「放射線治療ができない人の特徴」はご存知ですか?副作用となる症状も医師が解説!
放射線治療ができない人の特徴とは?Medical DOC監修医が放射線治療の対象となる疾患・できない人の特徴・治療の流れ・副作用などを解説します。
監修医師:
木村 香菜(医師)
目次 -INDEX-
「放射線治療」とは?
放射線治療とは、人工的に作り出した高エネルギーの放射線を用いたがんの治療法のことです。手術や抗がん剤治療とともに、がん治療の柱となっています。
放射線治療は、がんの部分にエックス線などの放射線を照射(しょうしゃ)することで効果を発揮します。放射線を当てている間には特に痛みなどを感じることはありません。しかし、放射線治療を受けることができない場合もあります。
今回の記事では、放射線治療ができない人の特徴や、放射線治療の副作用について解説します。また、放射線治療がどのようながんに対して有効なのかについても解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。
放射線治療の対象となる疾患
さまざまながんが放射線治療の対象となります。
子宮がん
子宮頸がんは、子宮の頸部に発生する悪性の腫瘍です。早期では無症状ですが、がんが大きくなると出血などをきたすこともあります。ヒトパピローマウイルスの感染が原因ではないかといわれています。
子宮頸がんの治療は、産婦人科や腫瘍内科、放射線治療科などで行われます。子宮頸がんに対する治療には、放射線治療の他にも手術や化学療法があります。
子宮頸がんに対して放射線治療が行われる場合には、外部照射と腔内(くうない)照射の2種類があり、これを組み合わせることがあります。外部照射は、体の外から放射線を当てるものです。一方、腔内照射は、専用の器具を用いて子宮の頸部に放射線を出す物質を入れ、放射線を子宮の中からがんに当てるというものです。
子宮頸がんが進行し、がんがより広い範囲に広がっている場合には、放射線治療と化学療法を組み合わせる化学放射線療法が行われることもあります。
前立腺がん
前立腺がんは、前立腺に発生する悪性腫瘍です。早期の段階では特に症状はありません。しかし、腫瘍が大きくなってくると尿が出にくい、尿をするために時間がかかるといった排尿障害が生じることもあります。前立腺がんの治療は、主に泌尿器科で行われます。
がんが前立腺にとどまっている場合、放射線治療は手術と同様の治療効果があることが研究で明らかになっています。放射線治療は、体の外から放射線を当てる外部照射と、放射線を出す小さな針を前立腺に挿入する小線源(しょうせんげん)治療があります。
外部放射線治療は、平日毎日、8~9週にわたって行われます。放射線治療の前に、ホルモン治療によってがんを小さくするといった治療が行われる場合もあります。
頭頸部がん
頭頸部がんは、首やのどに発生するがんの総称です。
頭頸部は構造が複雑なので、手術が難しい場所にがんが発生することも多いです。そうした場合には、放射線治療や化学療法がよい適応になります。また、頭頸部のがんは、多くが扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)というタイプであり、放射線治療が効きやすいです。
頭頸部がんに対する放射線治療は、耳鼻咽喉科や頭頸部外科、薬物療法科、放射線治療科などで行われます。
例えば、上咽頭(じょういんとう)という、のどの上の方の脳などに近い部位にできる上咽頭がんは手術が難しいです。また、放射線治療の効果が現れやすいがんです。そのため、放射線治療のみか、もしくは化学療法を組み合わせた化学放射線療法が第一選択になることが多くみられます。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は、白血球の1種であるリンパ球ががんになってしまう病気のことです。
悪性リンパ腫には、ホジキンリンパ腫と、それ以外の非ホジキンリンパ腫があります。
症状としては、リンパ節が多い、首や腋(わき)の下や、鼠径部(そけいぶ:足の付け根の部分)などに腫れが生じます。また、他にも寝汗が増える、発熱、発疹等さまざまな症状が現れます。
悪性リンパ腫の治療は、血液内科や腫瘍内科などで行われます。
放射線治療は、特にホジキンリンパ腫に対しては、一番局所制御(がんを小さくする効果)が大きいといわれています。
放射線治療は、体の外から放射線を当てる外部照射が行われます。化学療法を先に行い、そのあとに放射線治療をがんがあった部分に対して行います。
