「肝臓がん」を発症すると「背中にどんな痛み」を感じる？医師が徹底解説！

「肝臓がん」とは？

肝臓がんとは肝臓にできる癌のことです。狭義には肝臓の細胞(肝細胞)からできる肝細胞癌、広義には肝細胞癌や肝内胆管癌、転移性肝癌などを示します。
肝臓がんになった場合は黄疸や倦怠感、腹水、腹痛など様々な症状が出てくることがあります。ここではそのうち痛み、特に背中の痛みについて解説していきます。

肝臓がんを発症すると背中にどんな痛みを感じる？

鈍痛

肝臓がんが大きくなってくると腫瘍の圧迫により鈍い痛みを感じる場合があります。痛みの感じ方はそれぞれですが、多くはお腹、特に右の肋骨の下あたりに痛みを感じる人が多いです。

背中や肩に響くような嫌な痛み

肝臓がんが大きくなって周囲の神経を圧迫した場合などは背中や肩にかけての痛みが出ることがあります。痛みの感じ方は人それぞれであり、ビリビリと走るような痛みという人もいれば、刺すような痛み、しびれなどと感じる人もいます。

肝臓がんを発症すると背中のどこに痛みを感じる？

背中～肩

肝臓がんの場合は背中から肩にかけて走るような嫌な痛みが出ることがあります。これは腫瘍が大きくなり、周囲の神経を圧迫することにより、その神経が走っている部位に痛みが広がるものです。
この痛みの場合は肝臓がんがある程度進んでも出ることがありますが、その他心臓など内臓が原因でも起こり得ます。このような症状が続く、痛みがひどい場合は一度内科を受診しましょう。耐え難い痛みの場合は救急受診も検討しましょう。

背中～腰

肝臓がんで痛みを感じる場合、その多くはお腹、とくに右側の脇腹や上の方の痛みを感じる人が多いでしょう。しかしながら、時には背中の方に痛みを感じる場合があります。この一因としては、腫瘍自体がかなり大きくなってしまい、お腹だけでなく背中の方向まで圧迫してしまい、背中に鈍い痛みが出るというものです。このような痛みが続く場合は一度内科、消化器内科を受診しましょう。
また、背中から腰にかけての痛みが出る場合は肝臓がんが背骨に転移している場合もあります。骨への転移による痛みの場合は痛み止めの薬だけではなく、放射線などによる治療が必要となることもあります。骨転移が出てくる場合は既に肝臓がんでどこかの病院に通院している場合が多いでしょう。消化器内科、腫瘍内科などで主治医と一度相談しましょう。

その他

肝臓がんの場合は背中以外にお腹の痛みを感じることも多いでしょう。腫瘍が大きくなってきた場合などはお腹の右上、肋骨の下あたりに鈍い痛みを感じることも多いでしょう。
痛みが続くなどであれば一度内科、消化器内科を受診するようにしましょう。

肝臓がんを発症すると背中に痛みを感じる原因

腫瘍の圧迫

腫瘍がかなり大きくなった場合、腫瘍自体でお腹だけではなく背中の方向まで圧迫し、背中の痛みが出ることもあります。

放散痛

放散痛とは元の病気がある場所と異なる場所に痛みを感じるものです。原因としては腫瘍が大きくなることによる周囲神経の圧迫です。
肝臓がんが原因での放散痛の場合は右肩～背中にかけての痛みを感じる場合があります。

骨転移

肝臓がんが進行すると骨に転移することがあります。転移する部位として多いのは脊椎や肋骨が挙げられ、これらに転移を起こすとその影響で背中の痛みが出ることがあります。骨転移は肝臓の外に転移を認めるうちの5～14％に認められると報告されており、骨転移を認めた場合、肝臓がんのステージは末期(StageⅣ)となってしまいます。
骨転移による痛みが肝臓がんの初発症状となることは稀です。多くは肝臓がんの治療を行っている間に症状が出現するでしょう。痛みが出てきた場合、多くは痛みに対する治療となります。消化器内科、もしくは腫瘍内科主治医と相談しましょう。

胆管炎

肝臓の中には胆管という胆汁(肝臓で作られる消化液)を流す管が走っています。肝臓がんによりその管がふさがってしまった場合、胆汁の流れを塞いでしまいます。すると胆汁が管の中に溜まってしまい、その部分に細菌感染を起こすことがあります。胆管炎の場合は腹痛、黄疸、発熱などの症状が出てきますが、時には背部痛を認めることもあります。
胆管炎の場合は重症感染症ともなり得るため、早めの病院受診が必要です。内科、消化器内科を受診しましょう。かなりの高熱が出たり、意識が悪くなったりした場合は救急を受診しましょう。

