食べ物や水が原因で「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を発症することはある?

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因とは?Medical DOC監修医がALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因・なりやすい人の特徴・代表的な症状・セルフチェック法・検査法や治療法などを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

監修医師:
神宮 隆臣(医師)
目次 -INDEX-
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」とは?
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)とは、中年以降の方に発症し、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが障害を受ける病気です。
なお、上位運動ニューロンは脳から脊髄前角細胞に指示を伝える運動神経のことです。また、下位運動ニューロンはこの脊髄前角細胞から手足などの筋肉へ指示を伝える運動神経です。この運動ニューロンという神経が主に損なわれる結果、手足やのど、舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉が痩せていき、力がなくなってしまいます。一般的には、体の感覚や視力・聴力、内臓機能などは保たれます。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の主な原因
ALSの原因として現在考えられているものについてご紹介します。
SOD1変異をはじめとする遺伝子の異常
ALS患者の約5〜10%の方は家族歴があるとされています。そのような方で、日本で最も多い遺伝子の異常はSOD-1という遺伝子の変異です。SOD1遺伝子が変異すると、酸化ストレスや小胞体ストレスが増えるのではないかと推定されています。また、非自律性神経細胞死(グリア細胞が運動神経細胞にダメージを与えるようになってしまう)といったことも起こると考えられています。このような遺伝子の変化によって、遺伝子そのものの機能が低下したり、あるいは変異蛋白質が細胞に対する毒性を有してしまったりします。そのために、神経が変性してしまうといったメカニズムが想定されています。
親族の方にALSを発症した人が複数みられるような場合には、一度脳神経内科の専門医に相談すると良いでしょう。
TDP-43蛋白質
家族歴のない方のALSである孤発性ALSでは、transactive response DNA-binding protein 43 kDa (TDP-43)蛋白質がその原因となっているのではないかと考えられています。TDP-43の構造の異常などによって、RNAの恒常性が破綻し、細胞の正常なタンパク質合成が乱れてしまうのではと考えられています。
グルタミン酸による神経毒性
グルタミン酸は神経の伝達に必須のアミノ酸です。グルタミン酸による神経伝達によって、記憶や学習、運動制御が行われています。しかし、このグルタミン酸が過剰に放出されると、神経細胞が興奮しすぎてしまい、神経細胞が耐えられなくなることが知られています。これは、グルタミン酸の神経興奮毒性と呼ばれています。これは、ALSの病態の仮説の1つと考えられています。
酸化ストレス
酸化ストレスは、運動ニューロンをはじめとしたニューロンの老化を引き起こす分子メカニズムの一つと考えられています。先ほどご説明したTDP-43が実際に神経細胞に対して障害を与えることに、この酸化ストレスが影響を与えているのではないかという報告もあります。いずれにしても今後さらなる研究知見の集積が待たれるところです。
全身の炎症
近年、ALSと全身炎症との関連を示す報告が見られるようになってきました。体の中の炎症を示す指標の一つにCRPという数値があります。これが軽度異常を示すALS患者では、CRP低値の方よりも生存率が下がることなどが報告されています。全身の炎症は疾患を修飾するのみならず、発症に関わっている可能性もあり、今後も、炎症とALSとの関連については研究が待たれるところです。
食べ物が原因でALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症することはある?
特定の食べ物が直接的な原因となり、ALSの発症リスクが高まるということは実証されていません。一方で、複数の研究からは酸化ストレスがALS発症のリスクとなる可能性が示唆されています。そのため、抗酸化物質、カロテンを多く含む果物や野菜を積極的に食べることが、神経細胞の健康維持には役立つかもしれません。ただし、これがALS予防につながるかどうかは、今後の研究が待たれます。
水が原因でALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症することはある?
