が消化管に流れ込む(外出血)非常に危険な状態なのです。
呼吸困難や息苦しさ
胸部大動脈瘤が破裂し、肺や気管に血液が漏れると、突然息が吸いづらくなったり、呼吸が浅く・速くなったりします。 苦しさが続く場合は、肺や心臓の周囲に重大な異常が起きている可能性が高く、緊急性は極めて高いです。
これらの症状が一つでも現れた場合は、非常に危険な状態で極めて緊急性が高いため、ためらわず救急車を呼び、ただちに医療機関を受診する必要があります。
大動脈瘤が破裂する主な原因
大動脈瘤の破裂には、日頃の生活習慣や体質が深く関わっていることがあります。原因を知ることで、予防や早期発見にもつながります。どのような要因があるのかを見ていきましょう。
動脈硬化
高血圧や脂質異常症、糖尿病などによって血管が硬くなり、弾力を失うと血管がもろくなります。 大動脈瘤はこうした動脈硬化の進行によってできやすくなり、破裂のリスクも高まります。
喫煙
たばこに含まれる有害物質は血管の内皮を傷つけ、動脈硬化を促進し、血管をもろくします。 喫煙は大動脈瘤の形成・進行・破裂すべてに関与する危険因子です。慢性的な咳や呼吸困難をきっかけに検査で見つかることもあります。
加齢
年齢とともに血管は自然と弾力を失い、大動脈瘤ができやすくなります。 特に65歳以上の男性では腹部大動脈瘤のリスクが高く、健診で偶然発見されるケースもあります。
遺伝性疾患(マルファン症候群・エーラス・ダンロス症候群など)
これらの病気は血管の壁が先天的に弱く、若年でも動脈瘤や動脈解離を起こしやすくなります。胸や背中の急な痛み、呼吸困難、失神などが初発症状となることがあります。
感染や炎症性疾患(感染性動脈瘤・大動脈炎症候群・ベーチェット病など)
細菌感染や免疫異常によって大動脈に炎症が起こると、血管がもろくなり動脈瘤が形成されやすくなります。発熱や倦怠感、原因不明の炎症反応に加え、背部や腹部の痛みを伴うことがあります。
外傷(事故や転落など)
交通事故や転落などの強い衝撃によって、もともと存在していた大動脈瘤が破裂することがあります。
これらの症状や背景に心当たりがある場合は心臓血管外科、血管外科、または循環器内科のある医療機関を受診することが重要です。
大動脈瘤は破裂すると命に関わるため、自己判断せずに早期の検査・治療が命を守るカギになります。
大動脈瘤破裂の治療法
大動脈瘤破裂は命に関わる緊急事態です。発症した場合はただちに心臓血管外科または血管外科での治療が必要となります。治療法は大きく分けて以下の2つがあります。
人工血管置換術(開胸・開腹手術)
破裂した部分を人工血管に置き換える治療法です。この方法は長い歴史があり、確実性と耐久性に優れた治療法です。しかし、大きな切開を伴うため、身体への負担が非常に大きくなります。
ステントグラフト内挿術(血管内治療)
カテーテルを用いて、股の付け根(鼠径部)などから人工血管(ステントグラフト)を血管内に挿入する方法です。これにより、破裂した部分を内側から覆い、血液の流出を止めることができます。小さな切開で済むため、人工血管置換術と比べて体への負担が少ないという利点があります。高齢者や人工血管置換術に耐えられない方にも適していますが、破裂した血管の場所や状態によっては、ステントグラフトが適用できない場合もあります。
どちらの方法も手術後は集中治療室(ICU)での厳重な管理が必要です。
大動脈瘤が一度破裂してしまうと、手術までたどり着けずに亡くなるケースも少なくありません。運よく手術までたどりつけたとしても、人工血管置換術の場合でもステントグラフト内挿術の場合でも、回復するまでは数週間から数ヶ月かかることがあります。
術後回復を促進するためにリハビリテーションは重要で歩行訓練や呼吸訓練などが段階的に行われます。退院後も、食事や入浴、排泄などの日常生活動作を取り戻すための訓練が続けられます。
また、手術や破裂の影響によって、歩行障害や腎機能障害などの後遺症が残ることもあり、術後の経過観察が重要となります。
大動脈瘤破裂の予防法
大動脈瘤破裂は、日頃の生活習慣を見直すことでリスクを下げることができます。一度できた大動脈瘤は自然に小さくなることはなく、治療薬も存在しません。そのため、破裂を防ぐには、何よりも動脈瘤を大きくしないよう経過観察を続けることが大切です。ここでは、日常生活でできる予防のポイントをご紹介します。
血圧管理
