「うつ病」は”血液検査”で分かるのかご存じですか?似た症状の病気も医師が解説!

心療内科や精神科で血液検査を行う理由とは?メディカルドック監修医がうつと血液検査の関係、身体疾患を除外する目的、健康診断でうつ病がわかるのかを分かりやすく解説。

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
目次 -INDEX-
精神科・心療内科の血液検査は何のために行う?
精神科や心療内科で行う血液検査は、うつ病そのものを診断するためではなく、身体の病気が関係していないかを確認するために行います。
うつ病は血液検査で診断できるのか
現在の医療では、脳内にあるセロトニンなどは一般的な採血では直接測定はできません。よって、うつ病を血液検査だけで直接確定診断はできませんが、一部でPEA(リン酸エタノールアミン)などの血液中のバイオマーカー研究が進められています。うつ病の診断は、日本うつ病学会も採用するDSM-5などの診断基準に基づき、症状や経過、生活機能への影響を問診や観察で総合的に評価して行われます。
血液検査でうつ病と似た症状の身体疾患が除外できる
血液検査は、うつ病とよく似た症状を示す甲状腺機能低下症や貧血、栄養障害などを確認し、精神症状の背景にある身体疾患を除外・早期発見ができます。
血液検査で適切な処方薬の量や薬の副作用が確認できる
血液検査では、リチウムなど一部の向精神薬の血中濃度を確認し、効き目が弱すぎないか・強すぎないかの判断で適切な用量調整ができます。また、肝機能や腎機能などの同時チェックで、薬による副作用や臓器への負担が生じていないかを評価し、安全性を高めた治療を続けることができます。
メンタルクリニックの血液検査で調べる主な項目とは?
うつ病など心の不調の背景に身体の病気や薬の副作用が隠れていないかを確認するため、いくつかの項目を総合的に調べます。
貧血や栄養状態の確認
赤血球やヘモグロビン(血色素量)、フェリチンなどを測定し、鉄欠乏性貧血の有無や隠れ貧血を確認するとともに、ビタミン(例えばビタミンDなど)・ミネラル(例えば亜鉛)などの栄養状態を評価して、疲労感や気分の落ち込みの背景に栄養不足がないかを確認します。
甲状腺ホルモンのチェック
TSH(甲状腺刺激ホルモン)やFT4(遊離サイロキシン)などの甲状腺ホルモンを測定し、甲状腺機能低下症や亢進症が隠れていないかを確認します。これらの異常は、気分の落ち込みや意欲低下、不安感など、うつ病とよく似た精神症状を起こすため、甲状腺の状態をチェックしておくことが大切です。
肝機能・腎機能の確認
AST(GOT)やALT(GPT)、γ-GTPなどで肝機能を、BUNやクレアチニンで腎機能を確認します。これによって、もともとの臓器障害の有無や、向精神薬による影響が出ていないかをチェックします。これらの結果は、薬の用量調整や処方変更の判断材料となり、安全性の高い治療を続けるうえで重要な指標です。
健康診断の血液検査でうつ病は診断できる?
