予防は自己投資。定期的に歯科に通うことで口腔健康を保ち、健康寿命の延伸に繋げる【香川県綾歌郡宇多津町 竹内歯科医院】


「定期的に歯医者さんで診てもらわなければ」と思いつつも、痛みがひどくなってから歯科医院に駆け込むことを繰り返している人は多いのではないだろうか。治療で削った歯は、寿命が短くなるという。人生の晩秋を迎えたときにどれだけの歯を残せるか不安を抱える一方で、歯科医療にはどう付き合っていくのが正しいのか、多くの人がよくわかっていないのも現実。香川県綾歌郡の「竹内歯科医院」は、「歯の切削、歯髄の除去は最小限に」を謳っている。低侵襲治療を実践する同院の竹内一貴院長に、治療と予防について話を伺った。
竹内 一貴(たけうち かずたか)
竹内歯科医院 院長
2010年北海道大学歯学部卒業。日本歯科大学新潟病院・総合診療科や口腔外科で研修した後、高松市内の歯科医院勤務を経て、14年に竹内歯科医院勤務。19年から継承。歯科材料に関する開発に携わるほか、学会や歯科医師会での講演や商業誌での執筆にも積極的に取り組んでいる。日本顎咬合学会認定医。日本顕微鏡歯科学会、日本歯内療法学会、日本歯科審美学会、日本臨床歯周病学会などに所属。歯科医師向けの勉強会の主宰をはじめ、四国医療専門学校看護科やヤマキン歯科技工士養成所の非常勤講師も務める。
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痛みが出るということは、すでにかなり悪化している状況

「歯がひどく痛い」「グラグラする」といった状態になってからの治療では遅いですか?
強い痛みや腫れを感じてから来院された場合、すでにむし歯が神経まで達し、歯の根突部が膿んで炎症を起こしている状況です。患者さんの想像を超えて歯を残せるかどうか、という状態にまで悪化していることも少なくありません。
さらに、いったん治療を終えてもむし歯が再発し、何度も治療を繰り返して歯が小さくなり、いずれ失っていくという悪循環に陥りがちです。ですから、患者さんには「むし歯は知識で治療する」と伝えています。「痛くならないと歯科医院に行かない」「治療が一段落すれば足が遠のく」というのも、むし歯や歯周病がもたらすリスクを深く知らないからだと思います。
当院では全体治療や継続的なメンテナンスを行う場合は、精密な検査を実施しております。まずは口の中の状況や症状が生じた理由をしっかり理解してもらうようにしています。それとともに、「5年後、10年後にどうなっていたいか」「これまでどんなことに気をつけていたか」などもヒアリングしてコミュニケーションを取り、将来起こりうる問題を見据えた治療を提案し、利点と欠点も丁寧に説明しています。
生涯を見据え、できるだけ健康な歯を残す治療を

