糖尿病はなぜ高血圧を合併しやすいの? 理由を医師が解説
糖尿病では、体内のさまざまな血管が障害されるなどして、「糖尿病性腎症」や「糖尿病性網膜症」などの合併症のほか、高血圧になるリスクもあるといいます。糖尿病、高血圧、それぞれを予防するにはどうしたら良いのでしょうか。そこで糖尿病で高血圧を合併しやすいメカニズムや高血圧を予防するための生活習慣などについて、「とき内科クリニック座間駅前」の土岐卓也先生に話を聞きました。
監修医師:
土岐 卓也(とき内科クリニック座間駅前)
糖尿病と合併しやすい高血圧との関係とは
編集部
糖尿病と高血圧は合併しやすいのでしょうか?
土岐先生
糖尿病と高血圧を合併している人は多くいらっしゃいます。糖尿病の人が高血圧になる割合は、そうでない人と比べて2倍ほど高くなると報告されています。
編集部
なぜでしょうか?
土岐先生
糖尿病や高血圧はどちらも「生活習慣病」の一種で、糖尿病は食べ過ぎや運動不足、高血圧は塩分の過剰摂取などが原因で発症します。そのため、前述のような生活を送って、肥満になっている場合には、どちらも発症しやすくなるといえるでしょう。
編集部
糖尿病になってしまうと、なぜ血圧も高くなってしまうのでしょうか?
土岐先生
高血糖によって循環血液量が増えることや、肥満、インスリン抵抗性、糖尿病性腎症(腎機能の低下)による影響などが考えられます。
編集部
血圧を上昇させるメカニズムについて教えてください。
土岐先生
血糖値が高い状態では、血液の浸透圧が高くなっています。細胞内の水分が細胞外に出てくるなど、体液や血液量が増加して、血圧が上昇してしまうのです。
編集部
肥満と高血圧との関係についても教えてください。
土岐先生
肥満になると、自律神経の一つである交感神経が優位になります。すると、血圧を上げるホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリンなど)が多く分泌され、高血圧になりやすくなってしまうのです。特に2型糖尿病の方は肥満であることも多いため、高血圧になりやすいといえます。
編集部
インスリン抵抗性による高血圧への影響についてはどうでしょうか?
土岐先生
インスリン抵抗性とは、インスリンの作用を受ける細胞の感受性が低下して、インスリンの効きが悪くなってしまう状態です。それ自体が糖尿病の原因になると同時に、インスリンが効きにくくなったことを補うために多量のインスリンが分泌され、「高インスリン血症」を招きます。高インスリン血症では、交感神経が過度に緊張したり、腎臓でナトリウム(塩分)が排泄されにくくなったりします。すると、血管が広がりにくくなり、血液量も増えて血圧が高くなってしまうのです。
編集部
糖尿病性腎症による影響についても教えてください。
土岐先生
糖尿病の三大合併症のうちの一つである腎症を来すと、腎臓から血圧を上げるホルモン(レニン)が分泌されたり、血液のろ過機能が低下したりします。すると血液量が増え、血圧が上昇するのです。
糖尿病と高血圧を合併するとどうなる?
編集部
糖尿病と高血圧を合併すると、どうなるのでしょうか?
土岐先生
動脈硬化を促進してしまうことや、糖尿病の合併症である「網膜症」や「腎症」を悪化させることがあります。
編集部
動脈硬化を促進するのはなぜですか?
土岐先生
糖尿病で高血糖の状態が続くと、血管の内側が傷つき、血液中のコレステロールが蓄積します。蓄積したコレステロールは「プラーク」という塊となって血管内に蓄積し、動脈を硬くしてしまうのです。さらにプラークが年月をかけて蓄積すると、より動脈が硬くなり、動脈硬化が進行します。また、高血圧であることも同時に血管を傷つけ、血管に負担をかけ続けたり、コレステロールが血管内に入りやすくなったりして、動脈硬化を促進してしまうのです。
編集部
動脈硬化を生じると、どんな恐れがありますか?
土岐先生
脳卒中や虚血性心疾患発症のリスクを高めます。動脈硬化では、血管が硬くなったり、狭くなったりするため、血流が悪くなり、詰まりやすい状態になります。そのため、心臓の血管が詰まって心筋梗塞を発症したり、脳に血栓が流れて脳梗塞を引き起こしたり、脳の血管が破れて脳出血をきたしたりする恐れがあるのです。
編集部
腎症や網膜症を悪化させるのはどうしてですか?
土岐先生
糖尿病も高血圧も、動脈のような太い血管だけでなく、全身の細い血管にもダメージを与えるからです。腎臓は毛細血管の集まりで、血圧による影響を受けやすい臓器です。腎機能が悪化すると、さらに血圧が上がるリスクも生じます。また、網膜の細い血管にも同様にダメージを与えます。
糖尿病・高血圧の治療には食事や生活習慣の改善が重要
編集部
糖尿病を発症している場合、どのくらいの血圧で治療の対象となりますか?
土岐先生
「高血圧治療ガイドライン」では、糖尿病を発症している場合、病院で測定する血圧が130/80mmHg以上を治療開始の目安としています。ただし、血圧が130〜139/80〜89mmHgの場合には、まずは生活習慣の改善から始めます。その後およそ1カ月後に再度病院で血圧を測定し、降圧が確認できれば、3カ月を超えない範囲で生活習慣の改善を継続していただき、それでも改善が見込めない場合には、薬物療法を開始します。一方、血圧が140/90mmHgを超えている場合には、すぐに薬物療法を開始する必要があります。
編集部
生活習慣の改善で重要なポイントを教えてください。
土岐先生
基本的には塩分制限が重要です。食塩の摂取は1日6g未満としてください。また、有酸素運動を行うことも有用です。ウォーキングなどの有酸素運動を1日20分以上、無理のない範囲で行うことが推奨されています。しかし、網膜症や腎症などの合併症が進んでくると、激しい運動はこのような合併症を悪化させる恐れもあります。そのため、運動は主治医の指示に従って正しく行いましょう。
編集部
このほかに大切なことはありますか?
土岐先生
家庭でも、血糖値だけでなく血圧を測定し記録するようにしましょう。実際には、病院で測定するより家庭で測定する方が血圧は低めに出ることも多いため、家庭血圧の参照は重要と考えられています。家庭血圧を測定して記録することで、この値を元に主治医が治療内容を調整することが可能です。治療の参考にもなるため、なるべく毎日朝晩測定し、記録して受診時に持参するようにしましょう。
編集部
ありがとうございました。最後に読者の皆様にメッセージお願いします。
土岐先生
糖尿病の治療の目的は、動脈硬化を予防していろいろな合併症を防ぐことです。また、これは高血圧に関しても同じことがいえます。そのため、両方を併発している場合には、どちらか一つが欠けても動脈硬化を促進してしまう恐れがあるのです。そのため、血糖値や血圧だけでなく、全てを包括的に治療し、改善することが重要です。主治医の指示のもと、生活習慣の見直しを行いましょう。
編集部まとめ
糖尿病を発症すると高血圧を併発しやすく、またどちらも動脈硬化を促進することから、さまざまな合併症発症のリスクを高めます。かかりつけでの適切な治療のほか、塩分制限や必要に応じて有酸素運動などを行い、動脈硬化の予防に努めましょう。
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