健康診断の血液検査は、うつ病そのものの診断はできませんが、うつ病と似た症状を起こす身体疾患の有無を確認するうえで参考になる場合があります。
健康診断は身体の異常を見つけることが主な目的
健康診断の血液検査は、糖尿病や脂質異常症、肝機能障害などの身体の異常や生活習慣病のリスクを早期に見つけることを主な目的として実施されます。うつ病などの精神疾患は、健康診断だけで診断できないことが少なくないため、気分の落ち込みが続く場合は別途メンタルクリニックの受診が必要です。
健康診断の結果に異常がなくても精神的な悩みや症状があれば医療機関へ
健康診断の結果が正常でも、2週間以上続く憂うつ・不安・不眠・集中力低下などで仕事や家事に支障が出ているときは、早めに医療機関を受診したほうがよいです。まずは身体の症状と心の不調が混ざっている場合に相談しやすい心療内科を受診し、強い気分の落ち込みや現実感の乏しさなど明らかな精神症状が中心の場合は精神科の受診も検討します。
血液検査の「判定区分」の見方と再検査が必要な結果
以下のような診断結果の場合には、放置せずに早めに医療機関を受診しましょう。
血液検査の基準値と結果の見方
血液検査の「基準値」は健康な方の95%程度が入る範囲を示す目安です。少し外れただけで病気とは限りませんが、大きく外れる場合や複数項目が異常な場合は注意が必要です。特に、血糖値・脂質・肝機能・腎機能などが受診勧奨判定値を超えるほど高い(または低い)ときは、放置せず医師の評価と追加検査を受けることが大切です。
血液検査の再検査・精密検査の基準と内容
健康診断などで血液検査に異常があった場合は、まず健診結果に記載された指示に従い、同じ医療機関またはかかりつけ医で再検査・精密検査を行うことが一般的です。再検査では同じ血液検査を再度行い、必要に応じて超音波検査やCT検査などを追加します。通常は保険診療のため自己負担は3割程度です。多くの項目は1〜3か月以内の受診が目安ですが、腫瘍マーカーや著しい異常値など緊急性が高い場合にはできるだけ早い受診が勧められます。結果に応じて生活習慣の改善指導から薬物療法・専門科紹介などの治療が行われます。
血液検査で分かるうつ病に似た症状のある病気・疾患
ここではメディカルドック監修医が、うつ病と似た症状が現れる血液検査の異常から疑われる病気を紹介します。どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。
更年期障害
更年期障害は、閉経前後に女性ホルモンの急激な低下で、自律神経の乱れや抑うつ気分、不安感、イライラ、動悸、ほてりなど心身の不調が出る状態を指します。治療は、ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬、必要に応じて抗うつ薬・抗不安薬などを組み合わせて行います。症状がつらく日常生活に支障が出る場合は、まず婦人科(更年期外来・女性外来)を受診してください。
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、月経や消化管出血、偏った食事などで体内の鉄が不足し、ヘモグロビンが十分作れなくなることで、疲れやすさやめまい、集中力低下などが起こる病気です。治療は原因の精査とともに、基本は経口鉄剤による鉄分補充と食事指導で行います。だるさや動悸、立ちくらみが数週間以上続く、健康診断で貧血を指摘された、などの場合には、まず一般内科(必要に応じて婦人科や消化器内科、血液内科)の受診が勧められます。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、橋本病などが原因で甲状腺ホルモンが不足し、新陳代謝が落ちる病気です。強い疲労感や寒がり、体重増加、むくみ、便秘、気分の落ち込みなどが続きます。治療は不足した甲状腺ホルモンを補うのが基本です。だるさや抑うつ感、冷え、体重増加などが長引く場合は、甲状腺を専門とする内科(内分泌内科・甲状腺外来)を受診してください。
肝機能障害
肝機能障害は、アルコール、多脂肪食、薬剤などが原因で肝細胞がダメージを受け、解毒や代謝の働きが低下する状態を指します。だるさや食欲低下、黄疸などの症状が現れることがあります。治療は原因(飲酒・肥満・薬剤など)への対処と生活習慣の改善が基本です。健康診断でAST・ALT・γ-GTPなどの異常を指摘されたときや、強い倦怠感や黄疸が見られるときは、消化器内科や肝臓内科、一般内科への早めの受診が勧められます。
腎機能障害
腎機能障害は、糖尿病や高血圧などで腎臓のろ過機能が低下し、老廃物や水分・電解質がうまく排泄できなくなる状態で、むくみやだるさ、貧血などを伴うことがあります。治療は原因(糖尿病・高血圧など)への対処と塩分・たんぱく制限などの生活指導、必要に応じて薬物療法や透析が行われます。むくみや息切れ、血尿、健診でクレアチニンやeGFR異常を指摘された場合は、一般内科または腎臓内科への早めの受診が勧められます。
メンタルの不調を感じたときの対処法は?
