妊娠発覚前(妊娠超初期)の飲酒・タバコ「デキてすぐやめれば問題なし」の理由に納得
妊娠中の喫煙は胎児の命のリスク、同じく飲酒も早産や流産などの原因となりえます。ですが、妊娠が発覚する前に、お酒を飲んだり、タバコを吸ったりしていた場合、すぐに止めれば問題ないそうです。果たして、どうしてなのでしょうか? 飲酒と喫煙が妊娠・出産に与える影響と合わせて横川レディースクリニックの横川智之院長に、詳しく聞きました。
監修医師:
横川 智之(横川レディースクリニック 院長)
1974年順天堂大学卒業。同大学病院および大学関連病院にて産婦人科の医師として勤務。1981年東京慈恵会医科大学産婦人科学講座入局。1995年金町中央病院にて産婦人科開設。2003年横川レディースクリニックを開設。2018年11月に全館リニューアルを行い、分娩台の数を2台から3台に増設。これまで以上に安全で安心のお産をサポートできる環境を整備した。産科を中心に、小児科や婦人科、内科を併設。大学病院に在籍する医師や漢方専門医師の協力のもと、女性の一生に寄り添いながら、専門性の高い医療を提供している。
妊娠発覚前(妊娠超初期)の飲酒とタバコが胎児に与える影響は?
編集部
妊娠に気づく前にお酒を飲んだり、タバコを吸ったりしていた場合、胎児に影響はありますか?
横川先生
妊娠中や授乳中のお酒が良くないということは、すでに一般常識となっています。しかし、妊娠に気付いていなければ、普段通り、お酒を飲んだり、タバコを吸ったりしてしまう人もいるでしょう。結論を言うと、妊娠がわかってすぐにお酒やタバコをやめたのであれば、特に問題はないでしょう。もし、影響があった場合、胎児は発育できず、残念ながら流産してしまっているはずです。つまり、結果的に流産せずに胎児が育っているのであれば、問題はなかったということです。
編集部
妊娠に気づく前、大量に飲酒をしていたり、ヘビースモーカーだったりする場合も、胎児に影響はないのでしょうか?
横川先生
大量の飲酒をしていたとしても、受精直後の妊娠超初期の段階では、胎盤自体が未完成です。そのため、栄養もアルコールも多く運ぶことができません。したがって、妊娠に気がつかないくらいの超初期の飲酒であれば、大きな問題はないとされています。ただ、タバコは胎児に影響を与える可能性があるため、妊娠を希望している場合は、すぐに禁煙した方がいいでしょう。
編集部
いつお酒やタバコをやめればいいですか?
横川先生
妊娠したいと考えはじめたなら、同時に禁煙をスタートしましょう。禁酒もなるべく、前向きに考えてほしいです。妊娠に気づかず、少量のお酒を飲んでしまった程度であればそれほど問題はないかもしれませんが、胎児の健康を考えれば、“晩酌のビール”など、習慣的な飲酒はやめましょう。お酒の席に参加する場合は、ノンアルコール飲料を飲むように切り替えるのが望ましいですね。一方、タバコはお酒に比べて非常に有害なので、完全に禁煙した方がいいでしょう。
お酒が胎児と妊婦に与える影響は?
編集部
まずは、お酒が妊婦と胎児に与える影響について教えてください。
横川先生
お酒が胎児に与える影響は、まず「成長が遅れる」ということです。アルコールがお腹の赤ちゃんに影響して、低体重や低身長の子が産まれる可能性があります。また、鼻や目などが低く小さくなったり、脳の発育が遅れたりなど、胎児の器官形成に不完全な部位が現れる可能性もあります。さらに、妊娠中は、お母さんの体に流れる血液の一部が胎児に送られます。飲酒をするとアルコールが含まれた血液が胎児に流れ込むため、心疾患や関節部分に異常が出る可能性も生じます。
編集部
お酒の度数も、胎児への影響に関係するのですか?
横川先生
一般に、アルコール度数が高いお酒ほど、胎児に影響を与えるとされています。
編集部
お酒が胎児に影響を与えるのは、なぜですか?
