腱や靭帯などを自己回復する「PRP療法」、目的や適応などの疑問を解決!
スポーツニュースなどで「PRP療法」という言葉を耳にします。はたして、どのような治療方法なのでしょうか。現場復帰が急がれるような方への特別な治療法なのでしょうか。それとも、一般の方でも受けるべき治療法なのでしょうか。PRP療法の適応範囲や費用などについて、「所沢あかだ整形外科」の朱田尚徳先生に伺いました。
監修医師:
朱田 尚徳(所沢あかだ整形外科 院長)
富山医科薬科大学医学部医学科卒業。国内外の整形外科病院勤務ほか、Jリーグのチームドクターなどを歴任。2020年、埼玉県所沢市に「所沢あかだ整形外科」開院。理学療法士や鍼灸師とともに、チーム医療に務めている。日本整形外科学会認定整形外科専門医、日本体育協会公認スポーツドクター、義肢装具等適合判定医。
目次 -INDEX-
PRP療法とは
編集部
メジャーリーグの大谷翔平選手が、肘の「PRP療法」を受けたと聞きました。
朱田先生
そのようですね。PRP療法とは、ご自身の血液を採取し、血小板成分を高濃度で抽出して、患部に注射する治療方法です。もともと血小板には成長因子や修復因子が多く含まれているため、「痛んだ患部を自分の力で治す」という働きが期待できます。
編集部
再生医療の一種と考えていいでしょうか?
朱田先生
PRP療法の位置付けは炎症を抑える点にあると考えると、厳密な意味での「再生医療」とはいえないと思います。しかし、PRP療法をおこなうためには各地域の厚生局に「再生医療等提供計画に関する届出」を提出し、受理される必要があります。またPRP療法は整形外科分野のほか、アンチエイジングなどの審美領域でおなじみの治療法です。
編集部
PRP療法が向いているのは、どのような症例でしょうか?
朱田先生
症例というより、「痛みや不具合があるのに、大がかりな手術は避けたい」と考えている方でしょう。PRP療法は注射で施術するため、切開・縫合などを伴いません。なお、海外では、切開手術と併用して治療効果を高めたり、予後を良好にしたりする目的でも使われています。
編集部
リウマチのように、治療方法が確立されている症例もありますよね?
朱田先生
現在すでにエビデンスが確立し、保険診療による標準治療や診療ガイドラインが決まっている疾患であれば、まずはそれに従うべきだと思います。PRP療法は自由診療なので、医師からいきなり第一選択として提案されることはないでしょうし、患者さんもすぐに承諾しないでしょう。
PRP療法の適応や費用
編集部
PRP療法は、医師から提案されるものなのですか?
朱田先生
まず、診察・検査をしてみて、「PRP療法の適応あり」と医師が判断したら、治療選択肢の中に含めて説明します。症例ごとのおおまかな治療成功率もお伝えしますので、費用と合わせてご検討ください。
編集部
気になる費用についても教えてください。
朱田先生
整形外科で用いられているPRP療法は、細かくいうと2種類あり、15万円前後の方法と35万円前後の方法に分けられます。この価格差は、血小板の濃縮方法によって異なります。このことを知らないと、「クリニックによって、大きな価格差がある」と誤解されてしまいます。その他に、血液以外の組織から成長因子を取り出す方法もありますので、各医院のホームページなどで見比べてみてください。
編集部
自分の血液なら、アレルギーや副作用は少なそうですね?
朱田先生
はい。一部の例外を除いて、基本的にはどなたでもPRP療法は可能です。施術時間も、切開手術などと比べるとかかりません。ただし、現状ではあくまでもPRP療法は、補助的な位置づけと考えています。基本的には患部の構造変化や鈍くなってしまった感覚に対して、治療をおこないたいと思います。
編集部
しかし、手術や長いリハビリなどを嫌がる人もおられます。
朱田先生
PRP療法の実質的な位置づけとしては、そのような方向けでしょう。また、大谷翔平選手のように、早く現場復帰してほしいケースで用いられています。PRP療法に限らず、マッサージやテーピングのような処置をいくつも積み重ねれば、本質的な治療と同等の効果へと近づけられるかもしれません。
PRP療法の目的
編集部
PRP療法を希望して受診される患者さんはおられますか?
朱田先生
かなりいらっしゃいます。しかし自己修復力とはいえ、自然に回復するスピードを超えるほどの効果が出るかどうかは症例によって様々です。自由診療になるため、金額的な負担も増えますので、前述のように症例ごとの治療成功率をお話してから、判断していただきます。
編集部
障がいが出ていない段階での、予防や運動器の強化としても有効ですか?
朱田先生
健常な状態だったら、注射した血小板は、修復命令を出さないでしょう。ですから予防や強化という考え方はなじまないと思います。やはり、真価を発揮するのは、損傷した患部の炎症を治癒する場面です。マイナスを埋めてくれるものの、プラスが上積みされる治療ではありません。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いします。
朱田先生
PRP療法は一般の方でも受けられます。ただし、その損傷がどうして起きたのかという原因までは治してくれません。痛みを感じた時に、そもそも歩き方がおかしいのか、膝の影響が腰へ出ているのか、運動不足でバランス感覚が失われているのかなど、その原因を医師と一緒に探して治すことが根本的な治療であり、PRP療法はその時に補助的な役割をすると考えています。
編集部まとめ
PRP療法には2種類あり、血小板の濃縮方法によるそうです。この治療が真価を発揮するのは、損傷した患部を治療する場合であり、ケガの予防ではなさそうです。そしてなにより、なぜそのようなケガになったのか、原因を突き止めて解決するという根本的な治療から行うことが、ケガの治療の「キホンのキ」だそうです。
医院情報
所在地 | 〒359-0037 埼玉県所沢市くすのき台3丁目18-2 マルナカビレッジ壱番館 2階 |
アクセス | 西武新宿線、西武池袋線「所沢駅」東口 徒歩3分 |
診療科目 | 整形外科、リハビリテーション科 |