「大腸がん」はカルシウムで防げることが研究で判明 “牛乳の摂取”が予防のカギ

イギリスのオックスフォード大学らの研究グループは、54万2778人の女性を約16.6年間追跡して、食生活と大腸がんリスクの関連を詳細に分析しました。研究結果は学術誌「Nature Communications」に掲載されています。
この内容について中路医師に伺いました。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
イギリスのオックスフォード大学らの研究グループが発表した研究の内容を教えてください。
中路先生
今回紹介する研究は、イギリスで54万人以上の女性を対象におこなわれた大規模調査で、大腸がんリスクと食生活の関連を分析したものです。調査では、アルコール摂取がリスクを増加させる一方、カルシウム摂取がリスクを低下させることが確認されました。また、乳製品(牛乳・ヨーグルト)やリボフラビン、マグネシウム、リン、カリウムといったカルシウム関連の栄養素にも予防効果が示されました。特に遺伝的要因を考慮した「メンデルランダム化解析」では、牛乳摂取が大腸がんリスクを低下させるという因果関係が示されました。さらに、全粒穀物、果物、食物繊維、葉酸、ビタミンCなどもリスク低減と関連がみられた一方で、赤肉や加工肉の摂取はリスク増加と関連していました。加工肉や赤肉に含まれるヘム鉄や高温調理で生成される発がん性物質が、大腸がんの原因と考えられています。
これらの結果から、乳製品やカルシウムが大腸がん予防において特に重要であることが示されました。カルシウムは腸内で胆汁酸や脂肪酸を結合し、発がん性を低下させる可能性が指摘されており、今後さらなる研究が期待されます。ただし、この研究にはいくつかの懸念点もあります。例えば、対象者の多くが中年から高齢の欧州系女性であるため、結果の一般化には注意が必要です。また、乳糖不耐症が多い非欧州系集団では、牛乳摂取の効果は異なる可能性があるでしょう。
大腸がんとは?
今回の研究テーマに関連する大腸がんについて教えてください。
中路先生
大腸がんは、結腸や直腸に発生する悪性腫瘍であり、消化管の最後の部分にある臓器に起こる病気です。大腸は食べ物が消化された後の水分を吸収し、便を形成する役割を持っています。この大腸の表面を覆う粘膜からがん細胞が発生し、悪性化して腫瘍となることで進行します。大腸がんは、腺腫という良性ポリープが時間をかけてがん化して発生する場合が多いですが、正常な粘膜から突然がんが発生する場合もあります。
初期の大腸がんは自覚症状がほとんどないため、検診や検査を受けない限り発見が難しい病気です。進行するにつれて、血便、便が細くなる、便秘や下痢といった排便習慣の変化、残便感、貧血、腹痛、嘔吐などの症状が表れることもあります。さらに、大腸がんは進行すると、がん細胞が大腸の壁を超えて、ほかの臓器やリンパ節に転移することがあるため注意が必要です。
大腸がんの治療法は、がんの進行度や患者の健康状態によって異なり、内視鏡手術、外科手術、薬物療法、放射線治療などが選択されます。早期の大腸がんであれば、内視鏡でがんを完全に切除することが可能で、高い治癒率が期待されます。早期発見によって予後も大幅に改善するため、予防と検診が非常に重要です。生活習慣の見直しと定期的な健康診断を通じて、早期発見を心がけましょう。
今回の研究結果への受け止めは?
イギリスのオックスフォード大学らの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
中路先生
本研究は、これまで食事と大腸がんの関連性についておこなわれた研究の中では最も規模が大きいと考えられ、カルシウム摂取と大腸がん予防効果の関連を示す強いエビデンスとなるものとして評価されると考えます。カルシウムは牛乳などの乳製品だけでなく、緑黄色野菜などからも摂取可能です。日常生活で、これらのカルシウムを多く含む食品を積極的に摂取することで大腸がん予防の可能性が示唆されます。
まとめ
今回の研究から、食生活が大腸がんのリスクに深く関わっていることが改めて示されました。アルコールや赤肉・加工肉の過剰摂取を控え、乳製品やカルシウム、全粒穀物、果物、野菜などを積極的に取り入れることが、大腸がんの予防に役立つと考えられます。バランスの取れた食事を心がけることが大切で、どの栄養素も偏りすぎることなく適度に摂取することが推奨されます。自分自身や家族の健康を守るためにできることから始め、健康的な生活を送りましょう。