糖尿病患者に運動が必要なのはなぜ? 効果的な運動方法とは?
糖尿病の予防や管理には運動が重要だという話はよく聞きますが、具体的にどのような効果があるか、どうすれば効果的に行えるかについては、やや分かりづらいところがあります。今回、理学療法士で糖尿病療養指導士の塩見さんに糖尿病予防における運動の重要性を伺いました。
監修:
塩見 耕平(理学療法士)
札幌医科大学保健医療学部卒業。筑波大学大学院人間総合科学研究科修了。 民間病院・大学病院において集中治療室から在宅ケアまで幅広く臨床業務に従事する傍ら、腎臓内科学研究室および社会医学系研究室で予防医学研究を進めてきた。株式会社Exult代表、株式会社カケミチプロジェクト取締役。 理学療法士、糖尿病療養指導士、腎臓リハビリテーション指導士、博士(ヒューマン・ケア科学)。
糖尿病(血糖値)と運動の関係
編集部
はじめに、糖尿病という病気について改めて教えてください。
塩見さん
糖尿病は「糖代謝の障害」が起きる病気です。つまり、エネルギーである糖を体の中で上手く活用できなくなる病気と言えます。なぜ上手く活用できなくなるかというと、インスリンという血糖をエネルギーとして取り込む働きをもつホルモンが効きにくい体質となったり、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)の力が弱くなったりすることが原因です。そして取り込めなくなった糖が血液中にたまった結果、「血糖値が高く」なります。
編集部
血糖値が上がるのは結果で、原因は糖代謝の障害にあるのですね。運動はどのように影響するのでしょうか?
塩見さん
運動が血糖値を改善させる理由はいくつかありますが、とても重要な経路として「インスリン抵抗性の改善」が挙げられます。先ほどご説明した、血液中に糖があるのにインスリンの効きが悪いため糖をエネルギーとして取り込めない状態を「インスリン抵抗性が高い」と表現するのですが、適切な運動はこのインスリン抵抗性を改善させると報告されています。
編集部
運動の効果は、そのほかにもありますか?
塩見さん
GLUT4(グルットフォー)の働きをぜひ知っておいていただきたいです。インスリンは「血糖値を下げる唯一のホルモン」と言われているのですが、実はホルモンに頼らず糖を細胞に取り込む役割をしているのがGLUT4というタンパク質です。このGLUT4は運動により活性化するという特徴があるため、運動するときにはぜひ頭の中で「GLUT4、GLUT4」と連呼していただけると良いと思います(笑) 。
糖尿病を予防する効果的な運動方法
編集部
具体的にどのような運動がおすすめなのでしょうか。
塩見さん
教科書的な答えは20〜60分の運動を週3回以上と言われているのですが、それよりずっと重要なのは「継続して行うこと」です。どんなに理想的な運動であっても数回実施しただけでは健康に良い影響を与えることはありません。
編集部
継続して行える運動にはどのようなものがありますか?
塩見さん
例えば、毎日の通勤も立派な運動です。リモートワークの影響で朝晩の運動の機会を失った方もおられるので、血糖値の高いリモートワーカーの方は病態が悪化しないように注意が必要です。どのような運動が継続しやすいかについては、個人差が大きいので、ご自身の趣向を振り返ってみて楽しめるものを選ぶと良いです。私は同じ動作を繰り返すランニングが苦手で、ジムまでの移動すら面倒と感じてしまうタイプですので、最近では自宅でストレッチやVRデバイスを使ったボクササイズを行っています。
編集部
継続できればどのような運動でも効果があるのでしょうか?
塩見さん
残念ながらそうではありません。糖尿病を予防していくためには心臓や筋肉に適切な負荷をかけてあげる必要があります。よく筋トレと有酸素運動のどちらが良いかと聞かれますが、運動の種類の違い以上に負荷を十分にかけられているかどうかが重要です。例えば、同じ1万歩を歩いたとしても、小さな歩幅でゆっくりと歩くのと早歩きとでは運動の効果は全然違います。
運動する際に注意するポイント
編集部
運動をするときに気をつけた方が良いポイントを教えて下さい。
塩見さん
まずは先ほど申し上げた「運動の負荷」を意識することが重要です。運動負荷の設定については、筋トレであれば「10回くり返すことがギリギリできる重さ」を一つの基準として負荷を設定するのが一般的です。また、有酸素運動では、心拍数がいくつまで上昇しているか確認しながら行うのも効果的です。
編集部
運動は強いほど良いのでしょうか?
塩見さん
そうとも限りません。運動に不慣れな方が急に運動を始めると、怪我をしたり血圧が上がりすぎたりすることもあるため、それぞれの体力や体調に合わせて無理をしすぎないことが重要です。
編集部
そのほかに注意することはありますか?
塩見さん
糖尿病が進行した方では様々な合併症がでてくるので、その点に注意が必要です。自律神経の機能が低下している方では、立ちくらみが起きやすかったり、心拍数が適切にコントロールされなかったりすることがあるため、準備運動やクールダウンを行うことが重要です。また、糖尿病神経障害の方ではつま先の感覚が鈍くなるので、靴ずれを起こさないような靴選びや定期的な観察が必要です。
編集部まとめ
運動がインスリンの効きを改善させるだけでなく、GLUT4というタンパク質を刺激して血糖値を下げる効果があるということを知ると、運動に対するモチベーションが上がりますね。また、とくに運動に不慣れだったり病気があったりする方では、準備運動やクールダウンをしっかりと行なっていくことが重要とのことでした。