「直腸がんのステージ3」の症状・治療法はご存知ですか?医師が監修!
直腸がんは大腸の肛門に近い部分にできるがんです。徐々に進行して、周辺のリンパ節に転移した段階がステージ3で、さまざまな症状が出始めます。
ステージ3は進行がんとされ、手術治療が適用される段階です。5年生存率がステージ3を境に大きく変わるため重要なポイントになります。
このステージ3の直腸がんに関して、特徴や症状・治療の方法などを解説します。気になる症状がある方は参考にしてください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
直腸がんとは?
大腸がんのうち、直腸にできる悪性腫瘍が直腸がんです。大腸は結腸・直腸・肛門管・肛門で構成される管状の臓器で、各部位にがんが発生します。結腸にできれば結腸がん、直腸にできれば直腸がんで、それらの総称が大腸がんです。
大腸がんは結腸の終端部・S字結腸と直腸に多く発生します。腸壁の構造は、内側の粘膜・粘膜下層・固有筋層・漿膜(しょうまく)下層・漿膜の5層構造です。がんはまず粘膜に現れ、進行に伴い粘膜下層から漿膜の方向に浸潤(しんじゅん=浸みるように広がる)していきます。
直腸がんのステージ 3の特徴
がんは進行性の病気で、病巣の広がりや進行はステージ(病期)で表示されます。直腸がんの場合は以下の5段階です。
- ステージ0:がんが粘膜に留まる
- ステージ1:がんが固有筋層に留まる
- ステージ2:固有筋層を越える
- ステージ3:深さを問わずリンパ節に転移
- ステージ4:他臓器へ転移
この後はステージ3の状況を詳しくみていきます。
ステージ3はリンパ節への転移がある状態ステージ3は、腸壁への浸潤度合いに関わらず、腸管の周辺にあるリンパ節にがん細胞が到達した状態です。
直腸の周辺には栄養や酸素を運ぶ動脈があり、それに沿ってリンパ節があります。こういったリンパ節への転移状況は、ステージ3をさらに細かく分類するための指標です。腸管周辺のリンパ節への転移数が3個以内であればステージ3aで、4個以上では3bに分類されます。
ステージ3aの5年相対生存率
3個までのリンパ節への転移が認められたステージ3aでは、5年相対生存率(直腸がん以外の死亡者を除外した数値)が73%です。
すべてのがんの平均で44%なので、直腸がんは生存率が高いがんになります。生存率はステージが進むにつれて下がる傾向です。ステージ1では90.6%、ステージ2では83.1%と徐々に下がります。もう1ランク上のステージ3aでも病巣が腸壁と近隣にとどまる状態なので、切除などで対応しやすく生存率も高いレベルです。
ステージ3bの5年相対生存率
ステージ3bになると、5年相対生存率は53.5%と一気に下がります。リンパ節への転移状況は、腸に向かう動脈の起点にある主リンパ節に到達した段階です。
ここから他臓器への転移が始まる前段階になります。ステージ3bでリンパ節も含めてがんを取り切れば、再発抑制も可能です。しかし、それができず他臓器への転移に進んだ場合は、ステージ4になり根治が難しくなります。つまり、ステージ3bはその後の展開を左右する重要な分岐点です。
ステージ3の再発率
大腸がんでステージ3までなら、多くの症例で手術が可能で完治も望めます。しかし、残念ながら再発の可能性も残されています。大腸癌研究会の調査では、大腸がんの切除後に再発した率は以下のとおりでした。
- ステージ1:再発率5.7%
- ステージ2:再発率15.0%
- ステージ3:再発率31.8%
※ステージ4では基本的に手術できないためデータなし
病巣の位置が限定的なステージ1での切除手術でも再発があり、ステージが上がるにつれて再発率が高くなる傾向がみられます。ステージ3では30%を超える再発率です。
直腸がんのステージ3の症状
多くのがんと同じように、直腸がんでも初期のうちはほとんど症状がなく、進行するにつれてさまざまな症状が出てきます。ステージ3でみられる主な症状を紹介しましょう。
血便
血便は代表的な直腸がんの症状です。がん組織は増殖のために栄養を運ぶ新しい血管(新生血管)を作る性質があります。もろく出血しやすい血管のため、直腸がんでは通過する便で擦れて出血した結果が血便や下血の症状です。
初期の直腸がんでは新生血管がなく、成長速度も早くはありません。しかし血管ができると急速に増殖を始め、進行がんに変わります。血便がみられ始める時期はちょうどステージ2から3にかけてです。
お腹の張り
直腸がんが進行して腫瘍が大きくなると、直腸の内腔を狭めて便の通りが悪くなります。
便が大腸内に滞留して便秘状態になり、ガスも溜まって腹部の張りや不快感が出る症状です。症状が進行すると張りから痛みに変化する場合もあります。
便の狭小化
