在宅医療の費用の疑問を医師が解説 1回の往診料金はいくら?
在宅医療は、どのような場面で用いられるものなのでしょうか? 救急車による入院とは、どこが違うのでしょう。また、保険適用の有無や費用、介護との境目も知りたいところです。そこで、Medical DOC編集部が内科医の宗形先生(小滝橋そら内科クリニック)にこれらの疑問を投げかけてみました。
監修医師:
宗形 昌儒(小滝橋そら内科クリニック)
在宅医療とは? 訪問診療と往診の違いは何ですか?
編集部
まずは、「訪問診療」や「往診」の違いを教えてください。
宗形先生
わかりました。このあたりは、似たような言葉で難しいですよね。まず、「訪問診療」とは、1人での通院が困難な患者さんが対象であり、状態に合わせて事前に計画を立て、月1~4回ほど定期的に医師が患者さんの自宅へ赴く医療の形態です。一方、「往診」は、緊急時に患者さんやご家族からの要請でおこなう予定外の在宅医療と言えばいいでしょうか。事前契約している患者さんに対しても、“していない”患者さんに対してもおこなわれます。なお、医療機器の小型化などにより、CTやMRIなどの大きな検査機器を除けば、在宅でも通院とほぼ同等の医療がおこなえるようになりつつあります。
編集部
可能なときは通院で、場合により訪問診療というパターンもあるのでしょうか?
宗形先生
いいえ。訪問診療はあくまで計画的・定期的な在宅医療のため、「緊急時のときだけ訪問診療」というパターンはなく、あるとしたら「緊急時に往診」です。訪問診療を受けられる対象者は原則として、「1人では通院が困難な方」となります。また、訪問診療はチームでおこなうことも求められます。医師以外にも看護師や理学療法士、薬剤師、ケアマネージャーなどの多職種で、「1人では通院が困難な方」を包括的に診るイメージですね。
編集部
緊急時対応が往診だとすると、救急車を呼ぶケースとの境目が不明です。
宗形先生
全ての救急時対応が救急車の要請になってしまうと、救急医療が回らなくなってしまいます。これはコロナ禍で実感されているかと思います。救急車は即座の対応が求められる急性疾患の人に使われるべきもので、全ての患者さんに救急車が必要とは限りません。明らかに救急車が必要な場合には躊躇すべきではありませんが、救急車を呼ぶべきか悩む場合には「#7119」といったサービスや、往診の活用を考えてもいいと思います。往診のご依頼をいただいた場合には、まず医師や看護師などの医療従事者がトリアージと呼ばれる緊急度・重症度の判定をおこない、状況により救急車の要請をお願いしたり、往診に伺う判断をしたりします。場合によってはお電話のみで対応可能なこともあります。往診でお伺いした場合には、必要な処置をおこなって薬をお渡しすることで、症状の悪化を防いだり、入院への移行を遅らせたりすることが期待できます。
編集部
昨今は「看取り」も訪問診療の一形態と聞きます。
宗形先生
はい。高齢化社会に伴い、全ての人を病院で看取ることが不可能な時代に入りかけています。なにより、在宅での看取りを希望するご家族もいらっしゃるでしょう。ですから、色々なタイプの医療、とくに終末期医療がご自宅でも受けられるようになりつつあります。患者さんとご家族が望む最後の大切な時間を、住み慣れたご自宅でご家族とともに、その人らしく過ごせるよう調整していくことも訪問診療の大事な役割です。
在宅医療でかかる費用、平均費用と料金例
編集部
続けて、在宅医療費についても教えてください。
宗形先生
わかりました。いわゆる料金には医療保険が適用されます。ご存じのように、医療保険による自己負担額は年齢などによって異なります。訪問診療の年齢制限はとくにありませんが、75歳以上の方が約90%を占めると言われています。現在、75歳以上の方の負担割合は1割負担ですが、令和4年10月からは75歳以上でも所得に応じて2割負担となる場合もありますのでご注意ください。また、混同しがちですが、似た名前の介護保険制度とは40歳以上の方が全員加入しているもので、訪問介護や訪問リハビリ、デイサービスなどの介護サービスのための保険制度であり、訪問診療には適応されません。
編集部
訪問診療と往診では、費用の中身が違うのでしょうか?
