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健康診断で肝機能の「ASTが高い」と言われたら肝臓以外が悪い場合も?【医師解説】

 更新日:2023/11/30
健康診断で肝機能の「ASTが高い」と言われたら肝臓以外が悪い場合も?【医師解説】

健康診断で肝機能のASTが高いと言われたらどうすべき?Medical DOC監修医が血液検査のAST(GOT)の見方や基準値・病気のリスク・対処法などを解説。

木村 香菜

監修医師
木村 香菜(医師)

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名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

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健康診断・血液検査で「AST(GOT)が高い」と診断されたときに考えられる原因と対処法

AST(GOT)やALT(GPT)はともにトランスアミナーゼという酵素です。そして、これらとγ-GTPといった項目は、健康診断や血液検査では「肝機能」の項目に含まれています。
AST(GOT)は肝臓や心臓の筋肉に多く含まれる酵素です。心筋梗塞や急性肝炎、アルコール性肝障害といった病気で、血液中の数値が高くなります。
一方、ALTは主に肝臓の細胞に含まれており、肝臓の疾患で高くなることが多いです。
また、γ-GTPは肝臓だけでなく、胆道系(胆のうや、そこで作られた胆汁の通り道など)、膵臓の障害でも上昇します。
この記事では、健康診断や血液検査でAST(GOT)が高いと言われた場合の原因や、精密検査などはどうなるのか、について解説します。

血液検査で肝機能のAST(GOT)が高いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

ASTは、アスパラギン酸トランスアミナーゼという酵素です。
肝硬変や肝がん、アルコール性肝障害などの肝臓の障害の他に、心臓の筋肉や骨格筋(つまり手や足などの筋肉)、血球の破壊によっても血液中での濃度が高くなります。
そのため、ASTだけが基準値を超えて高い、という場合には心筋梗塞や筋ジストロフィーなどの筋肉の異常、溶血性疾患(血液の細胞が破壊されてしまう病態)の可能性もあります。
肝機能障害が起こっていても、初期の段階では無症状の場合もありますので、健康診断でASTの異常値を指摘された場合には、二次検査を受けるようにしましょう。

血液検査で肝機能のAST(GOT)とALT(GPT)が高いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

ALTは、アラニントランスアミナーゼという酵素です。ASTとALTが両方高い場合には、ASTのみ高い時以上に肝機能障害を疑います。その理由は、ASTと異なりALTは特に肝細胞が障害を受けた際に上昇するという特徴があるからです。慢性肝炎や肥満による脂肪肝では、ALTがASTよりもより高くなるという傾向があります。
なお、AST、ALTは肝臓の細胞質に多量にあるため、肝炎などの広い範囲に及ぶ肝細胞の障害で高値となり、急性肝炎の場合には非常に高い値を示すこともあります。
また、薬剤やサプリメントには肝機能障害を起こすものがあります。低用量エストロゲン・プロゲステスチン製剤(低用量ピル)にも肝機能障害の副作用が報告されています。
さらに、ストレスも肝障害を悪化させることもわかっています。
急性肝機能障害が起こった場合には、風邪のような発熱、喉の痛み、頭痛などの症状が出たのちに、尿が褐色となり、黄疸という目の結膜や皮膚が黄色くなる症状があらわれるというのが典型的です。また、全身倦怠感や食欲不振、嘔吐や吐き気なども現れます。このような症状が現れた場合は、すぐに消化器内科を受診しましょう。

血液検査で肝機能のAST(GOT)が高くγ-GTPが低いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

γ-GTPは、γ-グルタミルトランスペプチダーゼという酵素で、タンパク質を分解する酵素群のひとつです。腫瘍や胆石などで胆道が塞がれてしまうことなどが原因で、胆汁がうっ滞(たまってしまうこと)するような時に上昇します。またγ-GTPは飲酒のマーカーとも呼ばれており、アルコールの多飲やアルコール性肝障害でも高くなります。
一方で、γ-GTPが減少する疾患には、高グルタチオン血症、先天性低γ-GTP血症、妊娠時の胆汁うっ滞性黄疸があります。これらのうち、ASTが高い場合には、妊娠時の胆汁うっ滞性黄疸が考えられます。
γ-GTPが低値というだけであればそこまで緊急性は高くはないかと思われますが、AST高値も伴う場合には、より詳しく原因を調べるため、まずは消化器内科を受診しましょう。

高齢者で血液検査のAST(GOT)が高いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

高齢者は、ASTの値が若年者よりも平均的に高くなります。これは、高齢者と若年者では栄養状態や脂質代謝、肝機能・腎機能の状態が違うからであると考えられています。
一方、高齢者では肝炎になっていても自覚症状がないことがあるので注意が必要です。高齢者では重症化や治療期間の延長などのおそれもあるので、健康診断などでASTが高いと言われた場合には消化器内科を受診するようにしましょう。