疲れやすさややる気の出なさなどのメンタルの不調を感じたときは、まず睡眠・休養を確保し、負担を減らして過ごします。また、信頼できる方に気持ちを話したり、軽い運動やリラクゼーションで心身を整えたりするようにします。それでも2週間以上、憂うつ・不安・不眠などが続き、仕事や家事に支障が出てきた場合には、一人で抱え込まず、早めにかかりつけ医や心療内科・精神科、自治体や厚生労働省の相談窓口(こころの耳など)への相談が大切です。
「うつ病と血液検査」についてよくある質問
ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「うつ病と血液検査」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
健康診断の血液検査で、うつ病などの精神疾患が分かりますか?
伊藤 規絵(医師)
健康診断の血液検査だけで、うつ病などの精神疾患の診断はできません。
精神科や心療内科で血液検査をするのはなぜでしょうか?
伊藤 規絵(医師)
うつ病そのものを調べるためではなく、うつ病に似た症状を起こす甲状腺機能低下症や貧血、肝機能・腎機能障害などの身体疾患が隠れていないかを確認し、必要に応じて専門科へつなげるためです。さらに、向精神薬の安全性を高めて使うために、肝機能や腎機能、血糖・脂質などを定期的にチェックし、副作用や血中濃度の異常がないかをモニタリングする重要な役割もあります。
採血によるPEA検査を受けると鬱や気分障害かどうかが客観的にわかりますか?
伊藤 規絵(医師)
PEA(リン酸エタノールアミン)は、うつ病で低下しやすい血中バイオマーカーとして研究が進んでおり、抑うつ傾向を客観的に評価する一助となる可能性がありますが、現時点ではPEA検査だけでうつ病や気分障害を確定診断できるわけではありません。
うつの可能性があるとき、心理カウンセリングや血液検査・脳波検査はすべて受けるべきですか?
伊藤 規絵(医師)
心理カウンセリングや血液検査、脳波検査をすべて受けなければならないわけではありません。まずは医師が問診で症状や経過、生活への影響を丁寧に伺います。そして、必要に応じて身体疾患の除外のための血液検査や、てんかんなどほかの病気が疑われる場合の脳波検査、状態把握のための心理検査を行います。どの検査が自分に必要かは診察のなかで相談しながら決めていきます。
まとめ
うつ病の血液検査は、うつ病そのものを診断する検査ではなく、うつ病に似た症状を起こす身体の異常が隠れていないかを調べるために行います。気分の落ち込みや意欲低下が続くときは、血液検査の結果だけに一喜一憂するのではなく、症状や生活への影響を医師に相談し、必要に応じて心療内科・精神科での診察や治療につなげていくことが大切です。
「うつ病と血液検査」で考えられる病気
「うつ病と血液検査」から医師が考えられる病気は8個ほどあります。
各病気の詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
精神科系の病気
婦人科の病気
婦人科系
内科・内分泌系の病気
うつ病と血液検査の結果からは、更年期障害や鉄欠乏性貧血、甲状腺機能低下症、肝機能障害、腎機能障害などの病気が指摘される可能性があります。
「うつ病と血液検査」と関連した症状
「うつ病と血液検査」と関連した症状は8個ほどあります。
各症状の詳細についてはリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
憂鬱感や無気力、朝起きられない、眠れないなどの日常生活に支障をきたす心身のサインが見られる場合は、我慢せず早めに医療機関への相談が大切です。
参考文献
- 日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016(2024年3月1日 改訂)
- Shimizu E, et al. Diagnostic and predictive utility of plasma phosphoethanolamine levels in depressive disorder. Int J Methods Psychiatr Res. 2025.
- 身体症状に潜むうつ病(レジデント)
- 向精神薬の副作用モニタリング・対応マニュアル 日本精神神経学会薬事委員会タスクフォース報告
- 心もメンテしよう(厚生労働省)
- 血液検査の結果の見方(日本予防医学協会)
- 受診推奨判定値について(厚生労働省)
- 働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省)
- 鉄欠乏性貧血(済生会)
- 甲状腺機能低下症(慶應義塾大学病院)
- 血液検査(肝臓検査.com)
- 腎臓の病気について調べる(一般社団法人 日本腎臓学会)
- 心の耳の相談窓口をご紹介します!(厚生労働省)




