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難病「筋ジストロフィー」既存薬で症状改善、世界初の治療薬への期待高まる

 更新日:2024/01/25
既存抗生物質で筋ジストロフィーの症状改善

山口大学らの研究グループは、感染症に効く既存の抗生物質が、全身の筋肉が衰える国指定の難病である「筋ジストロフィー」の治療薬として有効な可能性があるとの研究内容を発表しました。この内容について中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

発表した研究内容とは?

山口大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介する研究は山口大学らの研究グループによるもので、研究成果はイギリスの学術誌「eClinicalMedicine」に掲載されています。

研究グループでは、既に使われている薬の中から、筋強直性ジストロフィーに効果があるものを探索するドラッグ・リポジショニングという手法によって、抗生物質「エリスロマイシン」を候補化合物として見出しました。

研究では、筋ジストロフィー患者30人に対して、偽薬もしくはエリスロマイシンを24週間にわたり内服してもらいました。その結果、エリスロマイシンを投与した群では、筋ジストロフィーの特徴である遺伝子のスプライシング異常が統計学的有意に改善していることが示されました。また、筋障害の指標となるクレアチンキナーゼの値も、エリスロマイシンを投与した群では低く抑えられる傾向がみられました。また、安全性については、エリスロマイシンを投与した群では消化器症状と関連する有害事象がやや多くみられたものの、重篤なものはなく、全例で軽快したことが明らかになっています。そのほか、重篤な有害事象はみられませんでした。

研究グループは今回の結果について、「これまで筋ジストロフィーに対して、様々な治療薬の候補が開発されてきましたが、実際に病気の本態であるスプライシング異常を統計学的有意に改善したものは、エリスロマイシンが世界初となります。また、安全性も特に問題がみられなかったことから、今後の第三相治験でより多くの患者さんに対するエリスロマイシンの安全性と有効性が実証されれば、世界初の筋ジストロフィー治療薬としての薬事承認につながることが期待されます」とコメントしています。

筋ジストロフィーは?

今回の研究テーマになった筋ジストロフィーについて教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

筋ジストロフィーは強直や筋萎縮が特徴ですが、骨格筋のみならず多臓器に影響を及ぼす全身疾患です。常染色体優性遺伝の疾患ですが、子の世代の方が症状が重くなる傾向があります。出生時よりも著明な筋力低下を示す先天性筋強直性ジストロフィーという病態もあります。平均寿命は55歳程度とされています。筋ジストロフィーには2つのタイプがあり、タイプ1は人口10万人あたり7人程度とされ、タイプ2は日本国内では1家系のみに同定されています。

筋ジストロフィーは、19番染色体に存在するミオトニンプロテインキナーゼ遺伝子に存在するCTG反復配列が異常に伸長することが原因で発症します。反復が35回以下が正常、50回以上が異常とされ、先天性では数千以上になっています。反復配列が異常に伸長したmRNAがほかのmRNAのスプライシングに影響を与えて、多彩な症状を呈することが近年明らかとなっており、今回の研究では、統計学的にスプライシング異常を優位に改善したものとなっています。

今回の研究内容への受け止めは?

山口大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

本研究は症例数が少なく、研究期間が短いなどの研究の限界はあると思われます。ただ、成人の患者数が多く、かつ治療薬が存在しない筋ジストロフィー患者に対して、既存の抗生物質を用いて有効性・安全性を証明した大変有意義な研究であると考えられます。

近年、高額な新薬の研究が盛んですが、今回のケースのように既存の薬の効果を検証する研究は、医療経済の点でもメリットがあり、かつ安全性も担保されるため、今後見直されていくべきと考えます。

まとめ

山口大学らの研究グループは、感染症に効く既存の抗生物質が、全身の筋肉が衰える国指定の難病である筋ジストロフィーの治療薬として有効な可能性があるとの研究内容を発表しました。今回の成果によって今後、世界初の筋ジストロフィー治療薬としての薬事承認につながるのか、注目を集めるでしょう。

この記事の監修医師