肝臓がんを発症し背中の痛みも伴う場合のステージ分類とは？

ステージ

肝臓がんで背中の痛みが出ている場合、そのほとんどは初期ではないでしょう。肝臓がんは初期では自覚症状が出にくく、腫瘍が大きくなることで周囲の神経などを圧迫して痛みを認めたりします。特に背中に痛みが出ている場合はかなり腫瘍が大きくなっていたり、ガンが複数出来ていたりすることが多いでしょう。また、骨転移などが原因で背中に痛みが出ている場合は末期(StageⅣ)となります。
肝がんの場合、肝臓の機能がどの程度残っているか、また、癌の大きさ、個数などにより治療が異なってきます。ステージが進行し、ガンが大きくなってしまっていたり、骨転移などを起こしていたりすると、手術など根治ができなくなり、抗がん剤などの治療となります。

肝臓がんの前兆となる初発症状

肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、癌や肝硬変により肝臓の機能がある程度侵されていてもなかなか自覚症状が出てきません。ある一定のところまで肝臓の機能が侵されると自覚症状が出てくるのですが、自覚症状が出てきて肝臓がんに気づいたときには、「すでにガンがかなり進行していた」という状況であることも十分にあり得ます。一方で肝臓がんになる人はその前に慢性肝炎や肝硬変になっていることが多いでしょう。
ここでは肝臓がんやその前段階の慢性肝炎、肝硬変になるとどのような症状などが出るか解説します。

倦怠感

肝臓がんの原因として慢性肝炎、肝硬変などが挙げられます(下記参照)。その症状として、身体のだるさなどが出てくることがあります。慢性肝炎や肝硬変になると必ず肝臓がんになるかというとそうではありません。しかし、その時点で治療を行えば肝臓がんになるのを防いだり、定期検査を行うことにより早期発見でき、根治治療につながる可能性が上がります。また、肝臓がんになっていた場合も、ある程度ガンが進行していると身体のだるさが出ることがあります。身体がずっと重い、だるいなどが続く場合は一度内科を受診し検査を行いましょう。

肝機能障害

肝臓がんやその前段階とも言える慢性肝炎、肝硬変となった場合、健診などで血液検査を行った際、肝機能の値に異常が出ることがあります。血液検査の数値上での肝機能異常があっても、お腹の痛みや黄疸など自覚症状があるかというとない場合も多いでしょう。しかしながら肝臓がんとなった場合は自覚症状が出始めるとすでにかなり進行しているという場合も多いです。肝機能障害が出てきた場合は一度内科、消化器内科で検査を行うようにしましょう。

その他の症状について

上記の通り、肝臓がんの場合は初期ではあまり自覚症状が出ないことが多いでしょう。肝臓がんの症状としては腹痛、お腹の張り(腹水)、掻痒感、黄疸、息苦しさなどがありますが、これらの症状が出てきたときには癌がかなり進行している場合が多いでしょう。
肝臓がんになっていなかったとしても、その前段階の肝硬変などになっている可能性は十分にあります。一度内科・消化器内科を受診し、検査を受けるようにしましょう。

肝臓がんの主な原因

肝臓がんの原因は様々ですが、その多くは慢性肝炎や肝硬変を元として発生します。ここでは主な原因について解説します。

ウイルス感染(肝炎ウイルスなど)

肝炎ウイルス、その中でもB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染してしまった場合、肝臓の炎症が続き、慢性肝炎(肝臓がダメージを受け、6か月以上肝機能障害が続くもの)になることがあります。この状態を放置しておくと、慢性肝炎から肝硬変、肝臓がんへ進行してしまうことがあります。
肝炎ウイルスに感染した場合、急性肝炎となり、発熱、倦怠感、意識障害などの症状が出ることもありますが、感冒と同じような症状が出て気づかれなかったり、そもそも自覚症状がほとんどなく感染に気付かれなかったり、という状況もあり得ます。健診などで肝臓の異常を指摘され、消化器内科を受診し精密検査を行ってわかる、もしくは他の病気の治療でウイルスを調べて感染に気付く、という状況が多いでしょう。
肝機能異常が指摘されたり、肝炎ウイルスの感染が指摘された場合は消化器内科を受診しましょう。

