「血液検査で貧血と診断された…」血液内科の専門医が原因・症状・対処法を徹底解説
健康診断や人間ドックの血液検査で、「貧血」を指摘された人もいるでしょう。貧血とは「組織が必要とする酸素供給が満たされない赤血球の減少」のことで、「体の酸素不足」が起きる病気です。体の不調の原因となるとともに、背後に大きな病気が隠れているサインになっていることもあります。今回は、血液検査の結果の読み方や貧血の原因・症状について、「ハレノテラスすこやか内科クリニック」の渡邉先生に解説していただきました。
監修医師:
渡邉 健(ハレノテラスすこやか内科クリニック)
目次 -INDEX-
ヘモグロビンが少ないと貧血になる? 貧血の主な原因・症状・血液検査の診断基準を医師が解説
編集部
血液検査では、どのようなことを調べているのですか?
渡邉先生
基本的に、健康診断などでおこなう血液検査では、白血球数(WBC)や赤血球数(RBC)、血色素量(ヘモグロビン)、血小板数など様々な成分の量を測ります。それぞれの数値には意味があり、例えば赤血球数が少なければ貧血が疑われ、貧血かどうかの診断はヘモグロビンの数値によって評価されます。
編集部
貧血についてもう少し詳しく教えてください。
渡邉先生
「赤血球中のヘモグロビン値が低下すること」を貧血と言います。ヘモグロビンは赤血球に含まれる成分で、体の隅々まで酸素を運ぶトラックのような役割をしています。ヘモグロビンが少なくなると体内で十分な酸素が循環しなくなるため、「疲れやすい」「動いたときに息切れや動悸がする」などの症状が出ます。
編集部
なぜ、貧血になるのでしょうか?
渡邉先生
・材料の不足
・工場の異常
・作ったものが消える
編集部
それぞれ、簡単に説明をお願いします。
渡邉先生
まず「材料の不足」とは、鉄、ビタミンB12、葉酸、銅などヘモグロビンを作るのに必要な材料が不足することです。摂取不足(無理なダイエットや偏った食生活)や吸収障害、持続的な出血による鉄の喪失などが貧血の原因になります。
編集部
次に「工場の異常」とは?
渡邉先生
血液のがん(白血病、多発性骨髄腫など)、血をうまく作れない病気(骨髄線維症、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血など)、がんの骨髄への転移などにより貧血が起こることを指します。これらの病気を発症しているとヘモグロビンだけでなく、正常な白血球や血小板などの数値も低下します。
編集部
最後に「作ったものが消える」とは、どういうことでしょうか?
渡邉先生
溶血性貧血や脾機能亢進、肝硬変などにより、正常に血液が作られても壊され、赤血球寿命が短くなることで貧血になることを指します。
編集部
貧血は女性に多いように思いますが、いかがでしょうか?
渡邉先生
貧血の原因として「鉄欠乏性貧血」が最も多いため、多くの人がこのようなイメージを持っています。しかし先ほど述べたように、「赤血球が作れない」あるいは「壊されてしまう」という疾患についての男女差はないので、鉄欠乏と決めつけず判断することが重要です。
鉄欠乏性貧血の原因・症状・診断基準
編集部
「貧血」というと、「鉄不足」というイメージがあります。
渡邉先生
たしかに、鉄欠乏性貧血は貧血の原因として最多です。日本鉄バイオサイエンス学会からの報告では、「20~49歳の日本人の19.8~26.6%が鉄欠乏性貧血」と指摘されています。
編集部
鉄欠乏性貧血の原因はなんですか?
渡邉先生
「体が必要とする鉄の量を食事などで十分に摂取できていない」「自己免疫性萎縮性胃炎やヘリコバクター・ピロリ感染などが原因となって鉄吸収障害が起きる」「過多月経や子宮筋腫などの性器出血や、胃がんや大腸がんなどの消化管出血が起きる」という3つが考えられます。
編集部
鉄欠乏性貧血対策として、普段から食事で鉄を多く摂取することを意識した方がいいのでしょうか?
