「大動脈瘤」ができる主な5つの原因・初期症状はご存知ですか?医師が徹底解説!
大動脈瘤とは?Medical DOC監修医が大動脈瘤が腹部・胸部のできる原因・それぞれの症状・できやすい人の特徴・治療法・予防法などを解説します。
監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
目次 -INDEX-
「大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)」とは?
大動脈は心臓から足まで血流を流す、体の中の最も太く、大きな血管です。
大動脈瘤は、「大動脈の壁の一部が膨らむ、または突出した状態」と定義されています。
成人の大動脈の正常径は、一般的に胸部が30㎜、腹部20㎜とされます。大動脈の壁の一部が局所的に拡張し、こぶ状に突出したり、嚢状に拡大した場合や、直径が正常径の1.5倍(胸部で 45 mm,腹部で 30 mm)を超えて拡大した場合に「大動脈瘤」と診断されます。
大動脈瘤ができる主な原因
大動脈瘤は、血圧や脂質、血糖などによる影響や、喫煙、食生活、ストレスなど生活習慣による動脈硬化によって引き起こされます。
大動脈瘤の原因について、解説します。
生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)
血圧、血糖、脂質が高くなることで生活習慣病が引き起こされて、血管壁に負担がかかるため、大動脈瘤を発症しやすくなります。
生活習慣病の予防のために、塩分摂取が多くならないようにする、脂質・糖をとりすぎない、1日の摂取カロリーを適正にする、バランスの良い食事、適度な運動習慣を持つことで、生活習慣病を予防することができます。
また、もし生活習慣病を発症してしまった場合でも、生活習慣を改善し、適切に薬剤を利用することなどで、状態をコントロールすることが大切です。
喫煙やストレス
喫煙は血管の障害を引き起こす最も大きな要素の一つです。
大動脈瘤の患者さんでは、喫煙歴がある人が多いことは様々な臨床研究で確認されています。最近では本人だけでなく、副流煙でも起こりやすくなるとする報告もあります。
また、過度の精神的・肉体的なストレスも交感神経を興奮させ、血圧を上げ、血管に負担をかけてしまうことで、大動脈瘤などの血管の病気を発症しやすくすることが知られています。禁煙をすることや、日常生活での十分な休養や睡眠をとる、過度のストレスを避けるといったことが大切です。
遺伝(マルファン症候群など)
頻度は多くはありませんが、マルファン症候群などの、特殊な遺伝性の病気も大動脈解離の原因となることが知られています。マルファン症候群は5000-10000人に1人程度で発症するとされており、体内のコラーゲンを形成する遺伝子異常のため、血管壁など全身の結合組織が弱くなってしまう遺伝性の病気です。
大動脈の血管壁の弾力性が低下し、組織の結合が緩くなることで、大動脈瘤が生じやすくなってしまいます。
外傷性
外部からの損傷によって血管壁が損傷を受け、大動脈瘤を生じてしまうことがあります。
炎症性、感染性
血管炎などの炎症性疾患や、血管・血管周囲への感染が原因となり、大動脈の壁に障害を与え、動脈瘤を形成することがあります。
大動脈瘤ができると現れる症状
大動脈瘤の大半は無症状であることが多く、画像検査で偶然見つかるケースが多いです。
しかし、大動脈瘤の部位や大きさによっては症状が出現する可能性もあります。
主な症状としては以下のようなものがあります。
咳、息苦しさ、血痰
胸部の大動脈瘤が大きくなることで、空気の通り道である気道や肺が圧迫されることで、咳や息切れ・息苦しさ、血痰などの症状が出現することがあります。
ものが飲み込みにくくなる(嚥下障害)
胸部の大動脈瘤が大きくなり、食べ物の通り道である食道を圧迫してしまうことで、物理的にものを飲み込みにくくなってしまう、嚥下障害の症状が出現することがあります。
声が枯れる(嗄声)、誤嚥
胸部の大動脈瘤が大きくなることで、声帯の動きをつかさどる反回神経を圧迫し、反回神経の障害を生じてしまうことがあります。そうすると、声が枯れる嗄声、飲み込むときに気管に入ってしまう誤嚥を起こしやすくなります。