溶剤や重金属、農薬などとALSとの関連を調べる研究がいくつか行われています。イタリア中部の州でも、生水の飲用や生活への使用とALSを発症するリスクについて調査されています。生水とは、化学物質、毒素、細菌、胞子などを除去する処理が行われていない環境中の水のことです。その結果、生水の利用によってALSリスクが増加することが統計学的に証明されました。しかしながら、どのような物質が関わっているのかは不明であり、全ての生水が必ずしもALS発症につながる訳ではありません。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)になりやすい人の特徴
ALSのリスクが高まると考えられる人の特徴には以下のようなものがあります。
中高年以降の方
日本のALSの発症リスクをあげる要因の一つとして、年齢があります。ALSの発症率は加齢とともに上昇し、70歳代でピークとなります。なお、世界でも同様の傾向があります。40歳代から加齢に伴って上昇し、60歳代から70歳代にピークとなりそれ年以降の年代では減少します。
男性
性別も、ALSの確立された発症リスクです。男性は女性よりも1.3〜1.5倍発症率が高いとされています。
家族にALS患者がいる
家族歴もALSの発症リスクを高めるのではないかと言われています。
例えば、海外での研究では、ALS患者の家族は生涯を通じてALSを発症する確率が一般の方に比べて約4.7倍大きくなることが示されました。ただし、ALSの遺伝の仕方については、海外と日本では異なる部分もあります。そのため、日本独自の研究が今後望まれるところではあります。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の代表的な症状
ALSの症状としてよくみられるものを紹介しましょう。
手足いずれかの筋肉が痩せ、力が入らなくなる
最もよくみられるタイプのALSである脊髄発症型(古典型)は、上肢あるいは下肢のいずれか筋萎縮と筋力低下がみられます。その後、他の手足にも同様の症状がみられるという経過をたどります。
特に思い当たる原因がないのに筋肉が痩せたり力が入りづらくなったりした際には、神経や筋肉の異常が疑われます。早めに神経内科や脳神経内科を受診しましょう。
言葉が話しづらくなったり飲み込みづらくなったりする
球麻痺(きゅうまひ)型のALSでは、球麻痺や偽性球麻痺による構音障害や嚥下障害が最初の症状となります。その後、首や肩の筋肉の萎縮が始まり、手足の筋肉への症状が及びます。
腕や肩、舌の筋肉がピクピクする
下位運動ニューロン徴候といって、筋肉を動かす神経が障害を受ける時の症状の一つに線維束性収縮があります。これは、筋肉がピクピクと動くような症状がみられることです。この症状は、もちろん疲れなど病的ではない原因による場合もあります。しかし、こうした症状が続くようであれば、一度脳神経内科などの受診をおすすめします。
すぐに病院へ行くべき「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」
ここまではALS(筋萎縮性側索硬化症)を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。
息苦しさがある場合は、脳神経内科へ
ALSの中には、呼吸するための筋肉が初期から麻痺する例もあります。そうした場合には、生命に関わることもあります。息苦しさがみられるような際には、早急に脳神経内科を受診しましょう。
受診・予防の目安となる「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」のセルフチェック法
・手足や舌の力が入らず、筋肉が痩せてきた場合
・筋肉がぴくつく症状がある場合
・ろれつが回らない、喋りにくい、あるいは飲み込みづらい症状がある場合
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の検査法
ALSの診断は、上位・下位運動ニューロン障害があること、進行性に経過していること、そして他の病気が除外されることの3点によってなされます。そのために必要な検査について説明していきます。
神経診察
ALSは、体を動かす神経(運動ニューロン)がダメージを受ける病気です。運動ニューロンには「上位運動ニューロン」と「下位運動ニューロン」があり、これらの症状を調べることが診断に欠かせません。
診察では、脳や脊髄(首・胸・腰の部分)にどのような症状が出ているかを確認します。典型的な症状がそろっていれば、診察だけでほぼ診断できることもあります。
上位運動ニューロンの異常では、反射が強くなる「病的反射」や、やせた筋肉の腱反射が強まることが特徴です。下位運動ニューロンの異常では、筋肉がやせたり、筋力が低下したりしますが、中でも「線維束性収縮(筋肉がピクピク動く現象)」があるかどうかが特に重要視されます。
脳神経内科医が外来で診察を行います。
電気生理学的検査
ALSの診断には、主に針筋電図検査と神経伝導検査が行われます。