乳がん
乳がんは、乳腺から発生する悪性腫瘍です。乳がんの治療は、乳腺外科や外科などで行われます。
乳房を残す手術である乳房温存手術後に放射線治療を行うことで、がんの再発を防ぐ効果が明らかになっています。
手術の後に、がんがあった方の乳房に対して放射線治療を行います。乳がんの種類によっては、ホルモン剤や分子標的薬、化学療法を組み合わせることもあります。
放射線治療ができない人の特徴
放射線治療は、副作用が少ない治療法ではありますが、以下のような人の場合には難しい場合もあります。
妊娠中である
妊娠中の方に対しては、赤ちゃんへの放射線被ばくの影響を考える必要があります。
例えば乳がん治療ガイドラインでは、妊娠中の方に対しての放射線治療は絶対的禁忌となるとされています。理由としては、例えばお腹を鉛などでカバーして放射線が当たらないようにしても、微量な放射線が当たってしまう可能性があるためです。
痛みなどがあり、適切な姿勢になれない
放射線治療を受ける際には、専用のベッドに横たわり、かつ適切な姿勢をとることが重要です。なぜなら、放射線治療の計画を立てた時と同じ条件になってなければ、当てたい部位にきちんと放射線が当たらず、効果が弱くなってしまう可能性があるからです。
例えば、乳がんの手術後にがんがあった方の乳房に放射線を当てる際には、そちら側の腕を挙げる姿勢をとらなければなりません。痛みがあったり、手術の後の突っ張り感などがあったりしてその姿勢が保てない場合には、放射線治療ができないと判断されることがあります。
同じ場所に放射線治療を受けたことがある
基本的には、過去に放射線治療を受けた場合、同じ場所に対して放射線治療を行うことができません。
がん周囲の正常な組織には、耐用線量(たいようせんりょう)といって、この程度までの放射線であれば当てても許容されるといった線量があります。再照射の場合、こういった耐用線量を超えてしまう危険性があります。すると、組織の壊死や神経の損傷による麻痺などが引き起こされるリスクがあるのです。
一方で、高精度放射線治療といい、当てたい場所以外への放射線照射を極力減らした治療が最近では行われており、再照射が可能な場合もあります。
重い間質性肺炎がある
間質性肺炎というタイプの肺炎がもともとある方は、胸部、特に肺がんに対する放射線治療には注意が必要です。
間質性肺炎は、肺の一番小さな組織である肺胞の壁である肺胞壁(はいほうへき)が炎症などによって固く厚くなってしまう病気のことです。
放射線治療を行うと、この間質性肺炎が急激に悪化してしまう恐れがあります。
肺がんに対して、かなり高い放射線を当てる「定位放射線治療(ていいほうしゃせんちりょう)」という治療がありますが、この治療は重篤な間質性肺炎・肺線維症の方に対しては相対的禁忌とされています。
膠原病
膠原病(こうげんびょう)とは、皮膚や靭帯、筋肉、骨などを形成するコラーゲンに炎症や障害が起こり、皮膚や体のさまざまな部位に何らかの症状が現れる病気の総称です。
例えば、関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症(きょうひしょう)
などがあります。そして、こうした膠原病の方では、放射線治療を行ってから数か月以上たって起こる晩期障害(ばんきしょうがい)が通常の場合よりも多いといわれています。
そのため、例えば肺の定位放射線治療や、乳房温存術後の放射線治療においては、膠原病の方に対する放射線治療は相対的禁忌とされており、膠原病が重篤な場合には放射線治療が行えないことがあります。
放射線治療の流れ
実際に、以下のように放射線治療を行なっていきます。
診察・検査
がんの治療として、患者さんが初めから放射線治療科を受診するということはあまりありません。
そのがん治療を行なっている主治医から、がんの治療の選択肢として放射線治療をすすめられることがあります。その場合、放射線治療医の診察を受けることになります。
放射線治療医は、がんの広がり具合や患者さんの体の状態、さらに今まで受けた検査や治療などから、放射線治療が受けられるかどうかについて検討します。
その上、放射線治療の方針を決めるために必要な検査(MRIなど)を追加することもあります。
放射線治療医は、患者さんに対して、放射線治療によって得られる治療効果や副作用、放射線治療に要する時間や放射線治療の方法などについて説明します。その上、患者さんから治療の同意が得られた場合、放射線治療計画を立てていく準備を始めます。
治療計画
治療計画を立てる上で、まず初めにシミュレーションを行います。