大動脈瘤が破裂すると現れる症状
大動脈瘤は破裂してしまうと致死率が非常に高く、多くは病院到着前に死亡し、緊急手術を実施しても入院中に20-40%がなくなってしまう、非常に予後が悪い病態です。
大動脈瘤が破裂した場合に生じる症状は、以下のようなものがあります。
非常に強い痛み
大動脈瘤が破裂する際には、胸や腹部など大動脈瘤がある場所に、非常に強い胸痛や腹痛が生じます。
胸腔内や腹腔内に大出血を起こすと、急激な血圧低下を生じ、一気にショック状態となり意識がなくなり、そのまま亡くなることもあります。
突然死
大動脈瘤破裂によって、胸腔内や腹腔内に出血を起こすと多量の血液が喪失するため、急激な血圧低下によるショック状態となり、突然死に至ることが多いです。
大動脈瘤ができやすい人の特徴
生活習慣病がもとになり発症する事が多いですが、生活環境や嗜好品、遺伝的な要因なども原因となる事があります。大動脈瘤になりやすい人の特徴としては以下のようなものがあります。
生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病血圧)がある
生活習慣病によって動脈硬化が進行することで、血管壁に障害が加わり、大動脈瘤を発症しやすくなります。
特に生活習慣病を治療せずに放置している未治療の状態や、治療経過が長い、通院していてもコントロールが悪い場合にはリスクが高まります。
喫煙者
喫煙は動脈硬化を進行させる大きな要因の一つであり、大動脈瘤の増大、破裂、死亡の最大のリスク因子であるとされています。喫煙することによって、非喫煙者に比べて3-5倍のリスクとなります。
遺伝的な素因がある方
家族内で大動脈瘤や大動脈解離などになった方が多い場合や、それによると思われる突然死が多い場合には、Marfan症候群や Ehlers- Danlos症候群といった血管の壁が脆弱になる特殊な遺伝疾患が関与している可能性があります。これらの疾患では、血管壁の障害が発生しやすくなり、大動脈瘤を引き起こしやすくなります。
大動脈瘤の治療法
大動脈瘤は、一定の大きさを超えるまでは高血圧などの生活習慣病の管理が中心となりますが、手術が必要な大きさとなる場合や、急激な進行を認めるとき、合併症が出現する場合には外科治療で根治治療を行います。
ここでは、どのような治療があるか解説します。
薬物治療
大動脈瘤が発生しても、手術適応となるような大きさ、状態ではない場合には、血圧などの管理を厳格に行う、生活習慣病管理を中心とした内科的治療が行われます。
高血圧の場合、年齢にもよりますが、血圧130/80mmHg以下を保つことが重要です。
ステントグラフト内挿術
ステントグラフトとは、人工血管に、ばね状の金属の筒(ステント)を取り付けたものです。これを小さく圧縮した状態で、カテーテルという細い管に収納した状態で病変部までもって行き、大動脈瘤などの病変部の血管内で拡張させ、血管を内側から補強します。
胸を大きく切るような大掛かりな手術ではないため、胸やお腹を大きく切って行う人工血管置換術よりも負荷が少なく、高齢者や合併症があるような、通常の外科手術のリスクが高い場合でも実施しやすいメリットがあります
しかし、すべての部位に実施できるわけではなく、病変の部位や動脈瘤の状態、患者の病状などによって、その適応が判断されます。
人工血管置換術
大動脈瘤が生じた血管を、人工血管と置き換える手術です。胸やお腹を大きく切って行うため体にかかる負担が大きく、人工心肺を使用して行うことも多いため、体の負荷が大きい手術になります。大動脈瘤の場所によっては、大動脈弁置換術など、より広範囲の血管置換を行うこともあります。
病変の部位によっては、外科的な人工血管置換術とステントグラフト内挿術を併用したハイブリット手術が行われることもあります。
大動脈瘤の予防法
大動脈瘤は、生活習慣病や動脈硬化を進行させる生活習慣が原因となることが多く、発症を予防するためには血圧や脂質、血糖が高くならないようにする、生活習慣に気を付けることが非常に重要となります。
生活習慣に気をつける
多くの心疾患は動脈硬化が原因となるため、最も基本的な点は生活習慣に気をつける事です。気をつけるポイントとしては、以下のような点があります。