子供・小児で血液検査のAST(GOT)が高いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

小児、特に10歳以下の子供では、ASTの値は成人よりも平均的に高くなります。これは、この年代では骨格筋由来のASTが多いからと考えられています。小児のASTは成人と比較すると高いことが知られており、乳児期には成人値よりも2〜3倍高くなります。その後徐々に落ち着いてきて、思春期には成人と同程度になります。
一方で、発熱や全身倦怠感、食欲不振、悪心嘔吐、黄疸などの症状があり、ASTが高値を示す際には肝炎などの疾患を疑う必要があります。症状があれば、小児科を早急に受診しましょう。

妊娠中や産後の女性で血液検査のAST(GOT)が高いと診断されたときに考えられる原因と病気のリスク・対処法

妊娠中や産後の女性でASTが高いと診断された場合には、妊娠時などに特有の肝疾患の可能性があります。
妊娠中には、妊娠悪阻(つわり)、妊娠性肝内胆汁うっ滞、急性妊娠脂肪肝が代表的な肝疾患となります。また、HELLP(ヘルプ)症候群といわれるASTの上昇や血小板の減少などを生じる病気もあり、これは産後にも発症することがあります。 かかりつけの産婦人科などで治療を行ってもらうようにしましょう。

健康診断の「AST」の見方と再検査が必要な「ASTが高い」に関する診断結果

ここまでは診断されたときの原因と対処法を紹介しました。
再検査・精密検査を受診した方が良い結果がいくつかあります。
以下のような診断結果の場合にはすぐに病院に受診しましょう。

肝機能検査・血液検査の「AST(GOT)」の基準値・正常値

肝機能検査の基準値は以下のようになります。

基準範囲 要注意 異常
AST 30以下 31~50 51以上
ALT 30以下 31~50 51以上
γ-GTP 50以下 51~100 101以上

(単位 U/L ユニットパーリットル)
異常値を示した場合には、精密検査を受けるようにしましょう。

肝機能検査・血液検査で「AST(GOT)が高い」と診断される数値と精密検査内容

健康診断でASTのみが高い場合には、先ほど解説したような心疾患や筋肉の疾患を疑い、内科にて再検査を受けることになります。そして、血液検査を再度行い、必要に応じて心臓超音波検査などの追加検査を実施します。一方、ASTやALTが両方とも高い際には、肝機能障害を疑います。放置しておくと、どんどん肝機能障害が進行するおそれもあるので、早めに消化器内科にて精密検査を受けることが大切です。まずは既往歴や家族歴、飲酒歴を詳細に把握し、B型肝炎やC型肝炎といったウイルス性肝炎や、アルコール性肝障害、遺伝的な肝疾患、薬剤性の肝障害などの可能性をチェックします。肝機能検査としては、基本的な血液項目(赤血球数やヘモグロビン、白血球数、総蛋白、AST、ATL、γ-GTPなど)や、凝固系の検査、各種肝炎ウイルス抗体やDNAなどを測ります。腹部超音波検査や腹部CT、腹部MRIなどで肝臓に腫瘍性病変が無いか、または肝硬変などでの肝臓の変形が無いかなどをチェックします。肝硬変の状態では、静脈の圧力が高まり食道静脈瘤(静脈が太くなり、こぶのようになること)や胃静脈瘤などが出現する門脈圧亢進症という状態になる可能性があります。これは上部内視鏡検査で確認します。費用については、保険適応で対応可能ですが検査項目の多さによって負担額が変わります。肝機能障害の原因が判明した場合には、それに対する治療を行っていきます。

健康診断・血液検査の「AST(GOT)が高い」診断で気をつけたい病気・疾患

ここではMedical DOC監修医が、「ASTが高い」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。

肝炎

肝炎とは、肝臓の細胞が何らかの原因で壊されてしまった病気のことを指します。
原因としては、肝炎ウイルスによるもの(A、B、C、D、E型など)や、薬物性、アルコール性、自己免疫性などの種類があります。
その中でも急性肝炎は、主に肝炎ウイルスが原因で起こります。
症状としては、発熱や全身倦怠感、黄疸、褐色尿、吐き気や嘔吐、などがあります。
急性肝炎の1〜2%の方は重症となり、死に至ったり肝臓移植が必要となったりすることもあります。
急性肝炎の場合は、C型肝炎を除くと自然治癒しやすいとされています。治療は黄疸が出ている場合には入院の上、安静が原則となります。その他、B型・C型急性肝炎に対しては抗ウイルス薬やインターフェロン治療を行います。
ウイルス性肝炎は急性肝炎の状態で自然治癒する場合もありますが、肝機能低下が進み、慢性肝炎へ進行し、さらに肝臓が線維化、つまり固くなり肝硬変に至ることもあります。
風邪のような症状に加えて、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)や尿がコーラ色になるといった症状が出た場合には、すぐに消化器内科を受診しましょう。

アルコール性肝障害

アルコール性肝障害は、過剰な飲酒を長年(5年以上)続けることで起こります。禁酒によって血中のASTやAST、γ-GTPが改善することや、ウイルス性肝炎や自己免疫性肝炎が否定されたものを指します。
治療の基本は、断酒です。このために、抗酒剤や断酒会などで社会的サポートをしていくことが大切となります。
アルコール性肝障害は、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変・肝がんと進行していきます。
お酒を大量に飲み、ASTなどの肝機能異常が認められた場合には、早めに消化器内科を受診することが大切です。

