「脳梗塞の後遺症」となる症状はご存知ですか?後遺症がない確率も医師が解説!
脳梗塞の後遺症にはどんな症状がある?Medical DOC監修医が脳梗塞の後遺症・原因・リハビリなども解説します。
監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医。日本認知症学会、日本内科学会などの各会員。
目次 -INDEX-
「脳梗塞」とは?
脳梗塞とは、脳の血管が詰まることで生じる脳血管障害のことです。脳卒中には、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などがありますが、この脳卒中の中で最も頻度の高いものが脳梗塞です。
脳血管が詰まるとその血管から栄養をもらっていた脳細胞は死んでしまうため、多かれ少なかれ脳組織にダメージが加わり何らかの症状が現れます。その程度によっては後遺症を残したり、命に関わる事態に陥ったりします。実際、近年のデータでは、脳卒中は癌や心臓病、老衰に次いで死因の4位、介護を要する原因の1位となっており、発症予防の重要性がお分かりになるかと思います。
今回は、脳梗塞の後遺症について解説いたします。
脳梗塞の後遺症
脳梗塞の後遺症は、ダメージを受けた脳組織の場所によって変化します。脳梗塞の発症当日に行った急性期治療で元通りの状態に改善する場合を除いて、何らかの後遺症は残ることがほとんどです。代表的な症状を紹介します。
運動障害
運動神経線維にダメージが加わると、筋力低下を生じます。十分な手足の力がない場合には歩行が難しくなり、移動するためには歩行器や杖、車椅子、足の装具などの使用が必要となります。顔の動きが悪いと顔が曲がってしまうことや喋りづらさ、飲み込みづらさなどの症状も出現します。
感覚障害
感覚神経線維がダメージを受けると、しびれ・感覚の鈍さ、感覚過敏などの症状が現れます。感覚の障害は、自分の手や足の位置感覚がなくなってしまったり、温度や痛みの感じ方がおかしくなったりします。常にジリジリヒリヒリするようなしびれる症状も残ることもあり、症状は徐々に軽減することは期待できるものの、生活の質は低下してしまいます。
失語症
言語機能の脳領域や神経線維が脳梗塞によってダメージを受けるとコミュニケーションを取ることが難しくなります。言語機能が低下した場合には失語症という状態に陥ることがあります。
話す、聞く、読む、書くなどの言語機能が低下した場合、話の内容の理解ができるかどうか、流暢に言えるかどうかという観点では、運動性失語や感覚性失語、全失語、健忘失語、伝導失語などに分類されます。これについては関連記事をご参照ください。
今回は失語症の評価のなかで症状による分類を紹介します。
- ・喚語困難(かんごこんなん):何か伝えたいことがあるのに、いうべき言葉が出てこない状態。
- ・理解力障害:言葉は聞こえているのに、その意味が理解できない状態。
- ・錯語(さくご):言葉を言い間違えること。「けしごむ」→「けしのむ」のように発音する音の間違い(音韻性錯語)や、「あそぶ」→「はしる」のように意味の間違い(意味性錯語)が見られることがあります。
- ・残語(ざんご):何かを言おうとするときに、限られた言葉のみが繰り返し出てくる状態。全失語の場合に「そうだ」「これはこれは」など話題に関連のない言葉が出てくることもあります。
リハビリを続けることで徐々に改善する可能性はありますので、粘り強く続けましょう。
意識障害
意識状態を司る脳幹部という領域にダメージがある場合、あるいは、脳内に広範囲の脳梗塞をきたした場合には、意識状態が悪いままで経過することになります。
寝たきりの状態が続き、目を開けるだけ、あるいは簡単な言葉を発するだけといった重い後遺症となるケースもあります。手足などの関節が固まらないように動かすことや車椅子に座ってもらって日中過ごすなどのリハビリを行ったり、イヤホンから音楽を聞いてもらったり、刺激を与えて対応します。
食事は鼻からチューブを入れるか、胃ろうといってお腹の表面から胃に穴を開けてチューブを留置して栄養剤を投与して食事をとる状態になります。
非常に介護度が高い状態です。
脳梗塞の主な原因
脳梗塞は脳の血管の詰まり方によって、大きく3つに分けられます。「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓」です。
なお、これらに分類されない「その他の脳梗塞」というものもあります。
動脈硬化
脳や頚部の血管の動脈硬化などが原因で発症する脳梗塞は、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞と呼ばれるものです。動脈硬化は、多くの場合、高血圧や糖尿病、肥満、などといった生活習慣病を長期間持っていることで徐々に血管のダメージが蓄積されて生じます。
