「放射線治療の副作用となる症状」はご存知ですか?予防する方法も医師が解説!
放射線治療の副作用とは?Medical DOC監修医が放射線治療の副作用・対象となる疾患・予防する方法などを解説します。
監修医師:
影山 広行(医師)
保有資格
放射線診断専門医
核医学専門医
PET核医学認定医
日本医師会認定産業医
日本医師会認定健康スポーツ医
抗加齢医学専門医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター
目次 -INDEX-
「放射線治療」とは?
細胞に放射線が照射されると細胞内のDNAが傷ついたり、細胞内に活性酸素が発生したりしてダメージを受けます。正常な細胞はダメージから比較的早く回復しますが、がん細胞は回復が遅く、繰り返し放射線が照射されると正常な細胞はあまり傷つかず、がん細胞のみ死滅させることができます。加えて、細胞分裂が盛んな細胞は放射線の影響を受けやすい傾向があります。がん細胞はまさに細胞分裂が盛んな細胞で放射線の影響を受けやすく、死滅しやすい細胞です。ただし正常な細胞でも、細胞や臓器によっては細胞分裂が盛んなため、放射線の影響を受けやすく副作用の原因となります。
放射線治療をすると副作用が現れる原因
一般論として、放射線治療は正常細胞でも細胞分裂が盛んであれば影響を受けやすくなり、副作用の原因となります。
がんの多くは大腸、肺、胃などの内臓に発生します。内臓に生じたがん細胞に放射線を照射する経路上には皮膚や他の臓器が存在します。皮膚は細胞分裂が盛んで皮膚炎などの副作用が生じます。また、腸などの粘膜は細胞分裂が盛んであり、放射線が照射されると放射線性腸炎という副作用が生じます。
近年、がん患者の長期生存者が多くなり、細胞分裂では説明のできない晩期の副作用(長期間の潜伏期を経てから発症)が問題となっています。例えば、心臓の細胞や脳細胞は細胞分裂をしませんが、放射線治療後に数年以上経過してから心臓の機能が低下したり、脳の機能が低下したりすることもあります。
放射線治療の対象となる疾患
放射線治療は脳腫瘍、頭頸部がん、食道がん、肺がん、乳がん、子宮がん、前立腺がん、皮膚がんなど多くのがんが治療対象となりえます。
放射線治療が第一選択となりうる疾患は脳腫瘍、頭頸部がん、肺がん、食道がん、前立腺がん、子宮がん、皮膚がんなどです。
ここでは根治を目指す治療として第一選択となりうる疾患について詳しく解説します。
咽頭がん、喉頭がん(頭頸部がん)
咽頭がん、喉頭がんは喉(のど)にできるがんです。上咽頭は鼻の奥、中咽頭は口の奥、下咽頭は食道の直上の部分で、喉頭は声を出す部分です。この部分は手術で大きく切除すると外見の影響が大きい上に、ものを噛んだり、飲み込んだり、声を出したりする機能が低下するため、放射線治療を第一選択とすることが多いがんです。
放射線治療が可能な病院の耳鼻咽喉科で治療を受けることができます。
この部分のがんは、早期のがんであれば放射線治療のみで治癒することがあります。進行している場合は抗がん剤による化学療法も行います。また、外科手術を追加することもあります。部位によっては組織内照射という、がん組織内に直接放射線源を挿入する方法で治療することもあります。
子宮頸がん
子宮頸部という子宮の膣側にできるがんで、早期に自覚症状はありませんが、進行すると不正出血をきっかけに見つかることがあります。子宮頸がんの多くはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因であると考えられています。HPVワクチンを接種し、HPV感染を予防することで子宮頸がんの発症率が低下します。
このがんに対する放射線治療は、放射線治療が可能な病院の産婦人科で実施されます。
微小浸潤がんで妊娠の希望がある若年者であれば、子宮頸部円錐切除術のみで治療することもありますが、子宮頸がんは早期であれば放射線治療だけで治すことができます。ある程度以上進行すると放射線治療に加えて、抗癌剤による化学療法を併用します。
子宮頸がんの放射線治療の特徴は腔内照射という特殊な方法が可能なことです。膣と子宮に放射線治療の器具を挿入して内部から病巣に集中的に放射線を照射する治療法です。また、病変の形態によっては、腔内照射に加えて組織内照射を追加する方法もあります。
