「多発性骨髄腫で食べていけない」ものは?摂取しやすいものもあわせて解説!【医師監修】

多発性骨髄腫は、がん化した細胞が骨髄で増加する疾患です。高カルシウム血症・貧血・腎不全・骨折などの症状が生じ、これらの症状が一つ以上ある場合に、治療が必要になります。
症状によっては、食事制限を受ける場合が出てくるでしょう。以下で、多発性骨髄腫で控えるべき食べ物や摂取が推奨される食べ物、治療法について解説します。

監修医師:
山本 康博(MYメディカルクリニック横浜みなとみらい)
東京大学医学部医学科卒業 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医 日本内科学会認定総合内科専門医
目次 -INDEX-
多発性骨髄腫とは
多発性骨髄腫は、がん化した形質細胞が骨髄で増える病気です。
骨髄は骨のなかにあり、血液のもととなる造血幹細胞が存在します。造血幹細胞が成熟すると、赤血球・白血球・血小板などが作られます。
形質細胞は、白血球のなかのリンパ球の1つのB細胞が成熟してできる細胞です。形質細胞の役割は、異物が体内に侵入した際に抗体を作り、異物から身体を守ることです。
この形質細胞ががん化すると、骨髄腫細胞と呼ばれる異常な形質細胞になります。骨髄腫細胞になると、M蛋白と呼ばれる役に立たない抗体を作り、骨髄のなかで増殖します。
骨髄腫細胞やM蛋白が増加し、臓器や血液に蓄積されることで、全身にさまざまな症状を引き起こすのが特徴です。
多発性骨髄腫の治療法
多発性骨髄腫の治療では、薬物療法・放射線治療・造血幹細胞移植・食事療法が行われます。以下で、詳しくみていきましょう。
薬物療法
薬物療法では、免疫調整薬・プロテアソーム阻害薬・抗体薬などを組み合わせて治療が行われます。
免疫調整薬は、体内の免疫の働きを調節する薬です。骨髄腫細胞の増殖も抑えられます。
プロテアソーム阻害薬は、プロテアソームと呼ばれる酵素の働きを抑える薬です。プロテアソームは、細胞の増殖や生存するために必要な酵素です。
プロテアソームは骨髄腫細胞の増殖や排除、分解に関与しています。この酵素を阻害することで、骨髄腫細胞の増殖や活性を効果的に抑えます。
抗体薬は、人間が抗体を作る仕組みを利用した薬です。骨髄腫細胞の抗原と結合するため、ピンポイントでがん細胞を攻撃できます。そのため、治療効果は高く、副作用を軽減できるのが特徴です。
放射線治療
放射線治療は、骨病変による痛みの緩和や脊髄圧迫による骨折予防のために行われます。
多発性骨髄腫では、放射線への感受性がよく、多くのケースで痛みの改善や腫瘍の縮小に効果を発揮します。痛みの軽減効果は、照射後1〜2週間と早期に現れることが特徴です。
照射部位にもよりますが、放射線治療で生じる有害事象は軽い場合が多いため、全身状態がよくないケースにも適応されます。
造血幹細胞移植
造血幹細胞移植は、薬物療法や放射線療法では治療が困難な血液がんに対する治療法です。
造血幹細胞は、血液細胞のもとになる細胞です。造血幹細胞移植では、患者さん自身の造血幹細胞を移植する自家造血幹細胞移植と、提供された造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植があります。
多発性骨髄腫で造血幹細胞移植が行える条件は、65歳未満・重篤な合併症がない・心肺機能正常の条件を満たした方です。
自家造血幹細胞移植では、移植前に2〜3つの薬剤を組み合わせた化学療法が行われます。この化学療法を3〜4コース実施し、腫瘍の縮小を目指します。1コースの期間は約3週間です。
大量の抗がん剤を投与して骨髄腫細胞が弱ってから、患者さんの造血幹細胞を採取し、それを患者さんに投与します。
M蛋白の減少量が乏しい場合には、ほかの薬剤に変更されるでしょう。移植ができない患者さんでは、複数の薬剤を併用した化学療法が続けられます。
食事療法
病気による心配や不安、手術の後遺症や治療の副作用などで、食欲は低下します。体力維持や感染予防のためにも、バランスのよい食事を摂ることは大切です。
ただし、手術の後遺症や治療の副作用で味覚や嗅覚が変化して食欲が低下したり、今までと同じようには食べられなかったりします。
そういった際には、無理して食べず、食べたい物や食べられる物を食べるようにしましょう。
献立や調理の仕方などで迷った際には、医師や看護師、栄養士などに相談してみると解決するかもしれません。
多発性骨髄腫で食べていけないものとその理由
多発性骨髄腫にかかった際に摂取を控えた方がよいものはなんでしょうか。以下で詳しく紹介します。
カルシウム
多発性骨髄腫は、70%以上の患者さんに圧迫骨折や高カルシウム血症などの骨に関連した病変が生じることがわかっています。
多発性骨髄腫で起きる高カルシウム血症は、病気の影響で、血中のカルシウム濃度が高くなっている状態です。そのため、カルシウムの摂取は適量にした方がよいでしょう。