渡邉先生
そうですね。海外では小麦粉などに鉄が添加されていますが、日本ではおこなわれていないため積極的な補給が必要です。
健康診断でヘモグロビンが少ないと言われたときの対処法や治療法 ヘモグロビンを増やすのに効果的な食事・改善方法は?
編集部
ヘモグロビン値が低いと指摘された場合には、どのような治療がおこなわれるのですか?
渡邉先生
貧血の原因によって治療法が異なります。鉄欠乏性貧血の場合には出血の原因の検索をおこない、鉄剤の経口投与をするのが基本です。体内に貯蔵されている鉄を「フェリチン」と言いますが、フェリチンの値が十分になるまで治療を続けます。
編集部
鉄剤を投与すると、気持ち悪くなったり、胸がムカムカしたり、不快な症状を感じる人も多いと聞きました。
渡邉先生
たしかに、患者さんが治療を継続できなくなる原因として副作用の問題が挙げられます。これまでは鉄の投与量を減らすなどの工夫をしていましたが、2021年に「リオナ」という薬が鉄欠乏性貧血治療でも使えるようになりました。嘔吐や吐き気などの副作用を大きく改善した薬で、「これなら不快感なく内服できる」という人も増えています。もし、これまで医師に処方された薬に不快感を覚えているなら、リオナを処方してもらうのもいいと思います。
編集部
そのほかには、どのような治療法が考えられますか?
渡邉先生
点滴による治療があります。「内服による治療がどうしてもできない場合」「鉄の喪失が激しい場合」「胃の切除後や腸の病気で吸収が難しい場合」など理由があれば、点滴で治療します。最近では2~3回の点滴で回復する製剤もあり、患者さんにとっては非常に便利になっています。ただし、鉄はいったん体に入ると排出されないため診断をしっかりすることが大事です。とくに鉄欠乏性貧血と同様に赤血球が小さくなる「サラセミア」には注意が必要です。
編集部
サラセミアとはなんですか?
渡邉先生
サラセミアは、赤血球内のヘモグロビンの合成障害によって貧血を起こす遺伝性の疾患です。日本人にも0.1%程度の割合でみられます。サラセミアの場合、鉄剤の補給で貧血を改善することはできません。軽症型サラセミアの場合、基本的に治療は必要ないとされています。
編集部
貧血だからといって、安易に鉄剤を取るのは危険なのですね。
渡邉先生
そうですね。貧血のタイプに合わせた治療をおこなうことが大切です。自己判断でおこなわず、専門家の指示を守るようにしましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
渡邉先生
貧血に限りませんが、速やかに症状を改善するにはできるだけ早く、正しい診断をつけることが大事です。原因がわかれば治療法も明確に定まります。一口に鉄欠乏性貧血といっても背景は様々ですから、一人ひとりに正確な診断を下すことが大切です。長く貧血を患っているとその状態に体が慣れ、症状が軽くなってしまい、治療が遅れることもあります。もし「階段を上るときに息切れがする」など、労作時に症状が出る場合には早めに医師の診察を受けましょう。また、お子さんの場合はスポーツや学校の成績が下がるなど、パフォーマンスの低下が診断の目安になることもありますから、ご両親は普段からお子さんの様子に気を配ることも大切です。
編集部まとめ
「貧血」というと「鉄不足」と考えがちです。しかし、安易に鉄剤を補給すると症状が改善しないどころか、かえって健康状態が悪くなることもあるとのことでした。血液検査により貧血と指摘された場合は、「単なる貧血」と捉えず、必ず専門家の診察を受けるようにしましょう。
医院情報
所在地 | 〒337-0006 埼玉県さいたま市見沼区島町393番地 ハレノテラスC棟2F |
アクセス | JR「東大宮駅」 徒歩15分 |
診療科目 | 内科、血液内科 |