「膵がん」は“手術前の抗がん剤”で生存率が改善する可能性 東北大学の新研究

東北大学の研究員らは、切除可能な膵管腺がん(PDAC)患者に対して手術前に抗がん剤治療をおこなうことで、生存率が延びる可能性を報告しました。研究では、従来の先行手術群と比較して、術前化学療法群で全生存期間が有意に延長していることが明らかになり、術前治療の新たな有効性が注目されています。この内容について中路医師に伺いました。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
東北大学の研究員らが発表した内容を教えてください。
中路先生
東北大学の研究員らは、切除可能な膵管腺がん患者に対して、手術の前に抗がん剤治療をおこなうことが、従来の先行手術と比べて有効かどうかを検証しました。研究では、動脈への浸潤がない切除可能な膵管腺がん患者364人を対象に、「先に手術をおこなう群」と「ゲムシタビンとS-1を併用した術前化学療法をおこなった後に手術をする群」に無作為に割りつけました。ゲムシタビンは1日目と8日目に静脈投与され、S-1は1日2回、14日間経口投与されるという内容で、これを3週間ごとに2サイクルおこないました。
その結果、術前化学療法を受けた群では全生存期間の中央値が37.0カ月となり、先行手術群の26.6か月と比べて明らかに延長していました。また、無再発生存期間についても、術前化学療法群の方が優れていました。死亡や再発のリスクも有意に低下しており、統計的にも有意な差が確認されています。
これらの結果から「切除可能な膵管腺がん患者に対しては、ゲムシタビンとS-1を併用した術前化学療法をおこなうことにより、生存期間の延長が期待できる」と結論づけられました。
研究テーマになった膵管腺がんとは?
今回の研究テーマに関連する膵管腺がんについて教えてください。
中路先生
膵管腺がんは、膵臓の消化酵素を分泌する膵管の上皮から発生する、最も一般的な膵がんです。特に50〜70歳の高齢の男性に多くみられ、初期には症状が出にくいため、発見が遅れがちです。進行すると、上腹部痛や背中の痛み、体重減少、黄疸といった症状が表れることもあります。また、膵管腺がんはリンパ節や肝臓、腹膜へ転移する可能性が高く、治療には手術だけでなく化学療法も重要となります。家族歴や糖尿病、喫煙などが発症のリスク要因とされており、特に糖尿病を新たに発症した人は注意が必要です。膵管腺がんは早期発見が鍵となるので、日頃から体調の変化に気を配り、気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。
膵管腺がんに関する研究内容への受け止めは?
東北大学の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。
中路先生
従来、切除可能な膵がんに対する標準治療は、先行手術と術後半年間の抗がん剤投与でした。しかし、術後の体力低下などのため、忍容性が得られないため、十分な抗がん剤治療がおこなえない症例も多く、治療成績の向上が得られないなどの問題点が指摘されていました。今回の研究は、術前化学療法が切除可能な膵管腺がんの治療成績を改善することを、世界で初めて証明した画期的な研究として高く評価されます。今回の東北大学の研究結果は、膵管腺がんに対する標準治療を変え、患者の予後を改善するインパクトを持っていると言えるでしょう。
編集部まとめ
今回の研究では、手術の前にゲムシタビンとS-1を用いた抗がん剤治療をおこなうことで、従来の先行手術と比べて膵管腺がんの生存期間が大幅に延びることが明らかになりました。膵管腺がんは早期発見が難しいからこそ、日頃から体調の変化に敏感になり、気になる症状があれば早めに専門医に相談しましょう。
※提供元「日本がん対策図鑑」【膵がん:周術期治療(OS)】「ゲムシタビン+S-1→手術」vs「手術→S-1」
https://gantaisaku.net/prep-02/