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「前十字靱帯損傷」の原因や症状はご存知ですか?医師が監修!

 公開日:2023/09/21
「前十字靱帯損傷」の原因や症状はご存知ですか?医師が監修!

前十字靭帯損傷はスポーツや交通事故などで膝に大きな力が加わった際に、靭帯が損傷してしまう大きな怪我です。

スポーツでは、特にバスケットボール・バドミントン・バレーボールなどのジャンプするプレーが多い競技で前十字靭帯損傷が発生しやすいといえます。

前十字靭帯損傷してしまうと、損傷した靭帯の再建手術を要し、競技復帰するまで長期にわたるリハビリが必要です。

本記事では、前十字靭帯損傷の症状や治療法について解説します。前十字靭帯損傷でリハビリを行っている方、前十字靭帯損傷について詳しく知りたい方は参考にしてみてください。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

前十字靭帯損傷とは

膝が痛い男性

前十字靭帯の役割は?

前十字靭帯は、膝にかかる前方への衝撃に対して支える役割を担っています。前十字靭帯とは、太ももの骨である大腿骨とすねの骨である脛骨をクロスして支える靭帯です。
前十字靭帯がより役割を果たす場面として、例えばバスケットボールやバレーボールで前方へジャンプした後の着地をする際に前十字靭帯が支えるため、前方へ倒れるのを防げます。
また、日常生活の中でも立っている状態からしゃがみ込む際に脛骨が前にいきすぎないよう支えています。このように、前十字靭帯は生活を営む上で重要な役割を果たしているといえるでしょう。

前十字靭帯損傷とは?

前十字靭帯損傷とは、スポーツや交通事故などの強い衝撃によって靭帯が伸びてしまったり、傷ついてしまったりしている状態です。力が加わった方向によって損傷しやすい靭帯は異なり、前十字靭帯は前方へ力が加わったときに損傷しやすいです。
前十字靭帯が損傷すると支えている大腿骨と脛骨にずれが生じやすく、すねが前に出やすくなり膝の軟骨を痛めたり、さらに悪化すると靭帯が断裂したりする可能性も考えられます。また、前十字靭帯を損傷した際に、同時に半月板や周辺の靭帯も損傷している場合もあります。

前十字靭帯損傷の原因は?

前十字靭帯損傷の原因は、スポーツによる外傷や交通事故によって膝に前方へ大きな衝撃が加えられたために損傷したことが原因です。通常の日常生活でそれほど膝へ大きな衝撃を受けるのは考えにくいです。
スポーツではジャンプの着地したタイミングであったり、前方へ足を踏み出したりした場合に捻りが生じると前十字靭帯が損傷してしまう可能性があります。また、交通事故も予期しないタイミングで膝に衝撃が加わるケースが多く、前十字靭帯が損傷する原因の一つに挙げられます。
膝には複数の靭帯が存在し、より大きな衝撃が加わると膝にある複数の靭帯が損傷を受ける可能性が高いです。

前十字靭帯損傷の症状

スポーツウェアを着た男性

前十字靭帯損傷の症状はどのようなものですか?

前十字靭帯損傷の症状として、受傷時は膝に強い痛みが生じ、そこから約3週間は急性期と呼ばれ、膝の痛みや可動域の制限が続きます。場合によっては腫れが目立ってくる時もあります。
その後、次第に痛み・腫れ・可動域の制限は解消されてきますが、膝が不安定に感じられることが多くなるでしょう。そしてその不安定感があるまま経過していくと、損傷した前十字靭帯の機能を膝にある他の組織がカバーするため、半月板損傷や膝軟骨の損傷が2次的に発生しやすくなります。
加えて慢性的な痛みや腫れも伴う可能性があります。

前十字靭帯損傷はどうやって見分けますか?

前十字靭帯損傷を診断するにあたっては、受傷した膝に対して曲げ伸ばししながら膝の緩みの程度を比較します。専用の計測器を使用すると、緩みの具合を数値化してより正確に診断できます。
また、MRI検査は前十字靭帯損傷の診断に有用な検査です。MRI検査は骨だけでなく、膝全体の靭帯や半月板などの状態を鮮明に写しているため、正確に診断しやすいといえます。加えて、どの靭帯が損傷しているのか見分けることが可能です。
損傷している靭帯はどこか・他にも損傷している箇所がないかを確認できると治療も損傷した箇所に応じて行えます。膝の内部の状態についてX線検査では診断が難しいため、前十字靭帯損傷が疑われる場合はMRI検査を行っている医院を受診した方が良いでしょう。

前十字靭帯損傷の治療

足のリハビリを受ける男性3

前十字靭帯損傷の治療・リハビリはどのようなものですか?