貴院で実践している最小限しか削らない治療とはどのようなことですか?
むし歯に冒された部分のみを狙って削り、健康な部分はできるだけ残す治療法です。かつてのむし歯治療は、被せ物が外れないようにするため、むし歯ではない健康な部分まで含めて歯を広め深めに削っていましたが、近年はマイクロスコープの普及による拡大視野での精密な診療や、歯科用の接着技術の向上、詰め物の強度や素材の進化など、歯科技術の進歩により、削るのはむし歯の部分の必要最小限になってきました。歯は削るほど将来的に割れやすくなるため、できるだけ健康な歯を残す治療にシフトしています。
10年、20年先を見据え、たとえ手間はかかっても健康な歯や歯髄をなるべく残して歯の寿命を延ばし、高齢になってもしっかりと噛むことできる状態にするための治療です。
まったく歯を削らずに済むケースもあるのですか?
むし歯予防は、将来的に歯を削ることになってしまってもいかに進行を遅らせるかが大切です。歯の表層のエナメル質に留まっている初期のむし歯は削らずにフッ化物を活用してむし歯が進みにくい環境をつくって、削る時期をなるべく遅らせることが重要です。エナメル質は非常に硬く鎧のように保護をする組織であり、安易に削ってしまうことにより逆にむし歯が進みやすくなります。
初期のむし歯はごく小さいために、削るのも詰めるのも難易度が高くなります。きれいに詰め物をしても、段差になって汚れが溜まって逆にむし歯が進んでしまう可能性もあるので、早すぎる治療はかえってデメリットがあります。そのため当院では、長期的な目線で本当に削るべきかどうかを判断するようにしています。
むし歯治療で「神経に達していたから取りました」と言われた人も多いと思います
10年後も自分の歯で噛むために、今できる最善の予防を教えてください
一度削った歯は元に戻ることはありません。できるだけ歯を削らなくて済むよう、歯ブラシだけでなく、フロスや歯間ブラシなどに加えてフッ化物を適切に活用して、丁寧にセルフケアすることが重要です。そのため、当院では歯科衛生士を正副の担当制にして、長く患者さんに関わることで、歯周病も含めた口腔内の状態の把握はもとより、セルフケアへのモチベーションの維持や生活環境の変化などもいち早く察知できるよう対応しています。
最小限の治療を可能にしている精密な歯科技術について教えてください
近年では、肉眼では見えない小さな病変を鮮明に観察して診断・処置できるマイクロスコープを用いた治療の一般化により、治療の精度が向上しています。歯肉の中の歯石や歯のひび、むし歯の境目を20倍強の倍率で拡大して観察でき、歯を傷つけないように歯石を除去できる他、歯を削ったり歯髄を除去したりする処置を最小限に抑えることができます。
当院では、むし歯や歯周病をはじめ、被せ物や外科処置など、ほぼすべての治療でマイクロスコープを活用しています。さらに、拡大した画像や動画などを活用して、患者さんにわかりやすく説明することにも役立てています。
歯のひびや歯根の分岐部など歯を悪くするであろうリスク部位を鏡ではなく画面で見た方が理解しやすく、患者さんとリスクを共有できることで適切な対応を取りやすくなります。
再発を防ぎ、削る量を抑えるための詰め物や接着技術について教えてください
詰め物や接着技術も進化しています。むし歯を削った部分に直接接着させて固めるコンポジットレジンを使うことでむし歯を削る量は最小限に抑えて、美しく修復することができます。
私自身ある国内メーカーの開発に携わらせてもらっていますが、国内メーカーの歯科材料は、総じて質の高さから国内外で広く活用されています。海外と比べて日本国内での症例数が多いため、常に進化していて品質が向上しており、硬さや耐久性も十分で、1、2本の歯ならば1日で治療が終わるメリットもあります。
レジンは光を当てて硬化させる際に収縮するため、マイクロスコープで確認しながら薄く一層ずつLED光を当てて硬化させて積み重ねることで収縮量を少なくしていきます。このようなひと手間により時間が経っても割れにくく、着色しにくくして再治療を減らし、歯を残すよう力を尽くしています。
治療後の「長持ち」を左右するのは何でしょうか?
コンポジットレジンは通常5~10年の生存率を示す疫学的なデータが多いですが、適切にケアすればさらに長く使うことができます。香川に帰ってきて、多くの患者さんを拝見する中で、過去に多くのむし歯をつくっていても、治療を丁寧に行い、適切なケアを行うことで再発を防ぐことができると実感しています。一方で、定期的な受診が途切れがちでフッ化物の濃度やうがいの方法など配慮が少ない方は、数年でむし歯を再度作ってしまう方もいます。
歯周病が進行した場合、歯は抜かなければならないのでしょうか?
歯周病が進行して歯肉や歯槽骨、歯根膜といった歯の周囲の組織を失っているケースでは、特殊な薬剤や処置により再生させる歯周組織再生療法を積極的に取り入れています。なるべく骨が残っているほうが、周囲の歯の保存にとって有利です。
マイクロスコープを使うことで、小さな傷口で痛みも少なく、残存する歯石などを取り残すことも減り、再生を促す薬剤も漏れにくいなど治療の精度が向上します。
痛みなどの症状がなくても、歯周ポケットが深ければ歯の寿命は大幅に短くなります。歯がグラつく前に治療して歯を失うリスクの軽減とともに、歯槽骨を再生して歯の寿命を延ばすようにしています。ただし、大前提として日頃の丁寧な歯磨きは必須です。磨き残しが多く歯肉が腫れた状態では、せっかくの再生療法の成功率も落ちてしまいます。そもそも、歯磨きが不十分だったために歯周病が進行してしまったという事実を忘れてはいけないのです。精密な治療を成功させ、歯を守り続けるためには、患者さんご自身の努力が欠かせません。

