「大腸がん」治療の選択肢を広げる新たな研究結果 キイトルーダで生存期間が延長

国際共同研究であるKEYNOTE-177試験の5年間の大腸がん治療に関する追跡調査結果が、欧州臨床腫瘍学会が発行する「Annals of Oncology」に掲載されました。この内容について、中路医師に伺いました。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
KEYNOTE-177試験の5年間の追跡調査結果の内容を教えてください。
中路先生
KEYNOTE-177試験は、MSI-H/dMMRの転移性大腸がん患者に対するペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)と化学療法の有効性と安全性を比較した、第III相の国際共同試験です。23カ国の193施設で実施されました。
この試験では、未治療のMSI-H/dMMRの転移性大腸がん患者307人を無作為に、ペムブロリズマブ群(153人)と化学療法群(154人)に割り付けられました。5年以上の追跡調査の結果、ペムブロリズマブ群の無増悪生存期間(PFS)の中央値は16.5カ月、化学療法群は8.2カ月、全生存期間(OS)の中央値はそれぞれ77.5カ月と36.7カ月でした。また、ペムブロリズマブ群の奏効期間の中央値は75.4カ月と長く、有害事象の発生率も低く、安全性が高いことが確認されました。
これらの結果から、MSI-H/dMMRの転移性大腸がん患者に対して、ペムブロリズマブ(免疫療法)が従来の化学療法よりも効果的で安全であることが示されました。ただし、本試験の懸念点として、化学療法群の62%がペムブロリズマブにクロスオーバーし、全生存期間の差が過小評価された可能性はあります。今後、より厳密な診断基準やクロスオーバー補正解析が求められます。
研究テーマになった疾患とは?
今回の研究テーマに関連する大腸がんについて教えてください。
中路先生
大腸がんは、大腸の内側にできる悪性の腫瘍で、日本では特にS状結腸や直腸に多く発生します。初期には自覚症状がほとんどありませんが、進行すると血便や便秘、下痢が続くなどの便通異常、お腹の張り、体重の減少といった症状が表れます。放置すると、がんがリンパ節や肝臓、肺に転移する可能性があるため、注意が必要です。
大腸がんは、ポリープががん化する場合と、正常な粘膜から直接発生する場合があります。大腸がんの家族がいる場合や、リンチ症候群や家族性大腸腺腫症といった遺伝性の病気、潰瘍性大腸炎やクローン病などの基礎疾患がある場合は、発症のリスクが高くなります。
大腸がんの予防には、食物繊維を多く含む食事を心がけ、脂っこい食事を控えることが大切です。適度な運動を取り入れ、禁煙を意識することも有効とされています。大腸がんは、早期に発見すれば治療しやすいため、便潜血検査や大腸内視鏡検査を定期的に受けることが推奨されます。血便や便通の異常が続く場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診しましょう。
研究内容への受け止めは?
KEYNOTE-177試験の5年間の追跡調査結果についての受け止めを教えてください。
中路先生
KEYNOTE-177試験の結果は、MSI-H/dMMRの転移性大腸がんの治療に対して、免疫療法を一次治療の中心とする新たな治療指針を示しています。今後の課題として、一次治療を決定する際のMSI検査の必須化やペムブロリズマブ群での早期増悪例に対する効果予測マーカーの開発が必要と考えられます。ただし、腫瘍の特性や患者の個々の状態に合わせた治療が重要であり、今後のさらなる症例の蓄積が必要と考えます。
編集部まとめ
KEYNOTE-177試験の5年間の追跡調査により、MSI-H/dMMR転移性大腸がん患者に対するペムブロリズマブの有効性が明確になりました。本研究の成果は、大腸がん治療の選択肢を広げ、より多くの患者に最適な治療を提供するための大きな一歩となるでしょう。がんと向き合うすべての人々が、よりよい治療を受けられるよう、今後の研究にも期待が寄せられます。
※提供元「日本がん対策図鑑」【MSI-H/dMMR大腸がん:一次治療(5年OS)】「キイトルーダ」vs「化学療法」
https://gantaisaku.net/keynote-177_5os/