高血圧は、大動脈瘤の進行や破裂リスクを高める最大の要因です。塩分を控えた食事、十分な睡眠、ストレスの軽減などで血圧を安定させましょう。便秘によるいきみや、冬場の急な寒暖差でも血圧が上がるため、便通の調整や脱衣所の保温も効果的です。
禁煙
喫煙は大動脈瘤の形成・進行・破裂すべてに関与する、非常に強い危険因子です。たばこの有害物質は血管を傷つけ、動脈硬化を進め血管をもろくします。 とくに大動脈瘤を指摘された方、家族歴がある方にとって、禁煙は最も優先すべき予防策の一つです。
生活習慣の改善
野菜を多く含むバランスの良い食事、軽い運動、規則正しい生活を心がけましょう。糖尿病や脂質異常症、高血圧がある場合は、治療を継続することが動脈瘤の進行・破裂予防にもつながります。
定期検査
大動脈瘤は無症状のまま進行することが多く、自分では気づきにくい病気です。腹部エコーやCT検査などを活用し、定期的に状態を確認することで、早期発見と適切な対応が可能になります。
「大動脈瘤破裂」についてよくある質問
ここまで大動脈瘤破裂について紹介しました。ここでは「大動脈瘤破裂」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
大動脈瘤が破裂すると即死なのでしょうか?
藤井 弘敦 医師
大動脈瘤が破裂すると、その出血量や破裂した部位によっては即死の可能性もあります。しかし、必ずしも全ての方が即死するわけではありません。破裂の程度が比較的軽微なケースや、出血部位によっては、救急搬送され適切な治療を受けることで救命できる場合もあります。ただし、破裂後の状態は非常に危険であり、病院に到着する前に亡くなるケースも多く、早期発見と迅速な治療が命を守る鍵となります。
なお、搬送までの間に心肺停止に至った場合は、心臓マッサージなどの心肺蘇生が行われることもありますが、大動脈瘤破裂に対しては根本的な処置にはならず、あくまで応急的な対応となります。
大動脈瘤破裂で助かる確率はどのくらいなのでしょうか?
藤井 弘敦 医師
大動脈瘤破裂で助かる確率は、破裂した部位や患者さんの状態によって大きく異なり、一概には言えません。大動脈瘤破裂の具体的な生存率のデータはありません。大動脈瘤破裂は、病院に搬送される前に亡くなる方もいることを考慮すると、決して高い確率で助かるわけではありません。ただし、迅速に医療機関へ搬送され、適切な救命処置と手術が受けられた場合には、助かる可能性も十分にあります。
大動脈瘤破裂で亡くなる確率はどのくらいなのでしょうか?
藤井 弘敦 医師
大動脈瘤破裂で亡くなる確率は、破裂した部位によって異なります。胸部大動脈瘤破裂は病院に到達して手術が受けられた場合でも、術後の死亡率は約17〜30%とされています。また、腹部大動脈瘤破裂の場合も、肝臓や腎臓などいろいろな臓器の働きが悪くなる多臓器不全になると、死亡率は50%から70%に達し、手術に至っても依然として死亡率は高く予後不良な疾患です。さらに、これらのデータはあくまで病院にたどり着いた方の死亡率であり、病院に搬送される前に亡くなる方も多くいることを考えると大動脈瘤破裂は非常に危険性の高い病気です。
編集部まとめ
大動脈瘤破裂は、自覚症状がないまま進行し、ある日突然命に関わる状態に陥る非常に危険な病気です。破裂すると大量出血を引き起こし、救命できたとしても長期の入院やリハビリ、さらには後遺症が残る可能性もあります。
大動脈瘤破裂を防ぐには、動脈硬化や高血圧、喫煙といったリスク因子を早期にコントロールすることが何より重要です。大動脈瘤破裂は、発見の遅れが命取りになる病気です。年齢や症状に関係なく、定期的な検診と健康管理を心がけることが、最善の予防となります。
「大動脈瘤破裂」と関連する病気
「大動脈瘤破裂」と関連する病気は5個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
循環器科の病気
大動脈瘤を大きくしないことが重要です。大動脈瘤の原因を放置すると、瘤が大きくなり破裂につながります。
「大動脈瘤破裂」と関連する症状
「大動脈瘤破裂」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
血圧が高い状態を放置していると大動脈瘤破裂につながります。大動脈瘤が破裂すると激しい痛みが起こり、短時間のうちに致命的な状況になります。