前十字靭帯損傷の治療には保存療法と手術療法の2つがあります。保存療法は膝に捻りや曲げ伸ばしが生じないように膝動揺性抑制装具と呼ばれるサポーターを装着して、早い段階から痛みが生じない程度に可動域訓練を実施して筋力低下を防ぐ治療法です。
手術療法には靭帯修復術と再建術の2パターンがあり、多くは再建術が採用されています。前十字靭帯損傷の場合は膝にある他の組織の2次的受傷を防ぐため、再建術による手術療法で治療が行われるケースがほとんどです。
再建術は他の靭帯から採取し、大腿骨と脛骨の一部に穴を開けて損傷した前十字靭帯から代用靭帯として使用することで膝の可動域制御を解消できます。
手術にあたっては基本的に膝に小さな穴を開けて、膝関節鏡や手術に使用する道具を入れて行われるため、手術の跡は数cm程度と比較的目立ちにくいです。

どのくらいの期間で治りますか?

再建術による治療で前十字靭帯損傷が完治するには、日常生活に支障がないレベルであれば術後3〜6ヶ月ほどリハビリを実施することで回復できます。
アスリートなどで競技復帰を目指すレベルであれば、その後トレーニングにて徐々に負荷を上げていき、術後10ヶ月〜1年ほどで競技復帰できるようになります。
ただし、前十字靭帯の損傷具合や術後の回復状態などによっては完治までの期間が長短するでしょう。そのため、完治の期間は目安であり、膝の状態をみながら治療・リハビリを続けていくことが大切です。

手術は必要ですか?

靭帯損傷の治療法としては、保存療法と手術療法がありますが、前十字靭帯損傷では手術療法が採用されています。それは他の靭帯に比べ保存的に治癒する可能性が低いためです。
前十字靭帯損傷による膝の不具合を解消して、膝にある他の組織へ影響を及ぼさないためには再建法による手術が必要です。再建法による手術時間は1.5 〜2時間ほどで、入院期間も1週間程度でその後は通院にてリハビリを行います。

スポーツへの復帰はできますか?

前十字靭帯損傷からスポーツ復帰は可能です。スポーツへ復帰する条件としては膝の不安定さの解消や十分な可動域が確保されていることが前提です。
その上でスポーツを行うための筋力やパフォーマンスなどが機能的に回復していると復帰できると判断できます。しかし、再受傷する可能性がないとは言い切れません。
術後6ヶ月以降からスポーツに復帰できるといわれていますが、術後9ヶ月以降にスポーツ復帰を行うと再受傷率が減少できるとの報告もあるため、経過をみながら徐々にスポーツ復帰することをおすすめします。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

前十字靭帯損傷は主にアスリートやスポーツを愛好している方が受傷しやすい怪我になります。受傷後は痛みが徐々に和らいできますが、そのまま放置してしまうと他の靭帯や軟骨の損傷にも影響することや前十字靭帯断裂につながるケースも考えられます。
前十字靭帯損傷の場合は保存療法では完治が難しいため、再建法による手術が必要です。術後の競技復帰を目指している方にとっては治療やリハビリが長期間にわたるため、焦らずに膝の状態をみながら徐々に復帰を見据えていきましょう。
加えて、スポーツ復帰に対して恐怖心を持ち合わせていると、復帰が遅くなるといわれていますので心理的な不安も解消していけると順調にスポーツ復帰が目指せるでしょう。

編集部まとめ

公園で準備運動する女性(屈伸)
前十字靭帯損傷の症状や治療法について解説しました。前十字靭帯は膝を支える上で重要な役割を果たしており、損傷すると痛み・腫れ・膝の可動域制限が余儀なくされます。

他の靭帯であれば装具を着用して可動域を制限しながらリハビリを続ける治療が可能です。しかし、前十字靭帯損傷の場合は他の靭帯や軟骨などへの影響もあり、再建法による手術が推奨されています。

手術後はリハビリを経て日常生活に支障がないレベルで完治するには3ヶ月〜6ヶ月程度かかりますが、スポーツ復帰を目指す場合はより長いリハビリ期間を要します。

よって、前十字靭帯損傷は早期に治療後、膝の状態をみながら焦らずに完治やスポーツ復帰を目指すことが大切です。

この記事の監修医師