直腸がんの腫瘍が大きくなって便の通路である直腸の内腔が狭くなると、そこを通る便は細く切れぎれになります。少量しか出ない便秘状態で、下腹部には常に残便感・不快感がある状態です。
貧血貧血は持続的な出血でおこる直腸がんの代表的な症状です。直腸がんの表面はもろく出血しやすい状態で、そこに便による圧力を常に受けて慢性的な出血が続きます。
その結果おこるのが、血液成分の鉄が不足する鉄欠乏貧血です。貧血でおこる症状では、めまい・立ちくらみ・動悸・息切れなどがあります。
直腸がんのステージ3の治療
直腸がんの治療にあたっては、ステージにより治療方法が選択されます。ステージ1~3の場合ではまず手術が適用され、さらにステージ2の一部と3では補助化学療法(薬物療法)が追加されるのが標準治療です。
それぞれの治療法を解説します。
開腹手術
開腹手術では腹部を15~20cm程度切開し、患部を直接見ながら直腸がんとその周辺のリンパ節を切除して根治を目指します。がん細胞を取り残すと再発するので、身体の機能に影響が出ない範囲で広範囲に切除する手術です。
直腸は骨盤の奥深くにあり、周囲は膀胱などの臓器に囲まれて肛門とつながります。近くには排泄や性機能に関わる自律神経が通るデリケートな部分です。がんの位置により4種類の手術から選択され、影響が少なくて済むように、できるだけ自律神経を残す手術が行われます。
腹腔鏡下手術
腹腔鏡下手術では腹部に5mm~1cmの穴を数個開け、ガスで膨らませた腹腔内にカメラや手術器具を入れて直腸がんを切除します。
根治を目指す目的や腸管・リンパ節の切除範囲などは開腹手術と同じです。開腹手術よりも身体の負担が少なく、回復の速さ・出血や痛みの少なさなど多くのメリットがあります。カメラのズーム機能を使えば、目視よりも詳細な患部の拡大画像が得られ、正確な手術を行うことが可能です。
補助化学療法
補助化学療法は、手術後の再発を防ぐ目的で行われます。適用されるのは、ステージ2でも再発の可能性がある場合とステージ3です。がん細胞の増殖システムの一部を阻害・攻撃する細胞障害性抗がん薬が主に使われます。
内服または点滴、もしくは併用で通常は6ヵ月間続けられますが、がんの状況や薬の種類によっては3ヵ月で終わる例もあるようです。細胞障害性抗がん薬は正常な細胞も攻撃するため、さまざまな副作用が避けられません。
直腸がんのステージ3についてよくある質問
ここまで直腸がんのステージ3における特徴・症状・治療などを紹介しました。ここでは急直腸がんのステージ3についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
ステージ3でも根治の可能性はありますか?
中路 幸之助(医師)
ステージ3までで手術ができれば根治が望めます。ステージ3aの5年生存率は70%を超えていて、再発率も30%代にとどまる状況なので、根治の可能性は十分です。ただし、ステージ3bでは生存率が急激に下がります。同じ3でもリンパ節への転移数が多い3bでは根治の可能性が下がるため、少しでも早い段階での治療開始が望まれます。
直腸がんのステージはどのような検査で決められるのですか?
中路 幸之助(医師)
直腸がんのステージは、がんが腸壁へ入り込んだ深さ(壁深達度=T因子)、リンパ節への転移数(N因子)、他臓器への転移状況(M因子)の組合せで決まります。T因子・N因子は内視鏡の所見・CTやMRIの画像で予測し、切除組織の病理検査で確定です。M因子はCT・骨シンチグラフィ・超音波を使いますが、PETなら脳以外の全身が検査できます。
編集部まとめ
ここまで大腸がんの一種・直腸がんのステージ3を解説しました。ほかのがん同様、初期では症状がなく発見が遅れがちですが、ステージ3ともなれば症状も出てきます。
ステージ3なら手術と薬物の併用が標準治療です。進行がんとはいえ、きれいに切除できれば根治も期待できます。
ただし、リンパ節への転移が4個以上のステージ3bでは生存率が急落します。ステージ3は予後を左右する重要なステージです。
定期健診で早期発見に務めるとともに、気になる症状があればすぐ受診してください。
直腸がんと関連する病気
直腸がんと関連する病気は4個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
上記のような病気を持つ方は、直腸がんや結腸がんになるリスクが高いことがわかっています。症状もがんと似ているので、気になる症状があれば早めに受診してください。
直腸がんと関連する症状
直腸がんと関連している、似ている症状は6個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
いずれも直腸がんの症状ですが、生活習慣による便秘・大腸炎・痔・体調不良でもおこる症状です。直腸がんの可能性があるので、長引いたり繰り返したりする場合は放置せず病院を受診してください。