卵子凍結は何歳まで? 不妊治療の専門医が卵子凍結当日の流れと費用、デメリットも解説
日本は技術面で「世界一の不妊治療大国」の呼び声もあるそうです。最近は、5組に1組の夫婦が不妊治療を受けているというデータもあると言われています。そんな日本の体外受精成功率(採卵数あたりの出生数)は、先進国60カ国の中で最下位という成績です。高い生殖医療技術を誇りながら、日本はなぜ、これほどまでに不妊治療の成績が低いのでしょうか?
問題は不妊治療を開始する「年齢」にありました。母体はもちろんのこと、「卵子」も歳を取り、それに伴って妊娠率が下がっていくのだそうです。そこで、若い状態の卵子を保存しておく「卵子凍結」について、産婦人科医の岡田有香先生(グレイス杉山クリニッSHIBUYA院長)にMedical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
岡田 有香(グレイス杉山クリニックSHIBUYA)
目次 -INDEX-
卵子凍結とは? 採取した卵子を保存しておくメリットやデメリット、年齢制限や卵子凍結による妊娠率について教えて
編集部
「卵子凍結」とはなんですか?
岡田先生
卵子は、生まれた時から体内にあるもので、加齢と共に古くなっていきます。そうなると、卵子が持つ妊娠能力は低下していきます。卵子凍結は、将来の体外受精を見据えて自身の卵子を凍結する技術です。凍結された卵子は、採卵時とほぼ変わらない状態を維持できます。2013年に「日本生殖医学会」は、健康な未婚女性が将来の妊娠に備えて卵子凍結を行う際のガイドラインを定めています。
編集部
やはり、若い時の卵子の方が妊娠しやすいということですか?
岡田先生
そうですね。卵巣の中にある卵子は、女性本人の年齢と同じように歳を重ねます。しかし、20代の時に凍結しておいた卵子であれば、仮に本人が40代になっても体外受精による出産率は20代と大きく変わりません。34歳までに20個の卵子を凍結することで、90%の出産の可能性を残せると言われています。これは、卵子凍結の大きなメリットと言えるでしょう。
編集部
では、デメリットとしてはどんなものがありますか?
岡田先生
排卵誘発剤を使うので、卵巣刺激により6~8%くらいの確率で、卵巣過剰刺激症候群(卵巣腫大、腹水貯留による腹痛、腹部膨満感)を起こすことがあります。また採卵の際、比較的かなりまれではありますが、腹腔内出血や感染を起こすことがあります。また、卵子が若くても、母体の年齢が高ければ妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクは、高齢妊娠と変わりません。
編集部
卵子凍結に年齢制限はあるのですか?
岡田先生
そうですね。卵子の持つ妊娠能力が年齢と共に低下していくことから、卵子凍結は多くのクリニックで36歳未満の女性を推奨としており、凍結した卵子の使用も原則として45歳の誕生日までとなっています。さらに、この条件を満たしていたとしても、例えば医師が健康状態を確認し、「採卵が望ましくない状態」と判断した場合には採卵を受付けできないこともあります。
卵子凍結を受ける当日の流れ 痛みはある? 全身麻酔で行う? 卵子採取当日の流れも専門医が解説
編集部
実際に卵子凍結を行う際は、どんな流れになるのですか?
岡田先生
まずは、卵子凍結を実施している医療機関を調べましょう。不妊治療をしているクリニックであればどこでもやっているというわけではないので、ホームページを見たり、事前に電話したりして確認してから、初診の予約を取ってください。
編集部
病院ではすぐに採卵してもらえるのですか?
岡田先生
そうではありません。まず初診では最初に卵子凍結についての説明を行い、問診、エコー検査、AMH検査を含む血液検査などを行います。
編集部
いろいろなプロセスが必要なのですね。
岡田先生
そうですね。その後、採卵に向けての準備を行います。ホルモン検査を行って排卵の誘発方法を決定し、服薬や注射を開始することになります。実際の採卵は生理開始から2週間くらいの時期に行います。生理1〜3日目から通院を開始し、採卵までに3回くらい受診していただきます。
編集部
採卵当日の流れを教えてください。
岡田先生
採卵日が決まったら、その日(採卵前夜の0時から)は食事を摂らないようにしていただき、当日の朝からは水分摂取も禁止となります。麻酔は局所麻酔と静脈麻酔があり、選ぶことが出来ますが、目安としては採卵が10個以内であれば局所麻酔、それより多ければ静脈麻酔をお勧めしています。手術自体は10分程度で終了しますが、その後局所麻酔の方は約30分、静脈麻酔の方は約2時間安静にしていただいてからご帰宅という流れです。お仕事のお休みについて聞かれることも多いのですが、当日の午前中、または半日のお休みを取っていただいています。静脈麻酔の場合は1日のお休みをお勧めしております。
卵子凍結前に知っておきたい注意点や費用、保険適用、リスク・副作用についても解説
編集部
卵子凍結前に知っておきたい注意点などありましたら教えてください。
岡田先生
基本的なことですが、採卵手術をしても必ずしも採卵できるわけではないということ、また卵子凍結が出来ても、必ずしも妊娠できるとは限らないということを認識していただきたいです。なお、凍結卵子の融解後の生存率は80〜90%程と言われています。
編集部
費用についても知りたいです。
岡田先生
目安としては初診から検査、排卵誘発するまでに約15万円、採卵の際には約20万円。プラスして、麻酔の種類によって別途費用がかかります。採卵した卵子を凍結する費用は、凍結する卵子の個数で費用が異なるクリニックが多いのですが、大体3個までで約3万円といったところでしょうか。クリニックにより異なりますので、まずはお近くのクリニックを確認してみてください。
編集部
やはり費用は結構かかるのですね。
岡田先生
そうですね。これはあくまで「卵子凍結」の費用なので、凍結した卵子を使って体外受精を行う際にはその費用が別にかかります。決して安い金額ではないので、金銭的な部分もしっかり確認する必要があります。例えば当院では、定額制の卵子凍結パッケージプランを用意していますし、自治体や企業などによっては、補助金などが受けられるところもありますので、お住まいの自治体やお勤めの企業の福利厚生なども調べてみてください。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。
岡田先生
2019年のデータだと、約46万件の体外受精が行われましたが、実際に出生したのは約6万人と、たったの13%という結果でした。日本の高い医療技術をもってしても、8~9回の体外受精で、やっと1人の赤ちゃんが産まれているということになります。日本における治療成績の低さの理由の一つに、不妊治療をはじめる年齢の高さがあります。若いうちは自分の状態や、治療の選択肢を知らず、比較的高齢になって、不妊が顕在化してから初めてクリニックに行くというケースが当たり前になってしまっているのです。一見、不妊とは無縁に思える20代の方にこそ、こういった事実を知っていただきたいです。「卵子凍結をお勧めします」ということではなく、きちんと知り、自分のライフプラン、選択肢の一つとして、先んじて考えてもらえたら嬉しいです。
編集部まとめ
「将来的には子どもを持ちたいけど、今はまだいい」と考えている20〜30代女性は多いと思います。自分のライフプランは自分で決められる時代ですが、そのためにも、正しい知識をもっておくことが大事なのだと思いました。この記事が、ご自身の妊孕性(にんようせい/妊娠する能力のこと)について考えるきっかけになったら嬉しいです。
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