「脳卒中の治療法」はご存知ですか?治療期間や費用も医師が徹底解説!
脳卒中の治療法とは?Medical DOC監修医が脳卒中の治療法・後遺症・入院期間・治療期間・費用などを解説します。
監修医師:
佐々木 弘光(医師)
目次 -INDEX-
「脳卒中」とは?
脳卒中とは、脳の血管が原因で「突然」発症する脳疾患群の通称のことで「脳梗塞」、「脳(内)出血」、「くも膜下出血」の3つに分類されます。また広い意味で「脳血管疾患」に含まれます。急に発症して命にも関わるため、とにかくすぐに治療を開始することが大切です。また脳卒中のサインやポイントは、「F:Face 左右どちらか片方の顔が歪み非対称になる」、「A:Arm 片腕に力が入らない」、「S:Speech 呂律が回らない」、「T:Time 症状が出現した時間」、の頭文字をもじって「FAST」と言われます。またくも膜下出血では突然の強い頭痛が認められます。もしこれらの症状が現れたら脳卒中が強く疑われますので躊躇せず医療機関を受診してください。ここでは脳卒中の具体的な治療や後遺症・入院期間や治療費等について解説します。
脳卒中の主な治療法
治療法:脳梗塞
脳梗塞とは脳の血管に血の塊「血栓」が詰まり、脳の一部に血液が流れなくなった結果、脳細胞が死滅する病気です。代表的な原因に、アテローム性と呼ばれる動脈硬化によるもの、心原性と呼ばれる心房細動等の不整脈でできた心臓内の血栓によるもの、があります。またラクナ梗塞と呼ばれる比較的小さな脳梗塞もあります。頭部CTやMRIで診断し、点滴や内服で血栓を溶かす治療を行います。また特に発症時間(何時何分に症状が現れた)がわかり、発症から治療開始までが4時間半以内なら、ある一定条件下で「tPA」という強力な血栓を溶かす薬剤(血栓溶解薬)の点滴をすることもあります。またカテーテルを使って血管の中から直接血栓を除去する「血栓回収術」という手術を行う場合もあります。そしてこれらの治療開始が早ければ早いほど良いのです。発症後は数日~1週間程度、不安定な状態が続きますので、主に脳神経外科や(脳)神経内科、脳血管内科といった脳卒中を専門とする科に緊急入院します。また入院中に脳梗塞の原因を調べ、再発予防も行います。
治療法:脳出血
脳(内)出血とは脳の血管が破れて出血し、脳細胞を破壊する病気です。その多くは高血圧性脳出血といって、高血圧や加齢に伴う血管の脆さが原因です。頭部CTや造影CT、脳血管撮影といった検査で診断します。治療はまず降圧剤で血圧を安定化させ、出血が拡大しないようにします。軽症でも遅れて出血が拡大することがあり、脳神経外科や(脳)神経内科といった科に緊急入院します。出血量が少なければ安静にして経過を見て、出血が自然吸収されるのを待ちます。脳梗塞との大きな違いは、出血が脳内の大きな血の塊(血腫)となって周辺を圧迫し、後から脳の破壊が広がってしまう点です。従って「脳ヘルニア」という周囲を強く圧迫して命の危険がある状態では、救命目的に血腫を除去する手術を行います。脳の骨を外して行う開頭術という手術ですが、近年は内視鏡を用いてなるべく小さく開頭して行うケースもあります。
治療法:くも膜下出血
くも膜下出血とは、脳にある3層の膜のうちの「くも膜」という箇所に出血を生じる病気です。出血の原因として多いのは、脳の血管にできた瘤(脳動脈瘤)の破裂によるものです。脳動脈瘤の発生原因は不明な点も多く、また基本的に巨大な動脈瘤でなければ無症状であり、破裂するまで気づかれません。そのため「脳ドックで頭のMRIを撮ったら、たまたま見つかった」ということもあります。しかしひとたび破裂してしまうと極めて重篤な状態に陥ります。症状は「今まで経験したことのない頭痛、稲妻が突然走ったような頭痛、バットで殴られたような頭痛」等と言われます。また破裂直後から痙攣や意識不明で搬送される場合もあります。頭部CTやMRI、頭部造影CTや脳血管撮影といった検査で診断し、出血の原因を特定します。そして脳神経外科や脳血管内科で開頭手術による動脈瘤クリッピング術やカテーテルによる脳動脈瘤コイル塞栓術といった治療を行い、動脈瘤が再破裂しないようにします。手術後は最低でも3~4週間程度の入院を要します。というのも、破裂してから4~14日程度は脳の血管が収縮する「脳血管攣縮」を起こして血管が詰まり、脳梗塞になることがあります。脳梗塞を起こすと、頭痛のみだった症状に、麻痺や言語障害が加わる可能性もあるので、脳血管攣縮を予防する点滴を行います。さらにそれ以後も、出血によって脳の中の髄液と呼ばれる液体の流れが妨げられ、歩行障害や認知症のようになる「水頭症」と呼ばれる合併症が生じることもあります。その場合、外科治療が必要となります。