飲酒

アルコールを大量に飲む、飲み続けた場合、肝臓にダメージが起こることがあります。アルコールを飲み続けることにより、そのダメージが蓄積、もしくは炎症が慢性的に持続し、肝硬変、肝臓がんに進行してしまうことがあります。肝硬変となってしまった場合は治りません。肝炎の状態であれば、アルコールをやめることにより症状も肝臓も良くなるので、その段階での治療が重要です。
アルコールによる肝機能障害や肝炎の治療はまず断酒、禁酒です。アルコール性肝機能障害・肝炎では、アルコールを断つことにより肝機能が改善します。ただし、一旦よくなったからと言ってまたアルコールを飲んでしまうとすぐに元に戻ってしまうことも多い病気です。アルコール性肝疾患になってしまった場合は禁酒断酒をし続けることが最も重要です

脂肪肝

肥満により肝臓に脂肪が蓄積された場合も肝臓に演奏が起こることがあります。その炎症が続いてしまうと同様に慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんと進行してしまうことがあります。
脂肪肝の人がガンになる確率は高くはありませんが、逆にウイルス感染が原因ではない肝臓がんのうち、脂肪肝から進行するものが原因となっている者の割合は増加してきています。
たかが脂肪肝と思わず、肝機能異常などが指摘された場合は一度内科、消化器内科を受診し検査を行いましょう。
この場合は基本的に食生活の改善や運動などが一番の治療となります。肝硬変や肝臓がんになってからでは元に戻らないため、早めの治療が重要です。

肝臓がんの検査法

肝臓がんが疑われた場合、どのような検査を行うのでしょうか。ここでは主な検査について解説していきます。

血液検査

血液検査では肝臓の酵素を見たり、たんぱく質などの肝臓で作られるものを測定することで肝臓の機能がどの程度かを確認します。またその他、腫瘍マーカーを確認したりします。
血液検査は健診で行ったり、一般内科などでたまたま検査を行った時に肝機能異常が指摘され、肝臓がん発見のきっかけになったりします。
肝臓がんの精密検査は消化器内科で行いますが、ここでも検査項目を変えて改めて血液検査を行うことが多いでしょう。

腹部エコー検査(腹部超音波検査)

腹部エコー検査は超音波を使って肝臓を観察する検査です。お腹にゼリーを塗った検査器具をあてて行う検査で、他の検査に比べて身体への負担がかなり少ないことが特徴です。そのため、腹部エコー検査は肝臓がんの検査としても初めに行われるほか、健診などでも行われることが多い検査です。肝臓の状態を確認するのにはかなり適した検査であり、肝硬変の患者さんにも肝臓がんができていないか定期的に繰り返し行ったりします。その一方で、かなりの肥満や肝臓がかなり小さくなってしまっている(萎縮している)人は十分に観察できない場合もあります。
また、通常の腹部エコーで腫瘍などが疑われた場合は造影エコー検査を行うことがあります。これはソナゾイドというものを血管の中に投与し、エコー画面を見て腫瘍の血流をリアルタイムで評価する検査です。通常、CT検査やMRI検査で使用する造影剤は腎機能障害のある人や気管支喘息の人などには使用できませんが、このソナゾイドであればそのような人でも安全に検査を行うことができます。
検査で腫瘍が疑われた場合は、腹部エコーを行いながら体の外(皮膚)から針をさして肝臓の組織を直接採取し診断をつける検査(肝生検)を行うこともあります。腹部エコー検査は通常外来で行う検査ですが、肝生検を行う場合は2、3日入院での検査となります。

造影CT検査

血液検査や腹部エコー検査で肝臓がんなどの腫瘍が疑われた場合は精密検査として腹部造影CTを行うことがあります。これは血管の中に造影剤という薬を入れてCTを撮る検査です。造影剤を使うことにより、肝臓、腫瘍の血流を評価することができ、さらに投与後の時間を分けて撮影することにより詳細な評価ができるようになります。
ただし、この造影剤はアレルギーが出やすいため喘息の人には使いにくく、また、腎臓に負担をかけるため腎不全、腎機能障害のある人は使用できないことがあります。

MRI検査

MRI検査も血液検査や腹部エコー検査で肝臓がんなどの腫瘍が疑われた場合に精密検査として行います。MRIは磁気を使用して肝臓などの内部組織の性状を詳しく見る検査です。この検査でも造影剤を指標して血流を含め詳しく評価することがあります。
MRIの場合はCTよりも時間が長く、20～30分ほど狭い機械の中に入っているため、閉所恐怖症の人は受けることができない、という場合があります。また、磁力を使用するため、体内金属、特にペースメーカーが入っている人は受けることができません。