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「急性リンパ性白血病の余命」はご存知ですか?検査・治療法も解説!【医師監修】

 更新日:2024/03/11
「急性リンパ性白血病の余命」はご存知ですか?検査・治療法も解説!【医師監修】

「白血病」という病名を聞いたことがある方は多いでしょう。では、白血病の1つである「急性リンパ性白血病」とはどのような病気なのかご存知でしょうか。

今回の記事では急性リンパ性白血病の概要・生存率・検査・治療方法などについて詳しく解説します。

記事の最後では、急性リンパ性白血病についてよくある質問にも答えていきますので、白血病の予後・再発について知りたい方も参考にしてください。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

急性リンパ性白血病とは

1年間で白血病と診断される患者さんの数は1万5000人ほどで、がん全体の1%にとどまります。
一方、小児白血病の罹患者は年間1000人ほどです。小児がんの中では白血病が最も多く、また小児白血病のうち7割が急性リンパ性白血病です。
この急性リンパ性白血病とはどのような病気なのか、細胞が血球になる過程に着目して解説していきます。

細胞ががん化し骨髄で無限に増殖すること

血液中にある赤血球・血小板・白血球などの血液細胞は、「造血幹細胞」という1種類の細胞から分化して作られます。
造血幹細胞は、まず骨髄系幹細胞・リンパ系幹細胞という2種類の細胞に分化したのち、下記のように血液細胞へ分化する仕組みです。

  • 骨髄系幹細胞:赤血球・血小板・白血球(顆粒球・単球)
  • リンパ系幹細胞:白血球(リンパ球)

このうち、骨髄系幹細胞が分化の途中でがん化する病気を骨髄性白血病、リンパ系細胞が分化途中にがん化する病気をリンパ性白血病といいます。
がん化した芽球(分化途中の細胞)を白血病細胞と呼び、この白血病細胞が骨髄内で急速に増殖するものを急性白血病、ゆっくりと増殖するものを慢性白血病と分類します。
多くの病気は発症した直後の急性期から時間とともに慢性期へ移行しますが、白血病においては急性白血病・慢性白血病はメカニズムが異なる別の疾患です。

白血病細胞が骨髄に浸潤している割合で病名が違う

白血病と病態が似た病気に、骨髄異形成症候群・リンパ芽球性リンパ腫があります。
骨髄異形成症候群は、造血幹細胞の分化過程で完全な血液細胞になる前に成長の停止・細胞の破壊などが起こり、形態や機能の異常がみられる病気です。
白血病に移行する場合があり、後述する骨髄検査で骨髄中の白血病細胞が20%以上のものを白血病、それ以下のものを骨髄異形成症候群と区別しています。
一方、リンパ芽球性リンパ腫は急性リンパ性白血病と発症メカニズムは同じですが、白血病細胞が骨髄を中心に増殖するものを白血病、リンパ管を中心に増殖するものをリンパ腫といいます。

急性リンパ性白血病の余命はどのくらい?

急性リンパ性白血病の5年生存率は30%前後です。下記のとおり、患者さんの年齢が上がるほど5年生存率は下がります。

  • 15~60歳:30~40%
  • 60歳以上:10%

一方、小児急性リンパ性白血病においては、長期生存率が約80%とされています。
成人よりも生存率が高い理由については、記事の最後「急性リンパ性白血病の余命についてよくある質問」で解説しますので併せて参考にしてください。
なお、5年生存率とは「ある病気になった人が5年後に生存している確率が同じ年齢・性別に属する日本人全体の平均に対してどれくらい低いか」を示すものです。
余命は、この5年生存率のほか治療方法・年齢・全身状態などをもとに「治療・生活について考える際の指針」として担当の医師が患者さんに伝える場合があります。

急性リンパ性白血病の検査法

白血病が疑われた場合、どのような検査で急性リンパ性白血病であることを確定するのでしょうか。
今回は、骨髄検査・血液検査・画像検査・遺伝子検査という4つの検査についてまとめました。

骨髄検査

骨髄に細い針を刺して骨髄液を採取する検査です。骨髄液を顕微鏡で観察することで、白血病細胞の数・骨髄性細胞とリンパ系細胞の割合などを調べます。
骨髄性白血病の診断を行う場合はWHOにより「白血病細胞が20%以上」と明確な基準が定められていますが、リンパ性白血病では明確な国際基準はありません。
そのため、骨髄性白血病に準ずる形で20%前後を基準としている医療機関が多いです。

血液検査

採血をして、血液の成分・血球の状態を調べる検査です。白血病の場合は赤血球・血小板の減少がみられますが、白血球は増加する場合もあります。
また、顕微鏡で血液を観察すると白血病細胞を確認できることがあります。

画像検査

骨髄液の検査により白血病の確定診断が可能ですが、病気の広がり・合併症の有無・臓器の状態・浸潤の有無などを確認するために画像診断を行う場合があります。
急性リンパ性白血病の患者さんが受ける代表的な画像検査は、超音波(エコー)検査・CT検査です。

遺伝子検査

骨髄検査で採取した骨髄液では、血球の状態だけでなく遺伝子・染色体についても検査を行います。
この検査で「フィラデルフィア染色体」という異常な染色体がみられた場合は、治療方針にも影響するため重要な検査です。