軽い脳卒中の主な治療法
治療法:軽症の脳梗塞
脳梗塞で後遺症がほとんど残らなかった場合、数日~10日程度で退院のこともあります。また脳梗塞の一歩手前の一過性脳虚血発作(TIA)という状態もあります。一時的な脱力・呂律困難等の症状で、数日のみの入院になることもあります。しかし脳梗塞は一度起こして終わりではなく、再発する危険があります。つまり軽症だからといって全く油断はできず、退院後も外来通院をして、予防治療を続けることが大切です。適切な血栓を溶かす薬(抗血栓薬)を内服し、普段からこまめに水分補給をして脱水を予防する、生活習慣病を避ける生活を心掛ける、といったことも重要です。また心房細動という不整脈や卵円孔開存症という心臓の中の壁(中隔)に穴が開いている病気が原因の場合、循環器内科でカテーテル等の治療を検討する場合もあります。いずれにせよ脳梗塞は再発予防が非常に重要で、しっかり通院することが大切です。
治療法:軽症の脳出血
小さい脳出血で手術の必要がなく、症状も軽い場合は2週間程度で退院できることがあります。脳神経外科や脳神経内科などの科が入院を担当し、脳梗塞と同様、退院後も通院を要します。脳出血の原因が、脳動静脈奇形やもやもや病、海綿状血管腫、脳腫瘍といった特殊な疾患の場合は再出血を予防するための外科治療を検討する場合もありますが、基本的に中高年以降の方の脳出血は高血圧が原因です。そして一度起こされた方は、出血を起こしやすい素因を持っているということであり、血圧のコントロールが悪い場合は再発する危険性があります。従って、退院後も外来通院で、内科治療による血圧のコントロールが必要です。
治療法:軽症のくも膜下出血
くも膜下出血は頭痛のみの軽い症状もありますが、そもそも脳動脈瘤の破裂であれば緊急手術を要し、最低でも3~4週間程度は入院を要します。従って、基本的に発症すると長期入院は覚悟しなければなりません。ごく稀に出血源が特定できないくも膜下出血もありますが、その場合は複数回の検査を行い、再出血の危険性が高くないと判断されれば退院になります。退院後も外来通院をし、頭部MRI等で定期的な経過観察が必要です。というのも、稀ですが治療した脳動脈瘤が再び大きくなる、違う場所に新しい脳動脈瘤ができる、ということもあるからです。
治療後の脳卒中の後遺症
脳卒中は多くの場合、手足の麻痺や嚥下障害、言語障害、高次脳機能障害といった何らかの後遺症を残すため、リハビリによる機能回復が必須です。そしてすぐに自宅退院することが難しいような後遺症ではリハビリ治療に特化した「回復期リハビリ病院」に移動(転院)して、さらに入院を継続します。リハビリ期間は数か月以上かかる可能性もあり、その後も長期で福祉・介護サービスが必要となる場合もあります。またリハビリをすることすらも困難な重度の後遺症の場合、療養できる医療施設に転院して長期入院する場合もあります。ここでは脳卒中の後遺症について詳しく解説します。
麻痺
手足や顔の麻痺が残ると、立てない・歩けない、手の作業ができない、食事や会話がしにくい等、日常生活に様々な支障がでます。つまり脳卒中を起こす前は意識せずできていたことが、できなくなってしまうのです。そのためリハビリには患者さんの生活力や生活環境が重要です。例えば、もともと仕事をしていたのか、どれくらい自分でできていたのか、誰かと同居していたのか、家の環境は段差が多いのか、といった細かなことまで考え、リハビリの目標を設定します。また脳卒中の麻痺の特徴は左右どちらか半身のみに出現するということです。つまり麻痺があるのは利き手なのか、麻痺が残っていない側をうまく使うことはできるか、といった点も重要です。そして完治は難しくても、少なくともリハビリをして筋力を補ったり、使い方を工夫したりすることで、発症前の70%程度くらいまでを目標にして自宅退院できるようリハビリします。また必要に応じて杖や歩行装具や介護サービスの利用等を考え、退院後の生活サポートを検討します。一方、麻痺を放置すると、どんどん動かしづらくなり、固まっていく「拘縮」という状態になる可能性もあります。重度の麻痺はある程度の拘縮が出ることも仕方ないですが、可能な限り退院後もリハビリを続けていくことが重要です。