具体的には、実際の治療を想定したベッドに患者さんが寝てもらい、CT(時にMRI)などの撮影を行なって、放射線治療を受ける際の姿勢などを決めていきます。放射線治療は、毎回同じ体勢をとることが大切です。そのため、位置を決めるために皮膚にマーキングを行います。治療する部位によっては、シェルという固定具を作ることもあります。
診察と検査の結果をもとに、コンピューター(治療計画装置)を用いて、放射線治療医が治療計画を作成します。この計画では、放射線の種類、照射量、治療の回数などを決めていきます。
さらに、計算ソフトウェアを用いて、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、腫瘍に最適な放射線量を届ける計画を立てます。
治療
治療計画に基づいて、放射線治療が実施されます。治療は、外部から放射線を照射する外部放射線治療が一般的ですが、場合によっては体内に放射性物質を挿入する内部放射線治療(ブラキセラピー)が選択されることもあります。治療は数週間にわたり、週に数回行われることが多く、毎回の治療は数分から数十分ほどです。
治療後
放射線治療の後、多くの場合、患者は自宅での回復が可能ですが、治療の強度や患者の健康状態によっては短期間の入院が必要な場合もあります。
治療の効果と副作用などを調べるために、治療から数ヶ月以上でも定期的に通院することもあります。
放射線治療の副作用となる症状
放射線治療の副作用には、急性期と晩期の2つがあります。放射線治療中や終了直後の急性期の副作用と、治療が終わってから半年〜数年経ってから現れる晩期の副作用となります。
放射線宿酔
放射線治療の急性期の副作用の一つに、放射線宿酔(ほうしゃせんしゅくすい)というものがあります。これは、全身または広い範囲に放射線治療を行った場合に起こる、吐き気や嘔吐、下痢などの胃腸の症状や全身の倦怠感のことです。一般的には放射線治療では1回2Gy(グレイ)照射することが多いのですが、この放射線量の場合には約50%の方に起こるといわれ、比較的早い時間に起こります。
症状は、徐々に改善することが多いです。しかし、吐き気が長引く場合や脱水症状が見られる場合は、主治医または放射線治療医により吐き気止めの薬や点滴で水分を補うことが必要です。
皮膚炎
放射線治療の急性期の副作用の代表的なものの一つが皮膚炎です。
皮膚炎は、照射する場所の皮膚にかゆみや赤み、乾燥などがでます。
皮膚炎の症状を軽くするためには、保湿などのケアを行ったり、ゴシゴシ擦ったりしないようにすることが重要です。放射線治療医から保湿剤、場合によってはステロイド軟膏などを処方されることが多いですので、治療中は指示通りに使っていくことが大切です。
喉の痛み
放射線治療が頭頸部に行われた場合、のどの痛みや飲み込みにくさが生じることがあります。軽い痛みであれば、氷を含む、冷たい飲み物を摂ることで一時的に症状を和らげることができます。しかし、痛みがひどい場合や飲み込みに関して困難が生じた場合は、耳鼻咽喉科の受診が必要です。放射線治療を受けている病院の耳鼻咽喉科で相談することが最善の対応です。
脱毛
放射線治療が頭部に行われると、治療している部位の毛髪が脱毛する可能性があります。この症状は一般的に一時的なもので、治療終了後には毛髪が再生することが多いです。しかし、場合によっては永久的な脱毛となることもあります。
脱毛に対して特別な処置は必要ありませんが、心理的なサポートが必要な場合は、精神科やカウンセリングのサポートを受けることを検討していきます。
放射線肺臓炎
放射線肺臓炎(ほうしゃせんはいぞうえん)は、胸部への放射線治療後に起こる可能性のある深刻な副作用です。
放射線肺臓炎は、症状がなく、CTなどでわかる場合もあります。しかし、中には呼吸困難、咳、痰の増加、発熱などが現れることがあります。これらの症状が現れた場合、迅速に医師の診察を受けることが重要です。
放射線治療を行っている病院の呼吸器内科や放射線科に連絡し、緊急性を評価してもらう必要があります。息切れや咳などの症状がある場合、治療にはステロイド薬が使用されます。また、重症の場合には酸素療法が必要となることもあります。
「放射線治療ができない人」についてよくある質問
ここまで放射線治療ができない人の特徴を紹介しました。ここでは「放射線治療ができない人」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
放射線治療が効かない疾患はあるのでしょうか?