アテローム血栓性梗塞は、動脈硬化によって血の塊(血栓)ができて徐々に血管が細くなって結果的に詰まってしまう、あるいは、血栓が血管の壁からはがれて流れていって、脳内の深部の血管をつまらせてしまうことで生じます。
ラクナ梗塞は、脳の深部の血管が詰まってしまうことで生じます。ラクナ梗塞は動脈硬化だけではなく脱水なども原因になることがあります。
不整脈など
不整脈などによって心臓内に血の塊(血栓)ができてしまい、それが脳内の血管に流れてしまうことで発症する脳梗塞は、心原性脳塞栓と呼ばれます。もっとも多い原因は心房細動という不整脈です。不整脈によって心臓内部の血流が乱れることで血栓ができてしまうと言われています。
また、少数ではありますが、不整脈がない場合には、心臓以外にも足の静脈内にできる血栓や、大動脈のプラーク、卵円孔開存という心臓の病気、肺動静脈瘻という肺血管の病気などが原因となることもあります。
脳血管の異常
その他の脳梗塞には、脳や頚部の動脈の壁が裂けてしまう脳動脈解離などの病気が含まれます。前述の主な3つの脳梗塞と異なり、比較的若い方に多く発症する病気です。無症状の段階で脳ドックなどの際に偶然見つかったり、頭痛の原因検索などで見つかったりすることもあります。これらを引き起こす明らかな原因は明確になっていません。
脳梗塞の治療法
薬物治療
前述のように、動脈硬化で脳の血管が狭くなったり、心臓や静脈などから血の塊(血栓)が流れてきて脳の血管を詰まらせたりすることで脳梗塞になってしまうため、その病態に合わせた薬物治療を行います。
動脈硬化や血管の狭窄による脳梗塞に対しては、抗血小板薬を使います。心臓や静脈などにできる血栓による脳梗塞に対しては、抗凝固薬を使います。
脳梗塞を発症してから4.5時間以内の超急性期では、t-PAという強力な血栓を溶かす薬を使った治療を行うこともあります。
カテーテル治療
血管内治療は、一般的に発症後24時間以内の急性期脳梗塞に対して行われる治療です。
カテーテルという細い管を足や腕の血管から挿入して、脳内の血管まで進めて、血管を詰まらせている血の塊(血栓)を取り除いたり、溶かしたり、ステントという金属を置いて詰まっている脳血管を再開通させます。前述のt-PAという薬を使いながらカテーテル治療を行うこともあります。このように、脳梗塞によってダメージが脳組織内に広がる前に血管を再開通させることで、後遺症を減らすことができます。
基本的にはカテーテル治療(脳血管内治療)専門の医師が行う治療であるため、治療可能な施設とそうでない施設があります。
手術
脳梗塞を発症してしまうと、死んでしまった脳細胞にむくみ(浮腫)が生じてしまいます。脳は頭蓋骨という固い骨で守られているため体積は変わりません。脳のむくみ(脳浮腫)が起こると、腕や足のように腫れて膨らんでくるということはなく、頭蓋内はパンパンのきゅうくつな状態となり、脳浮腫がひどい場合には正常な脳組織も圧迫されてしまい脳のダメージが広がってしまいます。
脳のむくみを改善するための薬を投与して対応しますが、それでも脳浮腫の勢いが強くコントロールが難しいこともあります。この場合、頭の骨を切除する手術を行い、数週間から数ヶ月間にわたって頭蓋骨がない状態にして脳浮腫が改善することを待つという手術治療を行うこともあります。
リハビリ
脳梗塞を発症して運動麻痺や感覚障害などの何らかの症状がある場合には、薬物療法などと並行してリハビリを行います。リハビリについては後述しますが、リハビリは体力を使うので、食事をしっかり摂ってリハビリを進めていきます。
脳梗塞の後遺症を軽減するリハビリ
リハビリが必要な期間はそれぞれの症状によりますが、後遺症を軽減するにはリハビリをとにかく続けることが重要です。脳梗塞の症状が軽い場合には、リハビリによってほとんど気にならないレベルまで改善する可能性もあります。
リハビリ方法は、それぞれの患者さんの状態に応じて異なります。リハビリテーション科の専門医師がいれば、その医師が中心となってリハビリ計画を立てます。施設によっては脳梗塞患者の担当医が中心となって治療にあたります。医師だけではなく、リハビリスタッフ、看護師、栄養士、ソーシャルワーカーなどのチームで対応します。
理学療法(PT)
理学療法は、主に運動麻痺などの運動機能の回復を目指すリハビリのことです。平地や段差がある道での歩行、階段の上り下りやトイレ、入浴などの歩行訓練やバランス訓練を行います。脳梗塞を発症したことによって運動量が少なくなり筋力が痩せてしまうことが大きな問題なので、筋力を維持・強化し、日常生活動作(ADL)の自立を支援します。
作業療法(OT)
作業療法は、手の細かい動きなどをメインにした日常生活動作の向上を目指すリハビリのことです。歯磨きや食事、着替え、入浴など、生活に必要な動作を練習して、必要に応じて補助用具をうまく使えるように訓練していきます。
言語聴覚療法(ST)
