「家族が認知症かも?」と思ったら 医師がもの忘れ外来の受診から診断までの流れを解説
家族が高齢になるにつれ、避けられない「認知症」というテーマ。「最近、もの忘れが増えてきた」などの気になる症状があったら、症状がひどくなる前にぜひもの忘れ外来へ受診することをおすすめします。今回は、もの忘れ外来の受診から診断の流れや認知症対策について、「銀座内科・神経内科クリニック」の霜田先生に解説していただきました。
監修医師:
霜田 里絵(銀座内科・神経内科クリニック)
目次 -INDEX-
認知症の原因や初期症状を医師が解説 親の認知症をチェックする方法はある?
編集部
まず、認知症について教えてください。
霜田先生
簡単に言えば、脳の認知機能が低下して日常生活に支障が出てくる状態が認知症です。認知症の原因は、脳の病気や障害など多岐にわたります。
編集部
発症初期には、どのような症状がみられますか?
霜田先生
「もの忘れ」がきっかけとなって、周囲が認知症に気づくことが多いですね。ほかにも、「同じことを何度も聞いたり話したりする」「ついさっき会った相手の名前がわからない」「人を疑うことが多くなる」「料理や計算などのミスが目立つようになる」「テレビを見ても内容が理解できない」「今日が何月何日かわからない」「約束を忘れることがある」「小さなことで怒りっぽくなった」「今までできたことができなくなる」など、様々な症状があります。
編集部
受診する前に、親の認知症をチェックすることはできますか?
霜田先生
そもそも、認知症には様々なタイプがあります。発症すると表情や体の動きが変わってくるタイプもありますが、多くの場合は初期のうちに症状があまり表れません。もの忘れが続いても「年のせい」と片付けられてしまうことが多く、なかなか自覚しにくいという問題があるのです。
編集部
もし本当に認知症だった場合、放置するリスクは?
霜田先生
認知症は自然に治癒する病気ではなく、時間とともにどんどん進行していきます。そのため、もし認知症を発症したら、症状を改善するというよりむしろ症状の進行を抑えることが治療の目的となります。認知症の悪化を防ぐには早期発見が大切なので、早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
編集部
「認知症の治療は進行を遅らせることが目的」ということは、治すことはできないのですか?
霜田先生
いいえ、治療可能な認知症もあります。例えば、甲状腺機能低下、うつ病、慢性硬膜下血腫といった病気が脳の働きを低下させる原因となっている場合は、それらの病気を治療することで症状を改善することが期待できます。ですから、そうした疾患を見落とさないことも重要です。
家族が認知症になったらどうすればいい? 対処法ともの忘れ外来受診から診断までの流れを紹介
編集部
家族の認知症が疑われる場合の受診先は、何科がいいのでしょうか?
霜田先生
近年では高齢化に伴い、「もの忘れ外来」や「認知症外来」が増えていますから、これらの科目を標榜している医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。もし近所になければ、脳神経内科、脳神経外科、精神科、老年科などに相談するのがいいと思います。
編集部
認知症外来やもの忘れ外来では、何をするのですか?
霜田先生
多くの場合、これまでの経緯や日常生活で困っていることなどを問診で尋ねたり、認知機能を測る検査をおこなったりします。検査の内容は医療機関によって異なりますが、「HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)」や「MMSE(ミニメンタルステート検査)」などがあり、記憶力や計算力、見当識能力などを測定します。
編集部
そのほかにも検査が必要ですか?
霜田先生
CT検査やMRI検査もおこないます。「脳が萎縮していないか」「脳梗塞がないか」などの脳の状態を確認します。
編集部
もの忘れ外来の検査は、保険適用なのでしょうか?
霜田先生
基本的には保険が適用される検査が多いので、1割または3割負担で受けることができます。
家族が認知症にならないための予防法、認知症の治療や進行を遅らせる方法はある?
編集部
認知症と診断された場合、どのような治療をするのでしょうか?
霜田先生
薬物療法と非薬物療法があり、必要に応じて組み合わせて治療を進めます。薬物療法で用いる薬は大きく分けて2種類あり、情報の伝達をスムーズにする働きを持つ「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」や神経細胞を守る「NMDA受容体拮抗薬」があります。
編集部
新薬の開発も進んでいると聞きました。
霜田先生
はい。2023年1月、アルツハイマー型認知症に対する治療薬「レカネマブ」がFDA(アメリカ食品医薬品局)から承認を受けました。今後、レカネマブが認知症治療の救世主になるか注目を集めています。
編集部
もし家族が認知症を発症したら、どのように対応したらいいのでしょうか?
霜田先生
その場合にはかかりつけの医師と相談しながら、必要に応じて公的サポートの利用をおすすめします。自宅での介護が難しい場合、施設への入居を検討することもあるでしょう。いずれにしても1人で抱え込むのではなく、家族全員で協力したり、社会的支援を活用したりして、関係者で協力してサポートする姿勢が大切です。
編集部
症状の進行を遅らせるには、どうしたらいいですか?
霜田先生
薬の副作用などに気をつけながら、医師の指示に従って適切に投薬治療を進めるとともに、自宅でも様々な活動に取り組んでみましょう。例えば、家事や園芸などをおこなう「作業療法」や、音楽を聞いたり歌ったりする「音楽療法」、ストレッチやウォーキングなどの「運動療法」は、認知症の進行を遅らせる効果を期待できます。
編集部
そうした活動でも認知症の進行を遅らせることができるのですね。
霜田先生
そうですね。ただし、すぐに効果が出るものではありませんから、根気よく継続することが大切です。
編集部
認知症を予防することはできるのですか?
霜田先生
「積極的に運動をする」「食生活を整える」「きちんと睡眠時間を確保する」など、健康的な生活を心がけることで認知症を予防することができます。また、外に出る機会を増やしたり、人と積極的に会ったりすることも認知症予防につながります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
霜田先生
現在は「人生100年時代」を超えて、「100年以上時代」に突入していると思います。長い人生を豊かに生きるためには、脳の健康を保つことがとても重要です。特別なことをしなければいけないのではなく、生活習慣を正すといった基本的なことを心がけるだけでも、十分な効果が期待できます。中高年のうちから食事・運動・睡眠に気をつけて、規則正しい生活を送るようにしましょう。また、万が一家族が認知症になった場合には頑張りすぎず、社会的なサポートを活用して、みんなで協力することが大事です。とくに最近は核家族化が進み、特定の人に負担がかかりがちです。1人で問題を抱えて孤立しないように、まずは役所や保健所などに相談して、治療や介護のための道筋を作ってもらうことから始めてみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
今後、さらに高齢化が加速する日本において、認知症は誰もが考えなければならない重要な社会問題です。「親が認知症になったらどうするか?」などの知識を早いうちに身につけておくことは、いざというときに役立ちます。万が一のときに備えて、事前に家族で介護体制などを相談しておくといいかもしれませんね。
医院情報
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