宗形先生
仕組みとしてはおおむね一緒で、「2階建て」に例えられます。治療の1階部分は「治療の中身を問わず医師の訪問によって発生する費用」です。携帯電話に例えるなら「月額基本料」といったところでしょうか。そして2階の部分が「おこなった治療に応じて発生する費用」です。携帯電話の「通話料」に相当します。そのほかに、包帯のような医療物資や交通費については「実費」をご請求する場合もあります。
編集部
費用について、具体的なモデルケースがあれば知りたいです。
宗形先生
・訪問診療のモデルケース(月額)
月2回の場合 | |
1割負担 | 7000円~8000円 |
3割負担 | 2万1000円~2万3000円 |
編集部
一方の往診は、訪問診療の月1回分と考えればいいでしょうか?
宗形先生
・往診のモデルケース(往診の中身は同じで日時が異なった場合)
平日の日中で各種加算なし | 1往診あたり5000円~6000円 |
平日の夜間、あるいは休日の日中 | 1往診あたり7000~9500円 |
休日の深夜 | 1万2000円~1万4000円前後 |
土曜日は平日扱い 年末年始は休日扱い
日中 朝8時~夕方6時
夜間 朝6時~朝8時 夕方6時~夜10時
深夜 夜10時~朝6時
在宅医療を受ける際に覚えておきたい費用負担軽減制度や知識
編集部
ほか、「薬代」などは、確定申告で控除できるのですよね。
宗形先生
はい。訪問診療や往診でかかった費用は医療費控除の対象となります。通常、1年間に10万円以上の医療費を支払った場合に申請をおこなっていただくことになります。また、行政やケアマネージャーなどに相談すると、ほかにも利用できる制度を教えてくれると思います。
編集部
「高額療養費制度」も名前だけは聞くのですが、よくわかっていません。
宗形先生
医療保険や介護保険の適用があったとしても、一定額以上の自己負担は、払戻しを受けられる制度です。自己負担の限度額は収入や年齢に応じて変わってきますが、訪問診療でも払戻しの対象となることは多いので、担当者に相談することをおすすめします。
編集部
こうした治療費は「月払い」なのですよね。
宗形先生
はい。定期的にお伺いする訪問診療は、月締めで月払いが多いですね。ただし、緊急でお伺いする往診についてはクリニックによって異なります。都度払いとなるところもありますし、もともと訪問診療を組んでいて往診を呼んだときなどは、まとめて月払いになるでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
宗形先生
訪問診療は本来、チームで診ていくものだと考えています。万が一、外来通院が困難となった場合には、医師の診察だけでなく介護やリハビリ、薬剤師の服薬指導など、その地域に存在する様々な医療を外来通院と同様のレベルで「自宅でも安心して受けられますよ」ということです。ぜひ、地域の医師やケアマネージャーと相談してみてくださいね。
編集部まとめ
在宅医療にも、医師が定期的に“訪ねる”訪問診療と、緊急時に医師が“呼ばれる”往診があるとのことでした。その費用内訳は、訪問回数や治療の中身によって変動します。しかし、おおまかな概算はこの記事で紹介したとおりです。なお、可能な回数については、訪問診療なら「契約による」ということです。往診の回数制限はありません。もっとも、頻繁に往診が必要なら、入院を検討することになると思います。
医院情報
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アクセス | 東京メトロ東西線「落合駅」 徒歩8分 JR総武線「東中野駅」 徒歩11分 JR山手線・西武新宿線「高田馬場駅」徒歩14分 |
診療科目 | 内科、循環器内科 |