針筋電図検査は、症状が運動神経の異常によるものなのか、それとも筋肉自体の異常なのかを判断するための検査です。細い針を筋肉に刺し、電気的な活動を記録します。運動神経の異常がある場合は、それが急性のものか慢性のものかも評価できます。また、神経診察で特徴的な異常が見られない場合でも、針筋電図の結果が診断の手がかりとなることがあります。
神経伝導検査は、ALSを直接診断するためではなく、似たような症状を引き起こす「脱髄性ニューロパチー」などの病気を除外する目的で行われます。
これらの検査は、基本的に脳神経内科がある病院で受けることができます。
神経画像検査
核磁気共鳴画像(MRI)などの画像検査は、他の疾患を除外するために行われます。
頭部・脊髄のMRIでは、脳血管障害や前頭側頭型認知症、多発性硬化症などの脱髄性疾患、脊髄空洞症、脊髄症などを鑑別します。
近年ALSでも頭部MRI画像に異常があることがわかりました。T2強調画像・プロトン画像・FALIR画像での皮質脊髄路の信号変化や、T2*強調画像・susceptibility-weighted imaging(SWI)の運動野の低信号も変性を示唆する所見と言われています。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療法
ALSに対しての根本的な治療法はまだありません。そこで、以下のように症状の進行を遅らせるような薬を使ったり、症状を和らげる方法である対症療法を行なったりしていきます。
リルゾール
リルゾールは、グルタミン酸放出阻害作用などを有し、神経保護作用を発揮する薬剤です。経口薬ですので、自宅での治療可能です。日本ではALSの治療・病気の進行の抑制に対して保険適用されています。
無力感や悪心、めまいなどが主な副作用です。重篤な肝機能障害がある場合には、内服は禁忌です。脳神経内科医が処方します。
エダラボン
エダラボンは抗酸化作用を持つ薬剤です。以前から脳梗塞の急性期に用いられていました。ALSの運動機能の進行抑制に対して2015年から保険適用になりました。エダラボンは、点滴投与する薬です。初回は14日間連続で点滴静注します。最近、内服薬も発売され、注射による負担が軽減されるようになりました。
リハビリテーション
ALSに伴い、筋肉や関節の痛みが生じることがあります。そうした症状に対して、早期からリハビリテーションを開始することが大切です。また、飲み込みや呼吸機能の保持のためにもリハビリテーションは重要です。しかし、過剰な運動負荷は筋力低下を悪化させる可能性があります。翌日に筋肉痛や疲労感、呼吸器症状が悪化することがないように行うことが大切です。
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因」についてよくある質問
ここまでALSの原因などを紹介しました。ここでは「ALSの原因」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
ALSになりやすい人の職業はありますか?
神宮 隆臣 医師
ALSの発症リスクとして、喫煙や鉛などの重金属への曝露、殺虫剤への曝露、頭部外傷、兵士としての参戦などについて研究がなされています。しかし、確実にリスクを高めると証明されたものは現時点ではありません。
ALSの予防法について教えてください。
神宮 隆臣 医師
現時点ではALSの確実な予防法はありません。しかし、ALSのリスクを高める要因として、喫煙があげられます。そのため、現在喫煙している方は禁煙することが、まだ喫煙していない方はタバコを吸わないということが予防につながる可能性はあります。
編集部まとめ
今回の記事では、ALSの発症の原因として考えられている要因について解説しました。まだ研究段階ではありますが、徐々にALSの病態が明らかになってきており、新たな治療法の開発にもつながる可能性はあります。今後の知見の集積に期待がもたれるところです。
今回の記事に挙げたような症状がみられる際には、早めに脳神経内科専門医を受診し、適切な検査を受けることが重要です。
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する病気
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する病気は20個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経内科の病気
ALSに関連する病気はさまざまですが、まずは脳神経内科の受診をお勧めします。
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連する症状
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と関連している、似ている症状は8個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 手足に力が入らない
- 筋肉が痩せる
- 筋肉がピクつく
- ろれつが回らない
- 喋りにくい
- 声が続かない
- 鼻声になった
- 飲み込みにくい
上記の症状は、ALSまたはそれ以外の神経や筋肉の病気の初期症状の可能性があります。気になる症状があれば、医療機関を受診しましょう。