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コロナ禍で増えている「在宅看取り」自宅で看取るための準備を在宅医が解説

 更新日:2023/03/27

「最期の日は自宅で過ごしたい」という患者さんの思いを叶える在宅看取り。現在、在宅看取りは少しずつ普及してきていますが、医師の訪問を受けながら、自宅で継続的な療養が可能なことを知らない方も多くいらっしゃいます。そこで今回は「札幌在宅クリニックそよ風」の飯田先生に在宅医療の説明や制度、ご自宅で最期を迎える際にご家族が準備することなどについて取材しました。

飯田 智哉医師

監修医師
飯田 智哉(札幌在宅クリニックそよ風 院長)

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札幌医科大学卒業。札幌医科大学附属病院第一内科・市立室蘭総合病院消化器内科・小樽市立病院消化器内科などで勤務、研鑽を積む。2020年4月に「札幌在宅クリニックそよ風」へ入職。在宅医として、患者さんやご家族が住み慣れた場で少しでも心地よく生活出来るよう努めている。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化管学会胃腸科専門医などの資格を有する。

在宅看取りとは

在宅看取りとは

編集部編集部

近年、在宅看取りを選択する方が増えているそうですが、どのような背景があるのでしょうか?

飯田 智哉医師飯田先生

2040年問題は盛んに議論されていますよね。700万人いる団塊の世代が平均寿命を越えて、死亡者数がピークを迎える一方で、「亡くなる場」であった病院のベッド数が削減され、40万人以上が「看取り難民」になると推定されています。そのため、国を挙げて「亡くなる場」を「病院から在宅へ」と推し進めているのですね。

編集部編集部

国が推し進めているとは意外でした。ほかに要因はありますか?

飯田 智哉医師飯田先生

加えて、「コロナ禍」が大きく影響していることを日々実感しています。病院に入院していると、面会制限があってご家族やご友人と会うことが出来ないという理由から、半ば「家に帰らざるを得なかった」方々と多く出会います。実際、コロナ禍となってから当クリニックへの紹介例は大幅に増えていますね。

編集部編集部

自宅で看取るのは、どんな方でもできるのですか? 介護する家族は自宅で看取れないと考える方が多いと聞きます。

飯田 智哉医師飯田先生

基本的には「どんな方でも」自宅で最期を迎えることが可能です。ご本人の家に帰りたい気持ち、ご家族の家に帰したい気持ちが、我々在宅医療をやっている者の原動力です。もちろん自宅に戻るにあたりいくつかの準備は必要ですが、安心して家に帰ってもらいたいですね。

編集部編集部

在宅医療で受けられるサポートについても伺いたいところです。

飯田 智哉医師飯田先生

総合調整役であるケアマネージャー、電動ベッドや手すりなどの準備を行う福祉用具相談員、ヘルパー業務を行う訪問介護、看護業務全般を担う訪問看護、医師による訪問診療などの各専門家が「本人と家族の暮らし」を、医療・介護の面からサポートします。退院を機に在宅医療が開始となるような場合は、本人や家族、病院関係者、上述した在宅医療関係者が集い「退院前カンファレンス」を行って、現在の病状や今後の見通し、必要なケアなどについて共有し、在宅療養が円滑にスタートするよう準備をしますので、どうぞご安心下さい。

編集部編集部

医師や看護師の方々にサポートしていただけても、どうしても不安が残ります……。

飯田 智哉医師飯田先生

退院日にも関係者が自宅に集まって顔を合わせ、在宅療養開始に伴っての具体的なアドバイスを行うことが多いですから、最初から気負い過ぎず、各専門家と相談しながら進めていくのが良いと思いますよ。

在宅医療と病院医療の違い

在宅医療と病院医療の違い

編集部編集部

家では病院のような処置ができないという不安もあります。在宅で受けられる医療はどのようなものがありますか?

飯田 智哉医師飯田先生

おそらく皆さんが思っているよりも、かなり多くのことが出来ます。検査は血液検査、尿検査、エコー、心電図、場合によってはレントゲンなど、治療は薬剤の処方、点滴、胃瘻(いろう)カテーテルや尿道カテーテルの交換、簡単な抗がん剤治療、医療用麻薬を含めた緩和治療、腹水穿刺、胸腔穿刺、輸血、腹膜透析など多岐に渡ります。在宅看取りという観点では、病院で出来るレベルと同レベルでの症状緩和が可能です。「家だから」という理由で使えない薬はほとんどありませんし、在宅医療は「24時間365日」の対応をお約束しているので、どのような場合でもご本人・ご家族の求めに応じて在宅療養をサポートします。

編集部編集部

本当に多くの治療を受けることが出来るのですね。

飯田 智哉医師飯田先生

ただ、在宅医療では「出来る」からと言って必ず「する」訳ではありません。家での「暮らし」を何よりも大切にしてもらいたいですし、過剰な治療は家族のサポート体制にも影響を与えます。「治療は出来るだけシンプルに、効果は最大限に」を意識しながら、なるべく無駄を省いた、言わば「引き算の医療」を目指しています。

編集部編集部

病院でしか受けられない医療についても教えてください。

飯田 智哉医師飯田先生

病院でしか出来ないことも沢山あります。検査はCTやMRI、治療は濃厚な抗がん剤治療、放射線治療、外科手術などがその例ですね。我々から見て病院での検査や治療が望ましいと判断し、ご本人やご家族もそれを望む場合には、病院での医療がスムーズに受けられるよう調整します。「在宅医療」と「病院医療」が連携して、お互いの得意分野で力を発揮することが、より良い医療や介護、ひいてはご本人やご家族の暮らしに重要なのだと感じています。

