「漢方で痩せる」はウソ? ホント? 特徴や副作用を薬剤師に聞く
「漢方ダイエット」は近年話題となっているダイエット方法の一つです。しかし、漢方はあまり身近なものでなく、よく分からないという人も多いのではないでしょうか? 今回は本当に漢方で痩せる効果が得られるのか。漢方の副作用や特徴について、上尾中央総合病院で薬剤師として勤める糸井さんに解説していただきました。
監修薬剤師:
糸井 陽介(薬剤師)
目次 -INDEX-
漢方薬は直接的には痩せないが“痩せやすい体質”を間接的に作ることができる
編集部
漢方で本当に痩せることができるのでしょうか?
糸井さん
漢方で痩せることは可能です。しかし、重要なことは漢方だけで痩せるというのは難しいということです。漢方を語る上では欠かせない中医学では、人体を一つの大きな有機体と捉え、すべての組織が関わり人体を構成していると考えています。また、自然界との関係を重視しており、暑い、寒い、じめじめしている、乾いているなどの自然環境の影響を受けていると考えて成り立っています。つまり、漢方の役割は「体質を改善すること」です。人によって、どの要素が体型を不安定にさせているのかは異なります。そこにきちんと焦点を当て意識して生活することでダイエット効果は得られると思います。
編集部
漢方ダイエットだと「防風通聖散(ボウフウツウショウサン)」という漢方が知られていますが、どのように痩せることができるのでしょうか?
糸井さん
防風通聖散は18種類の生薬の組み合わさった漢方薬で、基礎代謝、主に脂質の燃焼率を改善させることで体重減少、内臓脂肪を低下させる効果を有しています。
編集部
実際に痩せたというデータはあるのでしょうか?
糸井さん
防風通聖散がダイエット効果をもつとして認められた試験では、30~40代の肥満傾向にある男女を対象に防風通聖散を12週間服用し、その結果として体重は平均2.1kg減少、ウエストサイズは平均3.3cm減少していると報告されています。服用4週間継続が出来れば脂質の燃焼率も15%も増加しています。冒頭にもご説明しましたが、あくまでも体質の改善となるため、服用を継続しなければまたもとの体型に戻ってしまう可能性が高いので服用コンプライアンスはとても大切になります。
編集部
効果的にダイエットを行うにはどうしたらいいでしょうか?
糸井さん
「生活を見直すこと」が一番かと思います。より具体的にお伝えすると、「消費カロリーを増やすこと」と「摂取カロリーを減らすこと」の2つです。“摂取カロリー<消費カロリー“が成り立つことでダイエット効果が現れますが、防風通聖散は安静時の基礎代謝を向上(改善)することで消費カロリーを増加させます。そのため、効果的にダイエットをするのであれば、10分でいいので運動を生活に入れてみるのが良いと思います。
編集部
やはり漢方薬を服用するだけで痩せるのは難しいのですね。
糸井さん
そうですね。ほかにも一般的ですが、食事の見直しも重要です。一番簡単な食事の気を付け方としては脂質の少ないものを食べるということです。コンビニでご飯を買うのなら成分表を見てみてください。自炊をするのなら油を使うような食事を少なくし、蒸したりゆでたりしてみましょう。しかし、脂質を0にすることはほぼ不可能ですし、体にも悪いので極度に脂質を摂らないようにはしないようにしましょう。
ダイエットにおすすめの漢方薬を紹介 効果も併せて解説
編集部
ダイエットで使える漢方は何があるのでしょうか?
糸井さん
防風通聖散以外にダイエットとして使用される漢方としては、大柴胡湯(ダイサイコトウ)、防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)があります。防風通聖散もそうですが、人によっては使用しない方が良い漢方もあるので市販薬を購入する際には医師や薬剤師に相談することをお勧めします。
編集部
それぞれどんな効果があるのでしょうか? 先ほどの順番で教えてください。
糸井さん
わかりました。まず、大柴胡湯は2つのダイエット作用があります。1つはダイオウという漢方の作用です。意外かもしれませんが、便秘も体型を崩す要因の1つになります。1日の排便量は正常な人で500g程度と言われていますが、便秘傾向でそれが出にくい人は腸管の中にかなりの量の便がたまり、体重としても腹部の見た目も悪くさせてしまいます。宿便の解消がこの大柴胡湯の作用の1つになります。2つ目は腸管の脂質吸収を抑制する効果です。先ほどもお伝えした通り、脂質は1gで9kcalとカロリーが高く、その脂質吸収を抑制することで摂取カロリーを減らすことでダイエット効果を示す可能性があります。これについては動物実験での結果のためどの程度ヒトに対して効果を示すかは定かではありません。
編集部
次に 防已黄耆湯はどのように作用するのですか?