・塩分をとり過ぎない:1日の塩分量は6g以下を意識する
・カロリーをとり過ぎない:通常成人では、年齢や活動量に応じて1800-2600kcal程度のカロリー摂取が推奨されます。さらに、野菜や果物の積極的な摂取、脂分が多い食品をとり過ぎないことが推奨されます。
・太り過ぎない:BMI(体重[kg]÷身長[m]2)25未満を心がける
・運動習慣:軽く汗ばむ位の有酸素運動を1日60分(歩行なら1日8000歩以上)行う
・節酒:エタノールとして1日、男性20-30ml(日本酒1合、ビール中瓶2本、焼酎0.5合、ワイン2杯、ウイスキーダブル1杯に相当)、女性は約半分の10-20ml以下の制限が推奨されます。
・禁煙:喫煙は高血圧、心臓・脳血管疾患、肺疾患、悪性腫瘍等、様々な疾患リスクとなる事が証明されています。大動脈瘤などの血管疾患への影響も非常に大きいです。
健康診断、定期的な検査を受ける
大動脈瘤の原因となる高血圧等の生活習慣病や大動脈瘤は、定期的に健康診断や人間ドックなどを受けて、身体診察、心電図やレントゲン、採血検査、画像検査等を受けることで早期の診断、早期治療に繋げることが可能です。
より早い段階で診断・治療を行う事で、危険な状態になるまで病気を放置する事がなくなり、大動脈瘤による危険を下げることができます。
治療している病気をしっかりコントロールする
動脈瘤の原因となるような病気は、生活習慣病など慢性的な病気が多いため、適切な治療を受けることで病気の進行や血管に過度の負荷がかかる事を防止する事ができます。
高血圧や脂質異常、糖尿病などの生活習慣病は、治療が不十分であったり、治療を中断してしまうと動脈硬化を進行させ、血管の負担を増やして障害を与えてしまい、大動脈瘤を引き起こしてしまいます。内服をしっかり継続する事、医師による定期的な病状評価をうけること(診察や検査)、治療が不十分であれば治療強化を検討する事が非常に重要です。
「大動脈瘤」についてよくある質問
ここまで大動脈瘤について紹介しました。ここでは「大動脈瘤」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
大動脈瘤の初期症状について教えてください。
小鷹 悠二 医師
初期の大動脈瘤は無症状なことが大半です。
ただ、部位によっては比較的早い段階でも、前述のような咳や呼吸への影響、飲み込みにくさ、声枯れなどの症状が出現することがあります。
大動脈瘤を手術した場合の入院期間を教えてください。
小鷹 悠二 医師
治療する部位や術式、緊急手術かどうか、本人の年齢や体力、合併症など、様々な要因によって変わります。
予定して行う待機的手術の場合、2-3週間前後となることが一般的です。基本的にはステントグラフト内挿入術の方が、外科治療よりは短期間の入院となります。
緊急手術の場合は、より状態が悪い状態で手術を行うため、より長期間の入院とリハビリが必要になることが多いです。そのため1か月以上の入院となることもあります。
編集部まとめ
大動脈瘤は、進行して破裂してしまうと命の危険もある非常に危険な疾患です。
どのような病気か正しく理解し、適切な予防策を講じることでリスクを下げることができるため、少しでも皆さんの健康を守るためにお役立ていただければと思います。
「大動脈瘤」と関連する病気
「大動脈瘤」と関連する病気は5個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
主に生活習慣病が原因となって発症することが多いと言われていまが、生活環境や嗜好品、遺伝的な要因なども原因となることがあります。
「大動脈瘤」と関連する症状
「大動脈瘤」と関連している、似ている症状は7個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 胸痛や腹痛
- 突然死
- 咳
- 息切れ、呼吸困難
- 声枯れ
- 誤嚥
- 飲み込みの障害(嚥下障害)
大動脈瘤が進行して破裂すると致死率が高いので注意を要する病気です。多くは症状がないのですが、大動脈瘤の部位や大きさによっては上記のような症状が出現することもあります。