前立腺がん
前立腺がんは、前立腺という膀胱のすぐ下にある臓器にできるがんです。PSA検査という早期発見の技術が比較的進んでいるのが特徴です。
このがんも放射線治療の対象となっており、治療可能な病院の泌尿器科で治療を受けることができます。
前立腺のみにがんがとどまっている場合には、放射線治療のみで根治できることが多いがんです。組織内照射で治療することもあります。前立腺以外にすでに転移をしていたり、治療後に転移が見つかった場合は前立腺がんの薬物療法であるホルモン療法が必要となります。
放射線治療の副作用となる症状
原則として放射線治療の副作用は治療した部位にしか起こりませんが、全身的なものとしては放射線宿酔があります。また、白血球減少、血小板減少、貧血も全身性の副作用と考えられます。
放射線宿酔
放射線治療の全身性の副作用として放射線宿酔があり、比較的広い範囲に放射線が照射されると発生することがあります。治療を開始してすぐにだるさ、吐き気、嘔吐、食欲不振、頭痛などの症状がでることがあります。多くは1週間から10日程度でおさまってしまいます。
白血球減少、血小板減少、貧血(赤血球減少)
放射線が骨盤、脊椎などに照射されると細胞分裂が盛んな骨髄が障害を受け、血液の細胞(白血球、血小板、赤血球)をつくる能力が低下して、これらが減少することがあります。減少の程度が強いと放射線治療を中断することがありますが、そういうケースはさほど多くはありません。
また急性期の副作用としては以下のようなものがあります。
放射線皮膚炎
皮膚も細胞分裂が盛んで放射線を照射した部位が障害を受け、炎症が起こり、軽いやけどのような状態となり、赤くなったり、皮がめくれたりします。重症化すると潰瘍になることもあります。
粘膜の炎症
放射線を照射した部位に細胞分裂が盛んな粘膜組織が存在すると組織が障害され炎症がおこります。
頭頸部への照射で口、目、耳の粘膜が障害されると口内炎、結膜炎、中耳炎となることがあります。また、唾液(つば)を作る唾液腺も障害を受けやすく口が乾燥する副作用もおこることがあります。
胸部への照射では食道粘膜が障害されやすく、食道炎になることがあります。
腹部では胃腸の粘膜が障害されやすく胃腸炎になることがあります。
骨盤では大腸炎、膀胱炎、膣炎などになることがあります。
少し時間が経過してから起きる副作用は以下のようなものがあります。
晩期の障害
脳脊髄の障害、視力障害、聴力障害、口腔乾燥症、骨壊死、放射線肺臓炎、食道狭窄、腸閉塞、リンパ浮腫、発がん、心機能障害などがあります。放射線による組織の障害、壊死、線維化などから臓器の機能が低下してしまうことで発生します。発生頻度自体は多くはありませんが、一旦発症すると治療に難渋することがあります。
放射線治療の副作用を予防する方法
禁煙、禁酒、刺激物を避ける
粘膜は細胞分裂が盛んで放射線治療によってダメージを受けやすくなります。したがって、たばこを吸っている人は口や気管支の粘膜の炎症を抑えるために禁煙すべきです。また、口から直腸までの粘膜の炎症も抑える必要があり、禁酒すべきです。食事についても香辛料が多いもの、酸味が強いもの、味が濃いもの、熱いものは避けるほうが良いでしょう。
食欲不振、吐き気、下痢などのため食事が十分に摂取できないことがあります。このような場合は、少しずつ高カロリーの食事を摂取するなどの工夫をします。また、担当医、看護師、栄養士に相談することも必要です。
皮膚を刺激しない、紫外線を避ける
皮膚も細胞分裂が盛んで放射線治療によってダメージを受けます。擦ったり、掻いたりなどの物理的な刺激は避けましょう。また、刺激の強い石鹸や化粧品も避けたほうが良いでしょう。紫外線を浴びないようにすることも予防になります。症状が強い場合は担当医、看護師に相談したほうが良いでしょう。
放射線治療方法の工夫
放射線により正常細胞が障害されることで副作用が発生します。できるだけ、がん細胞にのみ放射線を照射して、周囲の正常な細胞に放射線が当たらないようにする工夫が副作用の予防になります。