歯の移植やインプラントなど、それぞれの状態に適切な治療を提供

もし不幸にも抜歯となった場合、どのような治療を提案されていますか?
40歳までの壮年期の患者さんは、ご自身の親知らずなどの不要な歯の移植をまず検討します。難しければインプラントを提案します。インプラントの10年平均残存率は下顎が95%程度、上顎は90%程度という高い数値データがあります。
ただ、数十年先を見据えると、若い方では将来的に入れ替える必要が出る可能性もあるため、まずはご自身の歯を移植して対応し、インプラント治療を先に延ばすという選択肢を検討するようにしています。
その上で、失った歯に隣接する健康な歯を削ってブリッジと呼ばれるような被せ物の処置は避けるようにしています。健康な歯を削る、むし歯の予防に重要なエナメル質を失うことで次のむし歯の負のサイクルが生じると考えています。
健康な歯を削る前にインプラント治療を積極的に勧めるようにしています。
親知らずの扱いについては?
親知らずについては、悪くなるまで放置しておくという考えの歯科医もいますが、当院では早めに抜歯することをおすすめしています。若いときのほうが組織の回復力が高く、傷の治癒が早いからです。
親知らずは、手前の歯のむし歯や歯周病の温床になりやすいだけでなく、50代以上になると、骨が硬くなって抜歯に長時間かかるなど患者さんの身体的な負担が大きくなる傾向があります。将来的なリスクや処置のしやすさなども考慮して臨床的な判断を行っていますが、特に妊娠中の女性で、親知らずが腫れてしまうと胎児への影響の可能性があることも考慮すると早めに抜歯をしておいた方が良いと思います。歯根が大きな神経に接していたり顎骨の癒着が想定されたりするような難しい抜歯になると、高次医療機関への紹介となり生活への影響がより大きくなりますので、歯根が長くなる前の10代後半から20代前半に抜歯を行うようにしています。
多くの歯を失っている場合はどのような治療を行うのですか?
失った歯をそのままにしていると、どのようなリスクがありますか?
8020運動に象徴されるように自分の歯でしっかり噛めることで、医療費が安くなる認知症を発症する可能性が低くなるなどの疫学的なデータがあり、私自身も歯科医師会でデータを集めて分析を行う部会に所属をして会務にあたっています。面倒や抜きたくないと治療を先延ばしにしてむし歯で根っこだけ、ぐらぐらで噛むことのできない状態の歯を残すと、そこに雑菌がつきやすく、肺炎を起こしやすいというデータもあります。私は口腔外科での研修時代に口腔がんの患者さんを診させていただいた経験から「どういう歯の状態を維持して最期を看とるか」という観点も念頭に置いて治療に当たっています。
定期的なメンテナンスと「かかりつけ医」の重要性

痛みがなくても定期的に検査を受けることが大切なのですね
そうですね。もし、むし歯が大きくて神経にまで達するような状況だったとしても、早めに発見すれば歯髄(神経)を残すことができる可能性が高まります。歯髄の有無により、長期的な歯の生存率に大きな差が出るというデータもあり、非常に重要です。
また歯周病においても同様に歯肉が大きく腫れたとしても早めに気づくことができれば、歯周組織再生療法などによって歯周ポケットの改善をはかれ、歯の寿命を伸ばすことができます。
高齢になってもよく噛んで食事を楽しみ、たくさん会話することは、人生を豊かにしてくれます。当院では、患者さんの年齢をはじめ、生活環境や価値観も考慮して生涯を見据えた診療を提供しています。
歯を失わないためにはどうすればよいのでしょうか?
悪くならないように予防に加えて、いざ何かあった時の治療の質も大切です。むし歯や歯周病などの個々における現状のリスクを理解して、しっかりとしたホームケアを行うとともに、歯科医院で定期的なメンテナンスを受けることで重症化を避ける習慣を身につけてください。また、歯髄保存療法や歯周組織再生療法などのスキルの有無で積極的に介入する時期や侵襲度が変わってきます。悪くなってから慌てて歯科医院を見つけ始めても自分に合った医院を見つけることが難しくなります。そのため、継続的に通いやすくご自身の治療に対する考え方と治療方針が合っている歯科医院をかかりつけにするとよいでしょう。
ホワイトニングはむし歯の予防になりますか?
ホワイトニング自体がむし歯予防になることはありませんが、白い歯を維持するための取り組み、たとえば禁煙や、着色しないよう磨き残しのない歯みがきを徹底することなどがむし歯、歯周病の予防につながる面があります。
医療用のホワイトニングは、過酸化水素や過酸化尿素を使って歯の表層であるエナメル質に付いた色素を分解します。色素が分解されたエナメル質の部分は、むし歯の予防効果があるフッ化物が浸透しやすいため、ホワイトニング後のフッ化物ケアは有効といえます。また、ホワイトニングが「歯を溶かすのでは」と心配される方もおられますが、医療機関で行う薬事認証のある薬剤を用いる、ホワイトニングは歯にダメージを与えることはありませんのでご安心ください。

編集部まとめ
歯が痛む度に歯科医院に駆け込むことは、貴重な天然歯はもとより、時間とお金も犠牲にしてしまうことになります。数カ月に一度の通院に要する時間とコストは、ある意味予防に対するサブスクのようなもの。それが健康寿命を延ばすだけでなく、トータルコストも得になることを今回の取材を通じて痛感しました。特に中高年は、価値観の合う“かかりつけ歯科医”に定期的に通うことが、安心して老後を迎えるための必須条件といえるのではないでしょうか。