急性リンパ性白血病の治療法について

急性リンパ性白血病と診断された場合、どのような治療を行うのでしょうか。
化学療法・造血幹細胞移植のほか、寛解後に始める維持療法・地固め療法についても解説します。

化学療法

急性リンパ性白血病の主な治療方法は化学療法です。白血病のタイプによって化学療法の効果に差があるため、使用する薬剤を決める際には事前に行った染色体検査の結果が役立ちます。
フィラデルフィア染色体がある場合に選ばれるのは、細胞障害性抗がん薬に分子標的薬を組み合わせた薬物療法です。
一方、フィラデルフィア染色体がない場合は細胞障害性抗がん薬のみを用います。

造血幹細胞移植

化学療法・放射線治療などで完治が難しいと判断された場合に、造血幹細胞移植を行う可能性があります。
記事の前半で解説したとおり、造血幹細胞とは血球に分化する前の幹細胞です。造血幹細胞は臍帯(へその緒)・骨髄に豊富に含まれ、採取方法により下記の3種類に分かれます。

  • 骨髄移植
  • 末端血幹細胞移植
  • 臍帯血移植

いずれの場合も、移植にあたっては前処置として強い抗がん剤治療・全身放射線照射が必要です。また、移植に伴う強い免疫反応・合併症の可能性があります。
そのため、治療の前に全身状態・白血病の状態・本人や家族の希望などをききながら移植を行うか慎重に決定します。

維持療法

診断されてから症状の緩和・病気の治癒を目的に行う化学療法を「寛解導入療法」と呼ぶのに対し、寛解してから良い状態を保つために実施する治療を「寛解後療法」といいます。
寛解後療法として行われるのが、ここから紹介する維持療法・地固め療法です。維持療法は、これまでの治療でわずかに残った白血病細胞の根絶・再発予防を目的に行います。
治療には数年を要しますが、維持療法では内服による薬物療法・通院での定期的な薬物療法などを選択しながら通学・就労が可能です。

地固め療法

急性リンパ性白血病の治療では寛解導入療法・維持療法のみを行う場合もあります。
しかし、寛解導入療法の終了直後から「地固め療法」を行うと寛解持続率が上がるとの研究結果から、地固め療法を行う場合が多いでしょう。
地固め療法では薬物療法を追加で行い、白血病細胞のさらなる減少を試みます。また、白血病は中枢神経に浸潤する可能性が高いため、抗がん剤の髄腔内注射・放射線療法を行い浸潤を予防する場合もあります。

急性リンパ性白血病の余命についてよくある質問

ここまで急性リンパ性白血病の検査・治療方法を紹介しました。これまでの内容も踏まえて「急性リンパ性白血病」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

急性リンパ性白血病は再発しやすいですか?

甲斐沼孟医師甲斐沼 孟(医師)

急性リンパ性白血病は、治療の奏功により寛解に入ったとしても約6割の患者さんに再発がみられます。なお、日本人に多いがんの再発率は下記のとおりです。

  • 転移のない肺がん:約10~15%
  • 大腸がん全体:約20%

再発率は病気・治療法などにより変化するため、正確に比較するのは難しいですが、この数字をみても白血病は再発率が高いといえます。だからこそ、寛解後の治療・経過観察はとても重要です。

急性リンパ性白血病は罹った年齢により寛解しやすさは違いますか?

甲斐沼孟医師甲斐沼 孟(医師)

小児急性リンパ性白血病では、患者さんの98~99%に完全寛解が期待できるといわれています。これに対して、成人急性リンパ性白血病では完全寛解率が74~92%とされており、小児の患者さんのほうが寛解率は高いです。理由は複数考えられますが、小児の急性リンパ性白血病は化学療法への反応が良いことが大きな理由でしょう。また、子どもは内臓機能が保たれているうえに、化学療法の副作用である吐き気も出にくいため、強い化学療法に耐えられることも理由として挙げられます。

編集部まとめ

急性リンパ性白血病は、成人だけでなく小児にも多くみられる血液のがんです。

再発率は高く治療期間は長期にわたることもありますが、化学療法の効果が出やすく寛解する可能性が高いといわれています。

なお、再発予防のための治療期間中は、仕事・学校へ行くなど社会生活も徐々に可能になります。

担当の医師・医療従事者・家族などとも相談しながら、無理のないペースで治療と社会生活の両立を目指して行きましょう。

急性リンパ性白血病と関連する病気

急性リンパ性白血病と関連する病気には、下記の3つがあります。各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

骨髄異形成症候群の一部は、白血病に移行することがあるといわれています。また、悪性リンパ腫・多発性骨髄腫は白血病と同じく造血器腫瘍(血液のがん)に分類される病気です。

急性リンパ性白血病と関連する症状

原発不明がんと関連する症状には、下記の5つがあります。各症状の原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 鼻出血
  • 皮下出血
  • 易疲労感(疲れやすい)
  • 息切れ

これらはいずれも、白血病によくみられる症状です。白血病以外でもみられる症状のため過剰に心配する必要はありませんが、症状が長く続く・頻繁に表れるなど気になる点があれば内科の医師に相談することをおすすめします。

この記事の監修医師