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がん患者の不妊治療 助成制度設置へ

 更新日:2023/03/27

厚生労働省の検討会は3月11日、がんなどの治療前に凍結した卵子などを使って行う体外受精などの不妊治療に対する助成制度を設けることを決めました。このニュースについて前田医師に伺いました。

前田 裕斗 医師

監修医師
前田 裕斗 医師

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東京大学医学部医学科卒業。その後、川崎市立川崎病院臨床研修医、神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科、国立成育医療研究センター産科フェローを経て、2021年より東京医科歯科大学医学部国際健康推進医学分野進学。日本産科婦人科学会産婦人科専門医。

新たに設けられる助成制度とは?

厚生労働省の検討会が決めた、がん患者の不妊治療に対する新たな助成制度について教えてください。

前田 裕斗 医師前田先生

今回新たに設けることが決まった助成制度は、妊孕(にんよう)性温存療法でがんなどの治療前に凍結保存した卵子や精子、受精卵などを用いておこなう体外受精などの不妊治療に対して適用されるものになります。今年の4月から体外受精などの不妊治療に公的医療保険が適用されることになりますが、がん患者らを対象とした不妊治療は適用外となっていました。

新たな助成制度では、凍結卵子による体外受精には1回25万円、凍結精子による体外受精には1回30万円を上限として助成することになります。助成対象は不妊治療を始めるときの女性の年齢が43歳未満で、子ども1人につき女性の年齢が40歳未満ならば6回、40歳以上43歳未満ならば3回という公的医療保険の対象と同じ考えが示されましたが、対象年齢については一部異論が出たため今後も引き続き検討されることになります。男性については年齢制限を設けない方針です。なお、不妊治療を実施する医療機関は、日本産科婦人科学会と都道府県が登録・指定した医療機関でおこなう必要があります。

妊孕性温存療法とは?

妊孕性温存療法とはどのような治療なのでしょうか?

前田 裕斗 医師前田先生

抗がん剤や放射線治療などのがん治療では、妊孕性、つまり妊娠するために必要な能力がダメージを受けてしまいます。がん治療前に妊娠するために必要な能力を温存するための取り組みが妊孕性温存療法です。子宮頸部円錐切除術や子宮筋腫核出術などの子宮や卵巣を温存するための手術方法をとるなども妊孕性温存ですが、近年の生殖医療や凍結技術の発達により、配偶子や受精卵を凍結することが可能になっています。女性に対しては、未受精卵子凍結や受精卵凍結がおこなわれています。男性は、精子を凍結することができ、極めて一般的な方法として認められています。

新たな助成制度への受け止めは?

がん患者の不妊治療に対する新たな助成制度についての受け止めを教えてください。

前田 裕斗 医師前田先生

いわゆるAYA世代(Adolescent and Young Adult, 15~39歳くらいの年代)のがん治療を念頭に置いた制度変更で、大変素晴らしいことと思います。近年、医療の進歩により若くしてがんに罹った後も長く生きることができるようになりました。一方で、がん治療、とくに抗がん剤や放射線治療は卵子や精子に対するダメージを与えることで将来の妊娠に影響が出ることが多く、将来に向けた妊孕性の温存が問題となっていました。また、AYA世代の方が治療後に妊娠を望む場合、体外受精・胚移植や、未受精卵の保存などの高度生殖医療を必要とすることが多く、これらの医療は費用的負担が大きいため、既にがん治療で大きな金銭的負担を強いられている患者さんが利用しにくいという問題点がありました。実際に利用する人はまだまだ少数かもしれませんが、制度が変更になるというだけでAYA世代の方に希望を与えられるのではないでしょうか。

まとめ

厚生労働省の検討会が、がんなどの治療前に凍結した卵子などを使っておこなう体外受精などの不妊治療に対する助成制度を設けることを決めたことが今回のニュースで明らかになりました。対象年齢については引き続き検討されるということで、今後の議論に注目が集まりそうです。

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