「前十字靭帯損傷(ACL)」の再建手術を医師が解説 膝の治療の流れ・必要な期間とは?
スポーツによる外傷のなかで非常に多いのが膝前十字靭帯損傷。競技スポーツの復帰をめざす場合には手術を行うのが一般的ですが、一体、治療にはどれくらいの期間が必要なのでしょうか。たけうち整形外科の竹内先生にMedical DOC編集部が聞きました。
監修医師:
竹内 弘毅(たけうち整形外科)
目次 -INDEX-
膝前十字靭帯(ACL)の「損傷」と「断裂」の違いは? 治療法は再建手術だけ? 自然治癒することはないの?
編集部
そもそも膝前十字靱帯とはなんですか?
竹内先生
膝前十字靱帯とは膝関節において、太ももの骨である大腿骨と、すねの骨である脛骨をつなぐ強力な靱帯のことです。膝関節には前十字靱帯のほか、後十字靱帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯という4つの靭帯があり、これらの働きによって大腿骨と脛骨の安定性を保つことができるのです。
編集部
よく膝前十字靭帯損傷という言葉を聞きますが、一体どのような状態ですか?
竹内先生
一般的に、靭帯に強い力が加わって伸びたり切れたりした状態を靭帯損傷といいます。膝前十字靱帯損傷はバスケットボールやサッカー、ラグビー、スキーなどの競技やチアリーディングにおいて、ジャンプ後の着地や疾走中の急な方向転換、急なストップ動作、相手との衝突が原因となり、膝関節に異常な力が加わることで発症します。
編集部
損傷のほかに、断裂という言葉を聞くこともあります。どのような違いがあるのですか?
竹内先生
靱帯が伸びるなどして一部損傷を受けた場合を「靭帯損傷」、完全に切れてしまった状態を「靱帯断裂」といいます。軽度の損傷であれば不安定性が生じず、痛みが出る程度ですが、靱帯断裂になると激しい痛みを伴い、膝に不安定性をきたしたり、歩いている最中に膝が抜けるような感覚(膝くずれ)を招いたりすることがあります。
編集部
損傷や断裂は自然治癒することはないのですか?
竹内先生
靱帯の損傷がごく軽度であればサポーターで膝を固定し、リハビリを行うことで症状が改善していきます。しかし、靭帯が完全に断裂していると膝の不安定性が残りますので、生活に支障が出るようであれば手術が必要になります。
膝前十字靭帯損傷したときの治療の流れは? ACL再建手術とは?
編集部
膝前十字靱帯を損傷したときには、どのように治療するのでしょうか?
竹内先生
保存療法で回復が見込める場合にはサポーターを使いながらリハビリを行い、少しずつ可動域を広げたり、筋力を落とさないようにしたりします。一方、完全に断裂していて「膝がガクッとする」「骨が外れる感じがする」などの症状がある場合は、その状態を放置しておくと関節内の半月板や軟骨を損傷し、変形性膝関節症を発症するリスクが高くなります。この場合には手術が適応になります。
編集部
手術はどのように行われるのですか?
竹内先生
損傷した膝前十字靱帯の代わりに、自分の腱を使って再建する「自家腱移植」が一般的です。膝前十字靱帯はACL(Anterior Cruciate Ligament)ともいうため、「ACL再建手術」とも呼ばれます。
編集部
もう少し詳しく、手術の流れを教えてください。
竹内先生
まずは皮膚を3~5cm切開し、膝蓋腱(膝の前面にある腱)や半腱様筋腱(ハムストリングの一部)などを採取します。それから大腿骨と脛骨の間に細いトンネルを作り、そのなかに採取した腱を通して、金具で固定します。また半月板の損傷があれば、同時に修復します。この再建術は関節鏡を使って手術を行う術式が確立しているため、低侵襲で、安全性も高いとされています。
編集部
手術をすれば、元通りになるのですか?
竹内先生
靭帯の強度を完全に戻すのは困難ですが、膝の不安定性は解消できます。ただし、膝蓋腱を採取した場合には膝を伸ばす力が、半腱様筋腱を採取した場合には膝を曲げる力が若干低下するリスクがあります。しかし、手術を行うことによって膝の能力が回復するだけでなく、変形性膝関節症の予防も期待できるため、手術を行うことのメリットは非常に大きいと言えると思います。実際プロで活躍するアスリートも、手術を受けたあと競技に復帰出来ています。
膝前十字靭帯の手術を受けたときの治療期間は? リハビリを含めて歩けるまで・全治までどれくらいかかる?
編集部
膝前十字靱帯の手術を受けた場合、どれくらいスポーツで競技に復帰できるのですか?
竹内先生
手術前の状況や競技の種類にもよりますが、再建靱帯の強度が高まり、筋力が回復してくるのが平均してだいたい術後9か月後ごろ。その頃には競技に復帰できると思います。
編集部
目安として9か月くらいは待たないといけないのですね。
竹内先生
早期復帰は再断裂の危険性が伴うという意見もあるため、しっかり筋力の回復を待つことが推奨されます。
編集部
リハビリはどれくらいの期間行うのですか?
竹内先生
手術の翌日から松葉杖を使った歩行訓練を開始し、約2~3週間後には松葉杖を使わなくても歩けるようになると思います。その後も3〜6か月、理学療法士によるリハビリや筋力強化、可動域訓練などを定期的に行い、少しずつスポーツへの復帰をめざします。
編集部
一度手術をすれば、再発することはないのですか?
竹内先生
いいえ、手術によって損傷した靭帯を置き換えても、また同じような動きをすることによって再発することもあります。再発を予防するためにもリハビリを継続することは重要です。また、膝前十字靱帯は急な切り返しやジャンプなどで発生しやすいので、そうした動きの際、膝に負担をかけない動作を習得することも大切です。
編集部
再発のリスクは高いのですか?
竹内先生
一度、靱帯断裂を起こした人は再断裂しやすいとされており、事故などで損傷した場合を除くと反対膝を怪我するリスクが高いことがわかっています。そのため、一度靭帯断裂を起こした人は再発のリスクが高いことをしっかり自覚し、フォームの改善に努めることが大切です。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
竹内先生
前十字靭帯を怪我した場合、以前同様のレベルでスポーツ復帰する場合には手術が必要なケースが多くなってきます。自己判断で膝の不安定感が残ったままスポーツを再開してしまうとさらなるケガにつながるリスクがあります。「膝をやってしまったかな?」と思った場合は一度専門医を受診しましょう。
編集部まとめ
手術の後、調子が良くなってくるとすぐにでも競技などに復帰したくなるもの。しかし完全に筋力が回復しないまま焦って復帰すると、再発のリスクが高くなります。競技人生を長くするためにも、焦らずじっくりリハビリし、専門医にしっかり相談しましょう。
医院情報
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診療科目 | 一般整形外科、スポーツ整形外科、小児整形外科、リハビリテーション科、リウマチ科 |