今回、放射線治療の対象となる疾患として特別に取り上げた疾患の放射線治療は、がん細胞だけに放射線を照射する方法が最も進歩しているものです。外部からの照射では、いろいろな方向からがんに放射線を照射することで、がんには放射線が集中して照射されますが、周囲の正常組織にはあまり当たりません。それに加えて、それぞれの角度から照射する放射線の強さを変えることで、病変が複雑な形をしていたとしてもがんにのみ強い放射線を照射する技術もあります。また、胸部や腹部のがんは放射線を照射中に呼吸ですこし移動します。そのズレを補正して放射線を照射したり、動きに合わせて照射することで、がんにのみ強い放射線を照射する治療もあります。
子宮頸がんでは病変に近い膣や子宮内からがんに放射線を照射します。がんの組織が直接表面から見える口の中のがん、体の表面から近い前立腺がん、子宮頸がんなどではがん組織内に直接放射線源を挿入する方法もあります。
また、通常のX線による放射線治療に加えて、陽子線治療、重粒子線治療も発展してきています。陽子線や重粒子線は体の深いところでエネルギーを放出してがん細胞にダメージを与える治療法です。深い場所にあるがんを治療するときにはその経路上の正常細胞へのダメージを少なくすることが可能になります。さらに陽子線や重粒子線でもいろいろな角度から強度を変えて照射することでさらにがんにのみ強いダメージを与える方法も取り入れられつつあります。
「放射線治療の副作用」についてよくある質問
ここまで放射線治療の副作用を紹介しました。ここでは「放射線治療の副作用」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
放射線治療の副作用はいつからいつまで続きますか?
影山 広行 医師
放射線宿酔、血液の細胞の減少、粘膜の炎症などは治療を開始したらすぐに発生することがあり、放射線治療終了後、数週間で回復します。
晩期の障害に関しては治療終了後の何年後であっても発生することがあり、一度発症すると治りにくい傾向があります。
放射線治療の副作用はグレイ(放射線量の単位)によって変わりますか?
影山 広行 医師
当然ながら正常細胞へ多くの放射線が照射されるとダメージは大きくなります。また、正常細胞でも細胞分裂が盛んな粘膜の細胞、皮膚の細胞、血液の細胞などは早い段階で強い副作用が出やすい傾向があります。逆に放射線に強い組織では早期の副作用はあまり出ませんが、晩期に副作用が出現することがあります。いずれも照射量の影響はありますが、その副作用の強さや時期はその臓器ごとで異なります。
乳がんの放射線治療はどのような副作用がでますか?
影山 広行 医師
子宮の近くには直腸や小腸などがあり、粘膜組織が影響を受けやすいので、下痢、悪心、嘔吐などがでることがあります。膀胱も近いので膀胱炎にもなることがあります。また、放射線皮膚炎も起こることがあります。その他に晩期の副作用としては卵巣機能低下、不妊、腸閉塞、骨盤骨折などがあります。
編集部まとめ
放射線治療はがんの三大治療の一つで、今回紹介した放射線治療のみで根治できるがんのみではなく、乳がんでは乳房温存手術後の根治術の一環として用いられたり、いろいろな進行がんで化学放射線療法の一翼を担ったりと、がん治療の中での役割はさまざまです。また、科学技術の進歩にともない、治療法もとても速いペースで進化している分野です。
「放射線治療の副作用」と関連する病気
「放射線治療の副作用」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
内科の病気
消化器科の病気
- 口内炎
- 食道炎
- 胃腸炎
- 直腸炎
耳鼻科の病気
皮膚科の病気
放射線治療の副作用に関連する病気、症状はこれらが挙げられます。非常に多様な症状が見られますので、まずは放射線治療の担当医師に相談してみましょう。
「放射線治療の副作用」と関連する症状
「放射線治療の副作用」と関連している、似ている症状は16個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
上記のように放射線治療の副作用は多様です。放射線治療を受けてから、これらの症状が複数見られる場合や長引く場合は、一度医療機関で相談してみましょう。