在宅医療の制度

在宅医療の制度

編集部編集部

在宅医療の費用相場について教えてください。

飯田 智哉医師飯田先生

在宅医療にかかる費用は、診療代・薬代・医療/介護サービス代・その他に分けられます。負担割合、訪問頻度、治療内容などによって大きく差がありますが、一般には「通院よりは高く、入院よりは安く」なる場合が多いですね。例えば月2回定期的に医師がご自宅を訪問した場合には、1割負担の方で月6000〜7000円程度の診療代がかかります。

編集部編集部

当たり前ですが、通院と比べて訪問診療は高くなりますね。

飯田 智哉医師飯田先生

訪問診療は「24時間365日」の対応を約束していて、そこに「管理料」という費用が発生するためです。この管理料が比較的高く設定されているので、前述したような費用負担が生じます。また、在宅看取りの場合には、もう少し訪問頻度が増えますし、訪問看護の利用が必要不可欠で、治療内容にもよりますが、1割負担の方でも月数万円以上かかることが多くなります。ただし、公的制度を利用すれば、費用は各々の自己負担限度額までとなります。

編集部編集部

利用できる公的制度はどんなものがありますか?

飯田 智哉医師飯田先生

先ほど1割負担という話をしましたが、在宅医療も病院医療と同様に「医療保険」が適用となるので、年齢や所得によって1割から3割まで負担割合が異なります。また、在宅医療では、訪問看護や訪問介護などのサービスを受けている方が多いですね。末期がんの場合の訪問看護は「医療保険」になるなどの例外はありますが、多くの場合はこのようなサービスを「介護保険」を利用して受けています。

編集部編集部

ほかにもありましたら、教えてください。

飯田 智哉医師飯田先生

高額療養費制度」も病院医療と同様に整備されており、年齢や所得などに応じて自己負担限度額が定められていますので、安心してサービスを受けることが出来ます。その他、身体障がい者などに対する「障害者福祉制度」、難病患者に対する「難病医療制度」、生活困窮者に対する「生活保護制度」なども、在宅医療を行う上では非常に重要です。

ご家族が行う在宅看取りの準備

ご家族が行う在宅看取りの準備

編集部編集部

実際に家で看取りをすることになった場合、どんな準備が必要になりますか?

飯田 智哉医師飯田先生

在宅医療では、「本人と家族を中心に据えた、多職種によるチーム医療」が何より重要です。このチーム医療の中では家族の存在が非常に大きく、マンパワーはある方が有利になります。病状に合わせて、介護休暇などを取得するご家族も多いですね。

編集部編集部

自宅で看取るためには、在宅医療への切り替えはいつ頃から必要ですか?

飯田 智哉医師飯田先生

病気やご家族のサポート状況などにより左右されるので、一概にいつが正解ということはありませんが、ご本人やご家族には、家で少しでも良い時間を過ごしてもらいたいというのが本音です。我々からしても、いよいよという状態になってからよりは、比較的お元気なうちから関わりを持つことで、ご本人やご家族との関係づくり、より良いサポート体制づくりがしやすいと感じています。

編集部編集部

切り替えのタイミングは難しい問題なのですね。

飯田 智哉医師飯田先生

その線引きは曖昧であって良いと思います。信頼している病院の先生や看護師さんとの関係が断たれてしまうことに不安を感じる場合は、訪問看護や訪問診療を受けながら、必要な時には病院にも行く。最期についての考え方も、人それぞれです。最期まで家にいなければならないなどということはなく、最期まで家にいたい人もいれば最期は病院が良いという方もいます。その点についても、「病院からの切り替え」というよりは、「病院と連携して」という考えの方が強いかもしれませんね。

編集部編集部

最後に読者へメッセージをお願いします。

飯田 智哉医師飯田先生

皆さん、ご家族が末期がんで余命1ヶ月と宣告され、痛みなどがあって医療が必要な状態を想像してみて下さい。多くの方は、ご家族がご自宅ではなく、病院のベッドで寝ている姿を想像するのではないでしょうか。それは在宅医療よりも病院医療の方が皆さんにとってずっと身近にあったので、イメージ出来るからだと思います。まだまだ多くの方が在宅医療のことを知らない。知らないともちろんイメージ出来ませんよね。それは医療者、非医療者を問わずだと思います。コロナ禍の影響もあって、在宅医療に目が向けられ始めている今、一人でも多くの方に我々の存在や活動を知ってもらって、家で安心して在宅医療を受けてもらいたいですね。

編集部まとめ

国が推し進めている在宅看取り。取材してみると、私たちが思っている以上に手厚い医療が受けられ、多くの方が自宅で最期を迎えることができるとのことでした。まだまだ、多くの方に知られていない在宅看取りですが、医療従事者のサポートも公的制度も充実してきている印象です。ご本人とご家族がしっかりと話しあい、納得できる最期を迎えていただきたいと思います。

医院情報

札幌在宅クリニックそよ風

札幌在宅クリニックそよ風
所在地 〒004-0866 札幌市清田区北野6条5丁目11番21号
アクセス 札幌市営地下鉄 東西線「大谷地駅」よりタクシーで5分程度
診療科目 内科

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