糸井さん
防己黄耆湯は一言でいうとむくみを解消させてダイエット効果を示します。ボウイという生薬が体内に溜まってしまっている水分の排泄作用が主になります。
編集部
桂枝茯苓丸についても教えてください。
糸井さん
桂枝茯苓丸は血液の循環を改善することでむくみを解消する作用を有しています。
編集部
それぞれどんな人に向いているのでしょうか?
糸井さん
大柴胡湯は、がっしりとした体格で、便秘傾向の人に対して向いていると言えます。防已黄耆湯は色白で疲れやすい、汗のかきやすい肥満症、むくみのある人に対して向いています。桂枝茯苓丸は比較的体力がある人、女性であれば月経不順などで下腹部痛や肩こり、頭痛がある人に向いています。
漢方服用時の注意点まとめ 副作用は起こるのか
編集部
漢方を使う時に注意しなければいけないことはありますか?
糸井さん
まず、医療機関で処方された薬剤を服用している人に関しては相互作用に注意が必要となります。医師や薬剤師も確認していますが、人によっては副作用の発現リスクは変化する可能性があるため、自分でも意識することが大切です。また、それぞれの漢方で注意点があるので気をつけましょう。
編集部
それぞれの漢方を服用する上での注意点を教えてください。
糸井さん
大柴胡湯(8番)は胃腸が弱い人や体力が少ない人に対しては副作用の発現リスクが高くなるため注意が必要です。あくまでも大柴胡湯は「がっちりした体格で比較的体力のある人」向けになっています。防已黄耆湯は色白で疲れやすい人に向いている漢方のため、体力がある比較的元気な方が服用してしまうと効果が空回りし、副作用のリスクを上げてしまうことに注意が必要です。桂枝茯苓丸は比較的体力がある人に向いているため、比較的虚弱体質な方は漢方の副作用が強く出る可能性があります。
編集部
漢方って副作用とかないイメージですが、実際はどうですか?
糸井さん
副作用はどの漢方でもあります。特に医薬品が体内に入った場合、そのほとんどが肝臓で代謝を受けますので、肝機能障害を引き起こす可能性もあります。服用していて、食欲不振、黄疸などの症状が出るようであれば医療機関に相談するようにしましょう。
編集部
それぞれの漢方の副作用も併せて教えてください。
糸井さん
大柴胡は低頻度ですが、間質性肺炎が代表的な副作用の1つです。すぐに治療開始することが大切なので、発熱を伴う空咳や息苦しさが出てくるようなら早急に医療機関を受診しましょう。防已黄耆湯は体力の少ない人に使われるため、滋養強壮としてのオウギ、カンゾウが含まれています。その中でもカンゾウは人によって偽アルドステロン症といって電解質異常を引き起こす原因にもなってしまいます。主にカリウムの排泄が促進され、低カリウム血症を引き起こします。軽度の低カリウム血症であれば自覚症状はない場合も多いですが、重症度が上がるにつて、手足のしびれや四肢の痙攣、脱力感などが出てきます。桂枝茯苓丸の代表的な副作用としては下痢や肝機能障害になります。
編集部
漢方でもそんな怖い副作用があるのですね。少し怖くなりました。
糸井さん
生薬は本来体にない物を服用し全身に作用させるため、基本的には全ての薬剤に副作用は存在します。そのデメリットとメリットを考えた上でメリットの方が大きいと判断され市場に出ているのです。重要なことは、副作用が発現した際に気づけるかどうかです。特に自覚症状のあるものについては服用している本人が一番把握できるものです。食欲不振や黄疸、発熱を伴う空咳や息苦しさ、手足の震えや脱力感などの自覚できる症状があるので、違和感や症状が出るようであればすぐに医師や薬剤師に相談することでより安全に漢方を服用することが出来ます。何かあればきちんと専門家を頼るようにしましょう。
編集部まとめ
漢方薬をダイエットに組み込むことでよりダイエット効果を向上させる可能性があります。漢方も医薬品であり副作用は存在しますが、副作用の発現頻度は高い物ではないこと、自覚できる症状があるため、気づいた時点で医師や薬剤師に相談することができれば比較的安全に服用することが出来ます。また、漢方はあくまでも体質改善を目的としているため、食事内容の見直しや、運動を日常に取り入れることでよりダイエット効果を実感できることでしょう。今までダイエットをして上手く結果に結びつかなかった人でも効果を実感できる可能性があるため、自分に合った漢方で行ってみてもよいでしょう。