横川先生
アルコール(エタノール)とその代謝産物であるアルデヒドは胎盤を通り、胎児の細胞の増殖や発達に障害を与えます。その結果、発育遅延や、精神発達の遅滞につながる中枢神経障害、頭蓋骨や顔面の形成異常など、さまざまな障害を引き起こします。これは、「胎児性アルコール症候群」と呼ばれています。この胎児性アルコール症候群による特異的な顔貌(がんぼう)や低体重などは、赤ちゃんが成長するとともに次第に目立たなくなりますが、「発達障害」や「うつ病」などの精神科的問題が、成長過程で明らかになってくることもあります。
編集部
一方、飲酒は妊婦さんにどのような影響を与えるのですか?
横川先生
妊婦がお酒を飲むことで、早産や流産、分娩異常の原因になることがわかっています。また、うつ症状の悪化など精神疾患のリスクも高まるのではないかと考えられます。以前は少量の飲酒なら問題ないと考えられていた時代もありましたが、母子の健康と安全を第一に2017年にガイドラインが改められて、妊娠中は禁酒が推奨されることになりました。妊娠中、さらには、授乳中も、飲酒は胎児や赤ちゃんに影響を与えることが多いので、禁酒を徹底するようにしましょう。
編集部
妊活を始めたらお酒をやめるのがベスト。遅くとも、妊娠に気づいたら、禁酒するということですね?
横川先生
一般に、妊娠に気づくのは2カ月目ごろです。初めはあまり症状が現れないので、妊娠に気づかず、お酒を飲んでしまう人もいるでしょう。お酒が好きな人の場合、お酒をやめることがストレスになることもありますし、医師によっては「禁酒することがストレスになるなら、ビール1杯くらいであれば、飲んでもいいでしょう」と言う人もいます。個人によってアルコールの耐性が異なるので一概には言えませんが、妊婦と胎児の安全を考え、妊活を始めたら禁酒をする方が望ましいですね。
タバコが胎児と妊婦に与える影響
編集部
一方、タバコは胎児と妊婦さんにどのような影響を与えるのでしょうか?
横川先生
まず胎児に対しては、ニコチンの作用で臍帯(さいたい)や胎児の血管が収縮して血流量が減少し、胎児への酸素や栄養の供給が低下します。さらにタバコの煙に含まれる一酸化炭素が胎児の血中に移行して、胎児を酸欠状態にしてしまいます。実際、妊婦が喫煙すると同時に胎児の心拍数が低下することが確認されています。その結果、身長の伸びが悪く、知能指数が低くなる可能性もあります。
編集部
ほかにはどのような影響が考えられますか?
横川先生
喫煙している妊婦から生まれた赤ちゃんには先天奇形の出現率が高く、無事に産まれても乳幼児突然死症候群による死亡率が高くなることが明らかになっています。さらに、妊婦さんの喫煙は子宮筋収縮を誘発するため、自然流産や早産、死産の危険性が高くなることが知られています。このように、妊娠中の喫煙は胎児にとって命のリスクになりえるのです。
編集部
授乳中の喫煙も、赤ちゃんに影響を与えるのですか?
横川先生
そもそも、母乳はお母さんの血液から作られます。お母さんがタバコを吸うことにより、ニコチンが母乳に移行し、赤ちゃんに不眠、嘔吐、下痢などのニコチン中毒の症状を起こします。妊娠中に禁煙できても、慣れない育児でイライラすると、喫煙の習慣が復活してしまうこともあるかもしれませんが、赤ちゃんの健康のためにも頑張って禁煙を続けましょう。
編集部
ほかに、妊娠中や授乳中のタバコについて、気をつけることはありますか?
横川先生
気をつけたいのは、お母さんが直接タバコを吸うだけでなく、周囲に喫煙者がいる場合も同様だということです。副流煙の影響で、同じようなことが起きてしまうのです。妊娠中また授乳中は、家族など、身近な人も禁煙に協力しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
横川先生
妊娠初期につわりのような症状が出てくると思いますが、その気持ち悪さを利用して、お酒やタバコを一切やめることをお勧めします。特に、タバコは絶対にやめたほうが良いでしょう。ご主人や家族など、周囲の人が喫煙者である場合、自分もつい、吸いたくなってしまうかもしれません。しかし、視野から離れたところで喫煙してもらう、あるいは、妊娠中は禁煙してもらうなど、協力をお願いしましょう。
編集部まとめ
妊娠に気づいたらお酒やタバコをやめるのはもちろんのこと、妊活を始めたらすぐに禁酒禁煙をはじめるのがベスト。妊娠は、赤ちゃんの長い人生の第一歩である、という自覚を持って、禁酒喫煙をがんばりましょう。
医院情報
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