木村 香菜(医師)
放射線治療はさまざまながんに対して効果を発揮する治療法です。しかし、中には放射線治療が効きにくいとされるがんもあります。
例えば、悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)や、筋肉などの組織から発生する肉腫(にくしゅ)などは放射線治療が効きにくいとされています。
しかし、免疫チェックポイント阻害薬といった新しい薬や、放射線治療の方法の工夫によって治療効果が高まっているという報告があります。
放射線治療のデメリットについて教えてください。
木村 香菜(医師)
放射線治療のデメリットとしては、以下の3点があります。
1. がんの種類によっては、放射線治療の効きやすさに差があること
2. 治療に要する期間が1〜2ヶ月と長期になる場合が多いこと
3. 放射線を当てることで障害が出ると予想される臓器ががんの近くにある場合、がんを治療するために十分な放射線量を当てることができないこと
こうしたデメリットを改善するために、骨転移などによる痛みなどに関する治療の場合には1回の照射で放射線治療を終わらせることも考慮されます。また、IMRT(Intensity modulated radiation therapy:強度変調放射線治療)などによる高精度放射線治療や、重粒子線などの使用も進んできています。
放射線治療中にやってはいけないことはありますか?
木村 香菜(医師)
放射線治療中に、特に日常生活の制約はありません。しかし、放射線治療中には、皮膚にマーキングといって位置決めのためのラインを引いています。それを消さないようにしましょう。
また、治療している部位は炎症が起こりやすくなっています。そのため、ゴシゴシこすったりすることは避け、直射日光に当てないようにし、治療酢部位を締め付けるような衣服は避けましょう。
編集部まとめ
今回の記事では、放射線治療ができない人の特徴について解説しました。さらに、放射線治療の流れや副作用、どのような病気に対して用いられるのかについても述べました。
放射線治療は、体のさまざまな部分にできたがんに対して行われます。そのため、放射線治療が必ずできないケースもさまざまです。放射線治療ができるかどうかは、患者さんの体の状態や持病などによっても異なってくるので、主治医や放射線治療医が慎重に検討し実際に放射線治療を行うかどうかを判断します。
今回の記事が参考になれば幸いです。
「放射線治療ができない人」と関連する病気
「放射線治療ができない人」と関連する病気は9個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
循環器科の病気
- 心不全など重度の心臓疾患
呼吸器科の病気
- 間質性肺炎
- 肺線維症
- 進行した肺結核
皮膚科の病気
- 皮膚潰瘍
膠原病内科の病気
- 全身性エリテマトーデス
- 関節リウマチ
- 強皮症
- 重症免疫不全
こうした病気のある方は、放射線治療が受けられない可能性があります。主治医と放射線治療医の判断を仰ぎましょう。
「放射線治療ができない人」と関連する症状
「放射線治療ができない人」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- がんによる痛みが強くじっとしていられない
- 水膨れや剥離があるような皮膚炎
- 骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板が減少している)
- 粘膜炎
- リンパ浮腫
上記の症状があると、放射線治療が受けられない、あるいは継続できない可能性があります。