しびれ
手足や顔面のしびれ、感覚低下といった症状が残る方もいらっしゃいます。これらは感覚障害といいますが、残念ながらリハビリで回復させるということは難しいです。従って、しびれが強い場合は内服を試すこともありますし、感覚が低下している場合は、例えば火傷をしても気が付きにくいといった問題もありますから、日常生活でより注意を払う必要があります。
言語障害、高次脳障害
複数の情報を統合・処理する脳の部分が障害されると、言語障害や高次脳機能障害という後遺症になることもあります。空間認識や言語理解ができず、例えば片側の空間のみを無視してしまう、言葉がうまく理解できない・話せない、書字や計算がうまくできない、といった症状が後遺症となります。また精神症状や認知症につながる場合もあります。言語療法といって言葉や空間認知、情報理解に関するリハビリを行うことで機能の回復を目指します。完治は難しいですが、リハビリを続けて日常生活で後遺症を補うやり方を工夫することで、克服することは可能です。
脳卒中の入院・治療期間
軽症から中等症で数日、1~2週間のことが多いです。中等症以上で3~4週間、さらに重症ではリハビリ期間もあわせて数か月程度の入院になる場合もあります。
脳卒中の治療費用
厚生労働省が報告している医療給付実態調査では、令和3年度の「脳血管疾患」の1件当たりの診療費は入院で約87万円程度、入院外で15000-16000円程度とあります。しかしこれはあくまで保険外の値であり、実際には公的保険による自己負担の割合、入院の食事代や部屋・ベッド代等によっても変わります。加えて、脳卒中で外科治療が必要なのか、集中治療が必要なのか、後遺症によってのリハビリ期間がどれくらいかかるのか、といった点でも数十万から、さらにかかる人など、個人によってその費用のばらつきは様々で、脳卒中の治療費用を一概にまとめることは困難です。また民間の医療保険に加入している場合や高額療養費制度の利用などによっても日々の支払いコストは変動すると考えられます。もし入院費用等で不安がある場合は、医療相談室といった病院内の窓口で相談してみましょう。
「脳卒中の治療」についてよくある質問
ここまで脳卒中の治療などを紹介しました。ここでは「脳卒中の治療」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
脳卒中は主にどんな治療法が行われますか?
佐々木 弘光医師
脳卒中は脳梗塞、脳(内)出血、くも膜下出血に分類されます。いずれも基本的には緊急入院となり、脳梗塞では血栓を溶かす治療やカテーテルによって物理的に血栓を除去する手術、脳(内)出血では降圧や出血を除去する手術、くも膜下出血では脳動脈瘤の再出血を予防する開頭術やカテーテル等の手術を行います。
編集部まとめ
ここまで脳卒中について解説してきました。脳卒中はとにかくすぐに治療を開始することが大切です。手足の麻痺や呂律が回らない、顔が非対称、様子がおかしい、突然の強烈な頭痛、こういった症状があり、少しでもおかしいなと感じたらすぐに救急受診するようにしましょう。
「脳卒中の治療」と関連する病気
「脳卒中の治療」と関連する病気は19個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳卒中の原因のほとんどは生活習慣病に関係するもので高齢者に多く発症します。ただし、生活習慣病に関連しないものでも脳卒中の発症原因となることがあり、若い方で脳卒中を発症するケースも見られます。
「脳卒中の治療」と関連する症状
「脳卒中の治療」と関連している、似ている症状は11個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
急に上記のような症状が出現した際には、脳卒中の発症が疑われます。すぐに医療機関への受診をお勧めします。
参考文献