「自宅で最期を迎える」ために準備しておくべきことをご存じですか? 訪問診療医師が解説

近年、「最期は住み慣れた自宅で迎えたい」と考える方も増えています。しかし、在宅での看取りにはどのような準備が必要なのか、どんな医療が受けられるのか、疑問に思う方も多いのではないでしょうか? そこで、自宅で最期を迎えるために知っておきたいことについて、「医療法人明医研」の市川聡子先生に解説してもらいました。

監修医師:
市川 聡子(ハーモニークリニック)
「自宅で最期を迎える」ことは可能なの?

編集部
そもそも自宅で最期を迎えることはできますか?
市川先生
はい、可能です。訪問診療や訪問看護、介護サービスを利用することで、病院ではなく自宅で最期を迎えることができます。ただし、本人や家族が自宅で最期を迎えることを望んでいること、そして必要なサポート体制を整えることが重要になります。
編集部
自宅で受けられる医療にはどのようなものがありますか?
市川先生
訪問診療を利用すれば、医師が定期的に診察に来るので、病状に合わせて必要な処方や医療行為を受けることができます。「家で受けられる医療」というと、かなり範囲が限られた医療というイメージを抱くかもしれませんが、検査や点滴、薬の処方などのほか、褥瘡(床ずれ)の処置、在宅酸素療法や胃ろうの管理・交換などもおこなえます。
編集部
そうなのですね。ほかにはどのようなものがありますか?
市川先生
自宅で胸やお腹に溜まった水を抜いたり、輸血や医療用麻薬の注射をおこなったりすることも可能です。また、訪問看護を利用することで、看護師による体調管理や医療的ケアを受けられます。特に緩和ケアを充実させたい患者さんにとっては、訪問診療と訪問看護を組み合わせることで、自宅でも適切な医療を受けられる環境を作ることができます。
編集部
医療的な支援だけでなく、介護も必要ですよね?
市川先生
その通りです。在宅療養をする上では、医療的な支援だけではなく、介護のサポートを受けることも重要です。介護保険を利用すると、訪問介護(入浴や食事の介助など)、福祉用具のレンタル(ベッド・車椅子など)、ショートステイ(短期の施設利用)などのサービスを受けることができます。介護認定を受けることで、要介護度に応じたサポートを受けられますので、介護保険を利用していない場合は、まずはお住まいの市区町村の窓口で相談してみましょう。
急な体調変化や緩和ケアはどうする?

編集部
家族の負担が心配ですがどうすればいいですか?
市川先生
介護をする家族には、精神的・身体的負担がかかることが想定されます。家族だけで抱え込まず、まずは訪問診療の担当医やケアマネージャーに相談しながら、適切な支援を受けましょう。例えば、ショートステイを利用して一時的に施設で介護を受けられたり、あるいは、家族の休息を目的とした短期入院(レスパイト入院)をおこなっていたりする病院もあります。仕事をしているご家族は、介護休暇の取得を検討してみるのもよいかもしれません。介護をするご家族が心身ともに健康でいることも、よいケアにつながります。
編集部
痛みや苦しみが強い場合の対応が心配です。
市川先生
訪問診療では、痛みや苦しさなどの症状を和らげるために、病状に応じた適切な治療をおこないます。必要に応じて、麻薬系鎮痛剤の使用をしながらの緩和ケアもおこないます。現在は、自宅にいても、病院に準じた医療が受けられるようになってきていますので安心です。ただし、病院と違い、医師や看護師が常にそばにいるわけではないため、予測される症状についてはあらかじめ対応策を確認しておくことが大切です。
編集部
急に具合が悪くなった場合はどうすればいいですか?
市川先生
訪問診療や訪問看護を受けている場合は、24時間対応の連絡先が設けられていることが多いです。急な体調変化に備えて、緊急連絡先を確認しておくとよいでしょう。電話で相談したり、必要に応じて、臨時の往診や訪問看護で状態を見せたりすると安心につながります。また、具合が悪くなったときに病院へ行くかどうかを、本人や家族の間で話し合っておくことも大切です。
編集部
本人の希望によっては延命治療をしないという選択もできるのですか?
市川先生
はい、可能です。延命治療には、人工呼吸器や心肺蘇生だけでなく、「食べられなくなった際に点滴や胃ろうをおこなうかどうか」なども含まれます。意思疎通ができるうちに、本人の希望を聞き、家族で話し合っておくことが大切です。
自宅で最期を迎えたい場合にはまず何をしたらいい?

編集部
どんな人が自宅で最期を迎えることを選んでいるのでしょうか?
市川先生
自宅での生活を大切にしたい人、家族やペットと一緒にできるだけ長く過ごしたい人などが、自宅で最期を迎えたいと希望されることが多いです。病院では起床・消灯時間が決められていたり、小さなお子さんとの面会ができなかったりする場合もありますので、そういったルールに縛られたくないという人も、自宅で最期を迎えるという選択をすることが多くあります。
編集部
さまざまな希望に応じられるのですね。
市川先生
また、病院では禁止となっているお酒、好きな食べ物などの嗜好品も、自宅であれば前向きに検討してもらえる場合も多いので、「最期は自分らしく過ごしたい」という想いから、病院から自宅に帰ることを検討する方もいらっしゃいます。
編集部
自宅で最期を迎えることを希望している場合、まず何をすればいいですか?
市川先生
一番大切なのは、自宅で最期を迎えたいという本人と家族の意思、想いの共有です。それを受けて、医療・介護で患者さんに関わるすべての関係者が、患者さん本人とその家族を支えていきます。まずは、本人や家族でよく話し合い、意思決定することが大事です。
編集部
自宅で最期を迎えるために、事前に準備しておくべきことは?
市川先生
在宅医療や介護の体制を整えることをまずはおこないましょう。まだ訪問診療を受けていない場合、主治医に訪問診療への移行について相談してみましょう。介護保険の申請や、在宅医療や介護を受けるための段取りがわからない場合は、お住まいの地域包括支援センターが相談に乗ってくれます。通院中の病院に地域医療連携室がある場合は、担当者が病状に合わせた具体的な相談に乗ってくれます。すでに訪問診療を受けている場合は、訪問診療の担当医師やケアマネージャーに相談して、必要な体制を整えましょう。そして、繰り返しになりますが。容体が悪化したときの対応についても話し合っておきましょう。
編集部
最後に読者へのメッセージがあればお願いします。
市川先生
自宅で最期を迎えるには、本人と家族の意思、想いの共有が大切であると先ほど述べましたが、時期や状況に応じて気持ちや考え方が変わることもあります。希望する治療やケアについて、医療従事者、支援者も交えてよく話し合うこと、また、その時々の状況に応じて話し合いを重ねることが大切です。
編集部まとめ
自宅で最期を迎えるためには、本人の意思を尊重しながらも、その時々の状況に応じて柔軟に対応していくことが大切です。家族や医療者と定期的に話し合い、必要なサポート体制を整えておくことで、安心して過ごすことができます。何よりも、本人が望む形で穏やかな時間を過ごせるよう、周囲の人々が寄り添い支えていくことが重要です。
医院情報
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