カルシウムは、牛乳・ヨーグルト・チーズなどの乳製品やブロッコリー・白菜・ほうれん草などの野菜、豆腐やシリアルなどに含まれています。適切な範囲で摂取しましょう。
ビタミンDの多い食品
ビタミンDは、小腸からのカルシウムの吸収を促し、血中のカルシウム濃度を維持する働きがあります。
ビタミンDを多く含む食品を過剰に摂取すると、血中カルシウム濃度が上昇し、高カルシウム血腫を引き起こす可能性があります。ビタミンDを含む食品は、鮭・鯖・きのこ類・牛レバー・卵黄などです。
重症な場合には、腎臓に影響がでるおそれがあるため、注意して摂取しましょう。
カリウム・塩分
多発性骨髄腫になると、M蛋白の一部が尿として出されます。腎臓に負担がかかり、腎機能障害を起こす原因となります。
腎機能障害がある場合、カリウムや塩分の制限が必要になるでしょう。腎機能が低下すると、老廃物を排泄する力が弱くなるため、カリウムも塩分も体内に蓄積しやすくなります。
そのため、カリウム・塩分ともに摂取量を抑える必要があります。また、高血圧は腎臓に負担がかかるため、腎臓保護のために塩分量も調整しましょう。
生野菜・果物・肉・魚など、多くの食品にカリウムは含まれているため、食べる際に注意が必要です。
多発性骨髄腫でも摂取しやすいものは?
多発性骨髄腫の患者さんでも食べやすいものに、刺激やにおいが少ないものが挙げられるでしょう。ほかにも、食べやすいものを紹介します。
刺激・においの少ないもの
薬物療法を受けたがん患者さんの45〜84%に、味覚や嗅覚の変化が生じるとの報告があります。味覚や嗅覚に変化が生じた方では、食欲が低下しやすいのも特徴です。
プロテアソーム阻害薬のボルテゾミブは、繰り返し投与されることで、酸味の感受性が高くなりやすいです。そのため、そうめんや蕎麦などの冷たい麺類・サンドイッチ・寿司・刺身などが食べやすいでしょう。
冷たくあっさりしたもの
多発性骨髄腫では、吐き気や嘔吐を生じることがあります。吐き気・嘔吐がある場合には、シャーベット・アイス・スープなど冷たくて口当たりのよい物が食べやすいでしょう。
食べ物は、冷ますとにおいを抑えることができます。また、匂いの強いものや脂っこいものも吐き気・嘔吐を誘因する可能性が高いため、あっさりしたものがよいでしょう。
口当たりのよいもの
高カルシウム血症を発症すると、口渇や食思不振などの症状が現れます。そういった際には、口当たりのよいものが摂取しやすいでしょう。例えば、そうめん・冷奴・茶碗蒸し・プリンなど、ご本人の好きなものや食べられるものを選ぶとよいでしょう。
多発性骨髄腫で食べていけないものについてよくある質問
ここまで、多発性骨髄腫で食べていけないものや摂取しやすいもの、治療法などを紹介してきました。ここでは、「多発性骨髄腫で食べていけないもの」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
特定の栄養素を摂らないようにすると治りやすいですか?
山本 康博(医師)
特定の栄養素が病気の治癒に直接関与するわけではありません。ただし、腎臓の状態に応じて、たんぱく質・カリウム・塩分などを制限する場合があります。医師により指示があるため、指示されたときは制限を守るようにしましょう。
サプリは内服して問題ないでしょうか?
山本 康博(医師)
カルシウムやビタミンDのサプリなどは、過剰摂取であれば控える必要があるかもしれません。病気の進行度や身体の状態にもよるため、医師に相談してみましょう。
まとめ
多発性骨髄腫では、M蛋白が増殖することで腎不全を引き起こす可能性があります。そのため、腎不全の状態によっては、カリウム・塩分などは摂取制限がかかるでしょう。
また、骨破壊が進み高カルシウム血症を生じると、カルシウムやビタミンDの摂取も控えた方がよいかもしれません。
病気の治療によって味覚や嗅覚が変化し、食欲が低下する場合があります。そういった際には無理して食べようとせず、食べられる物を食べやすい方法で食べるのがよいでしょう。
献立や調理法で困った際には、医師や看護師、栄養士に相談してみましょう。
多発性骨髄腫と関連する病気
「多発性骨髄腫」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 形質細胞腫
- 形質細胞白血病
- 原発性マクログロブリン血症
上記は、形質細胞が関連する病気です。形質細胞白血病は、形質細胞腫の1つの病型で、稀な病気です。
多発性骨髄腫と関連する症状
「多発性骨髄腫」と関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 高カルシウム血症
- 腎機能障害
- 貧血
- 骨病変
上記は、多発性骨髄腫の代表的な症状です。症状は個人差があり、症状が現れない方もいます。
参考文献