言語聴覚療法は、主に食事とコミュニケーションの機能回復を目指すリハビリのことです。
脳梗塞の後遺症で喉の動きが悪い場合にはむせこんでしまうので、喉の動きに応じて、食事内容の形態を変えたりするなど、食事時の姿勢を変えたりするなどの工夫をして訓練します。
失語などの言語障害を持つ場合には、発話練習や聞き取り練習などを通して、粘り強くコミュニケーションが測れるように訓練していきます。
「脳梗塞の後遺症」についてよくある質問
ここまで脳梗塞の後遺症を紹介しました。ここでは「脳梗塞の後遺症」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
脳梗塞発症後に眠くなったり、疲れやすく感じるのは後遺症でしょうか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
その可能性はあります。後遺症の一つに睡眠障害が出現することがあります。睡眠障害があると日中の眠気や疲れやすさを感じることがあります。また、脳梗塞後にてんかんを発症すると抗てんかん薬を服用することになる場合がありますが、抗てんかん薬の副作用で眠気が生じてしまうことも考えられます。
脳梗塞発症後に性格が変わることはあるのでしょうか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
あります。
例えば、前頭葉には人格や理性、感情などの機能を担当する領域がありますが、脳梗塞によってダメージを受けてしまうと、我慢することができない、怒りやすいなどの症状が後遺症として残ってしまう場合があります。
脳梗塞の後遺症がなしの確率はどれくらいでしょうか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
後遺症がない状態というのは、脳梗塞を発症しても特に目立った症状がない場合や、麻痺症状が出現した後で日常的に気にならない程度まで症状が回復する場合のことを指しているのかもしれません。これであれば20%以下程度かと思います。
ただし、後遺症がない状態というのは、細かく症状を観察するとおそらくもっと少ないと思います。なぜなら脳梗塞によって脳組織は多かれ少なかれダメージを受けているからです。
脳梗塞発症後にイライラしたり、怒りっぽくなるのは後遺症の影響でしょうか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
はい。前の質問と同じような内容ですが、前頭葉の一部の領域では人格や理性、感情などの機能を担当しています。脳梗塞によってダメージを受けてしまうことでイライラや起こりっぽさが出現してしまう場合があり、これは高次脳機能障害の症状の一つです。
脳梗塞の後遺症がない場合、仕事復帰はどれくらいでできますか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
その仕事の内容次第で復帰できるかどうか判断できると思います。
脳梗塞を発症しても特に目立った症状がない場合や、麻痺症状が出現した後で日常的に気にならない程度まで症状が回復する場合には復帰できる可能性が高いでしょう。
ただし、麻痺症状や感覚障害、目の動きが悪いなどの場合には、現場で行う仕事や車を含めた機械を扱う仕事は控える必要があります。
編集部まとめ
脳梗塞の後遺症について説明しましたが、これが全てではありません。さまざまな後遺症があると介護度が高くなり、本人及び周囲の方々の苦労が多くなってしまうことがあります。
近年カテーテル治療が進歩し、脳梗塞はすぐに治療を行うことで救命率の向上や後遺症の軽減が期待できるようになってきました。異常を感じたらすぐに病院を受診するようにしましょう。
脳梗塞になってしまった場合には再発予防を目的とした薬物治療と後遺症軽減のためのリハビリを進めていく必要があります。徐々に症状が改善することもあるので、担当医に回復の見込みを確認しながら焦らずに続けることが重要です。
「脳梗塞の後遺症」と関連する病気
「脳梗塞の後遺症」と関連する病気は1個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳神経内科・脳神経外科の病気
脳梗塞の後遺症と脳出血の後遺症はほとんど同じようなものと考えて良いです。
「脳梗塞の後遺症」と関連する症状
「脳梗塞の後遺症」と関連している、似ている症状は10個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
脳梗塞を発症すると多少なりとも後遺症が残ることがほとんどです。発症後すぐにtPA治療やカテーテル治療などを受けることで後遺症がほとんどない状態、あるいは軽い状態になることが期待できるので、脳梗塞を疑った場合には、すぐに受診してください。