脂肪肝

脂肪肝は、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積された状態です。
メタボリックシンドロームに伴うことがあり、放置すると肝炎、肝硬変などに進行することもあります。
摂取エネルギーが消費エネルギーを超えた場合に、余分なエネルギーが中性脂肪に変換されます。脂肪肝は、中性脂肪が肝細胞の30%以上に中性脂肪がたまった場合に診断されます。
原因は過食と多量飲酒、その他に糖尿病やステロイド、栄養障害などの代謝異常があります。
アルコールではなく、過食が原因で肝炎や肝硬変となる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)という病気もあります。

肝硬変

肝硬変は、肝炎ウイルスやアルコール、NASHなどによって傷ついた肝臓を修復するために線維(コラーゲン)が増加し、肝臓全体に広がった状態のことです。
つまり、いろいろな肝障害の終末像です。症状としては、腹水や食道静脈瘤、肝性脳症、黄疸、こむらがえりなどがあります。
肝硬変そのものの治療としては、原因が肝炎ウイルスの場合には抗ウイルス薬を内服することで肝機能の改善が期待できます。また、肝硬変になると不足するアミノ酸を補う薬を内服することも治療法としてあります。これらの治療で腹水や黄疸に改善がみられない場合には、基準を満たした場合には肝移植も選択肢として上がります。

肝機能検査で「AST(GOT)が高い」と診断されたときの正しい改善・治療法は?

肝機能検査で「ASTが高い」と言われた際には、精密検査を受けるような値であれば内科や消化器内科を受診しましょう。
一方、「要注意」という範囲の場合には、まずは生活習慣を見直すようにします。
肥満につながるような食べ過ぎや飲み過ぎ、運動不足にならないように注意しましょう。
具体的には、以下のようなことを心がけましょう。

  • ・肥満の解消:腹八分目を意識し、適正体重を目指しましょう
  • ・糖質・脂質を控える
  • ・タンパク質・ビタミンをとる:タンパク質や特にビタミンEは肝細胞の修復・機能回復に必要です
  • ・アルコールを控える:1日あたり、男性は40g・女性は20gまでの純アルコール量に止めましょう
  • ・習慣的な運動:肝臓にたまった中性脂肪を減らすためには、1日30分のウォーキングなどの有酸素運動が有効です。また、スクワットなどの筋トレも効果的です。

健康診断・血液検査の「AST(GOT)が高い」についてよくある質問

ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「ASTが高い」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

血液検査でAST(GOT)が高いのは肝臓が悪いのでしょうか?

木村 香菜木村 香菜 医師

ASTのみが高い場合には、心筋梗塞や筋肉の異常、溶血性疾患(血液の細胞が破壊されてしまう病態)の可能性もあります。

筋トレをすると健康診断の血液検査でASTの数値が高くなりますか?

木村 香菜木村 香菜 医師

筋トレをすることで筋肉が分解され、一時的に血液検査でASTが高くなる可能性はあるかもしれません。AST上昇の原因が筋トレなのか、それとも病的なものなのかの判別をつけることは難しい場合もありますので、健康診断や血液検査の前日などの激しいトレーニングは避けた方が良いでしょう。

ピルやサプリメントが原因でASTが高くなることはありますか?

木村 香菜木村 香菜 医師

ピルやサプリメントが原因でASTが高くなることはあります。

AST(GOT)が基準値より高いのですがストレスが原因でしょうか?

木村 香菜木村 香菜 医師

ストレスが原因で肝機能障害が悪化する場合もありますが、肝炎ウイルスや薬剤性などでの肝臓の障害の可能性もありますので、再検査を受けるようにしましょう。

肝機能検査でAST(GOT)が高い人は肝硬変になる可能性がありますか?

木村 香菜木村 香菜 医師

ASTが高い原因が肝炎である場合には、放置しておくと肝硬変になる可能性はあります。

AST(GOT)が50以上で高い場合、何科の病院で治療できますか?

木村 香菜木村 香菜 医師

消化器内科への受診を検討してください。AST 50 U/L程度であればお近くのクリニックで経過を見ていただけば良いですが、数値がどんどん上昇していくような場合は腹部超音波検査やCTなどの精密検査を受けられるような医療機関を紹介してもらいましょう。

まとめ 健康診断で「ASTが高い」と言われたら消化器内科をまずは受診しよう!

ASTが高い場合には、肝機能障害や心疾患、筋疾患の可能性があります。
ALTやγ-GTPも高い場合には、肝機能障害が疑われます。しかしながら、肝臓が障害を受けていても、初期の段階では自覚症状が無いことも多いため、進行する前に医師の診察を受けるようにしましょう。

「ASTが高い」ときに考えられる病気

「ASTが高い」から医師が考えられる病気は10個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

消化器系の病気

循環器系の病気

血液系の病気

ASTが高い場合には、肝臓の病気のことが多いですが、心疾患や血液、筋肉の病気の可能性もあります。

この記事の監修医師