認知症は予防することができますか? 医師に秘けつを聞く
内閣府の統計によると、日本における認知症患者は、2025年の時点で約700万人に上る見込みとのこと。実に、「65歳以上の高齢者の“5人に1人”は認知症」という時代がやってくるようだ。親はもちろん自分自身のためにも、今からできることはないのだろうか。その秘けつを、「山王クリニック品川」の山王先生に解説いただいた。
監修医師:
山王 直子(山王クリニック品川 院長)
横浜市立大学医学部卒業、米国メイヨークリニック留学、博士号取得。日本医科大学脳神経外科学講師、日本医科大学多摩永山病院勤務を経た2004年、東京都港区に「山王クリニック品川」開院。未病の段階からの健康管理を呼びかけている。日本脳神経外科学会専門医・評議員、日本頭痛学会頭痛専門医、日本内分泌学会代議員、日本医師会認定健康スポーツ医。日本間脳下垂体腫瘍学会、日本内分泌病理学会の各会員。書籍、メディア出演、論文など多数。
現在の生活が、将来の認知症を招く
編集部
認知症は予防できるのでしょうか?
山王先生
できます。お薬による方法と、日ごろの生活を「より認知症になりにくいように整える」方法があります。生活改善はどなたでもすぐに始められますので、こちらから取り組んでみてはいかがでしょうか。
編集部
生活改善のポイントを教えてください
山王先生
まずは、適度な運動を取り入れることですね。週2回から3回以上、それぞれ30分以上の運動を推奨します。ウォーキングなどの簡単な内容で構いません。血流が良くなることで脳内の老廃物を流しだしやすくなりますし、体がキビキビしていてこそ脳も元気になります。昨今話題の「クイズ本」の答えを考えながら歩くなどすると、さらに効果的かもしれませんね。
編集部
続いて、運動以外の項目についてもお願いします
山王先生
次は、栄養バランスの良い食事を心がけること。とくに、不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を多く含む青魚が効果的です。ただし、青魚ばかり食べていても偏食を起こしてしまいます。偏りのない食生活を目指してください。
編集部
逆に、認知症を加速させかねない食べ物は?
山王先生
肉や揚げ物ばかりの食事、スイーツ類の偏食などですね。コレステロール値の高い食べ物は、認知症を招きやすいからです。糖分は、脳の栄養と言われる一方、脳の代謝に必要なビタミンB2を破壊してしまうのです。食事を菓子パンだけで済ますような方は、ぜひ、見直してください。もっともやってはいけないことの典型でしょう。
早すぎることはない、今から始める認知症対策
編集部
生活を見直す際、どのような点に着目すればいいですか?
山王先生
とにかく、動脈硬化が認知症の根源だと考えています。高血圧、糖尿病、脂質異常症のような生活習慣病を治していくことが、認知症予防につながるのです。また、睡眠不足も良くありません。眠っている間に脳のダメージを治してくれるので、寝過ぎても逆効果ですが、6時間から7時間くらいの睡眠時間は確保したいですよね。
編集部
よく、定年すると認知症にかかりやすいと聞きますが?
山王先生
それは、社会への参加機会が薄れ、孤独に陥ってしまうからでしょう。「誰かの役に立っている」とか「お金を稼いでいる」といったことが、認知症予防の大きなファクターになりえます。ただし、苦手なことを始めても続かないので、好きなことや学生時代に取り組んでいたことなどがいいでしょう。
編集部
マッチ棒でお城を造るといった「孤独な作業」はどうなのでしょう?
山王先生
他人との会話がほしいですね。そのほうが脳も活性化されます。予定された線路の上を走っているだけだと、刺激が少ないんですよね。その点、おしゃべりをしていれば、脱線させられたりもっといい行き先に巡り会えたりと、何かしらの変化があるはずです。
編集部
認知症予防は、いつごろから取り組みはじめるべきですか?
山王先生
今、すぐに始めてください。20代でも早すぎることはありません。「忙しいからオニギリ1個」みたいな生活を続けていると、認知症がどんどん近づきます。
「人生のムダ」を受け入れることも認知症防止に
編集部
どうして認知症が起きるのでしょう?
山王先生
認知症にはいくつか種類があり、もっとも多いのは「アルツハイマー型」と呼ばれる症状です。これは、「アミロイドベータペプチド」というタンパク質が脳内に蓄積され、神経細胞を破壊することで発症します。
編集部
「アルツハイマー型」以外の認知症についても教えてください
山王先生
脳血管の病気による「脳血管性認知症」です。脳梗塞や脳出血の影響で認知症になる方もいらっしゃいます。
編集部
認知症には個人差があるのですよね?
山王先生
アミロイドベータペプチドは、人の持っている酵素で分解できるものの、酵素の量に個人差があります。その量を「MCIスクリーニング検査」という血液検査で調べることができます。いわば「認知症になりやすいか、なりにくいか」のテストです。保険が効かず自費のみの扱いとなり、検査費用は1万5000円から2万円前後が相場となります。
編集部
遺伝も関係しているのでしょうか?
山王先生
関係しています。ご家族やご親戚に認知症の方がいらっしゃったら、ご自身の「MCIスクリーニング検査」を受けてみてはいかがでしょうか。認知症リスクが高かった場合でも、早めの対策により、発症を防げるかもしれません。
編集部
後天的要因としては、どのようなものがありますか?
山王先生
先ほどの食生活を除くと、社会的孤独でしょうか。「人生のムダ」って、ことのほか大切なんですよ。ムダを省きすぎると、線路が固定されますよね。人付き合いにしても、興味を示す領域にしても、のりしろを持つことが重要だと思います。ぜひ、20代のころから、さまざまなムダを楽しんでください。
認知症の自覚と治療について
編集部
認知症は自覚できますか?
山王先生
初期症状で多いのは「もの忘れ」です。「あれ?」といった経験が増えてくるはずですので、まずはそこから自覚しましょう。自分では気付かず、他人からの指摘を受けるようになったら、いよいよ要注意です。専門医院を受診するようにしてください。
編集部
受診する場合は何科に行くのですか?
山王先生
「もの忘れ外来」を標ぼうしている医院がいいでしょう。神経内科や脳神経外科よりも、専門性が高いと思います。
編集部
薬で治療するとしたら、どのような方法が?
山王先生
アルツハイマー型の認知症には、「アセチルコリンエステラーゼ阻害剤」が有効とされています。神経伝達物質を活性化してくれるお薬です。運動療法や行動療法を併用することもあります。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば
山王先生
スマホで育っている世代の認知症リスクを危惧しています。人との会話が生まれませんし、光源が脳に過度な刺激を与えてしまいます。メールと会話は、あきらかに異なった伝達手段です。会話には空気感が含まれますし、より短い間で多くの情報を処理しているんですね。認知症予防のためにできることは、たくさんあります。早くそのことに気付きましょう。
編集部まとめ
山王先生は「動脈硬化が認知症の根源」とおっしゃっていました。さらに加えるなら、社会的孤独でしょう。食事を菓子パンやスナックだけで済ませ、終始、スマホとテレビに向き合っているとしたら。必ずしも高齢者の話題とは限らない認知症。ぜひ、今から、その対策に取り組みましょう。
医院情報
所在地 | 〒108-0075 東京都港区港南2-16-1 品川イーストワンタワー3F 307-C |
アクセス | JR品川駅港南口より徒歩1分 |
診療科目 | 内科・脳神経外科・内分泌内科 |