

監修医師:
山田 克彦(佐世保中央病院)
目次 -INDEX-
急性声門下喉頭炎の概要
急性声門下喉頭炎(クループ症候群)は、主に生後6ヶ月から3歳程度の子どもに多く見られる緊急性の高い呼吸器の病気です。
しばしば犬やオットセイの鳴き声に例えられる「ケンケン」という咳(犬吠様咳嗽)が特徴です。のどの奥にある声帯のすぐ下の部分(声門下部)が腫れて狭くなることで、呼吸が苦しくなります。
急性声門下喉頭炎は早期に適切な治療を行えば命に関わるものではありません。夜間に症状が悪化しやすいことが特徴ですが、通常数日程度で回復します。
ただし、似た症状を示す別の疾患(急性喉頭蓋炎など)との鑑別は非常に重要です。急性喉頭蓋炎は主にインフルエンザ菌(Hib)が原因となる細菌感染症であり、重症例では急速に呼吸困難などが生じて、生命の危険にさらされます。
急性喉頭蓋炎の多くは生後2か月から開始される「Hibワクチン」の投与で予防できるため、忘れずに定期接種を行うようにしましょう。
急性声門下喉頭炎の原因
急性声門下喉頭炎の発症には、ウイルス感染という直接的な原因に加え、子どもの特徴的な体の構造や環境要因が関係しています。
ウイルス感染
パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルスなどの感染が主な原因です。ウイルスが気道に感染すると、声門下部の粘膜に炎症が起こり、その部分が腫れて気道が狭くなります。特に秋から冬にかけて感染リスクが高まります。
解剖学的特徴
乳児や幼児の声門下腔は、直径が小さいです。さらに、この部分は血管やリンパ管が豊富で、炎症が起こると腫れやすい構造をしています。そのため、感染により炎症が起きると大きく腫れ、気道が狭くなりやすい特徴があります。
環境因子
寒冷な空気や乾燥した環境は症状を悪化させる要因となります。特に夜間は気温が下がるうえ、横になることで粘膜の浮腫が悪化しやすくなります。
急性声門下喉頭炎の前兆や初期症状について
急性声門下喉頭炎は徐々に症状が進行していくのが特徴です。最初は一般的な風邪のような症状から始まり、次第に特徴的な症状があらわれ、特に夜間に悪化する傾向があります。
風邪のような症状
最初は発熱、鼻水、のどの痛みなど、一般的な風邪と同じような症状が生じます。他の症状がなく、風邪のような症状だけであれば通常の上気道炎との鑑別が難しく、様子を見ることが多いです。
犬吠様咳嗽
症状が進行すると、犬が吠えるような、あるいはオットセイが泣くような特徴的な硬質な音の咳(犬吠様咳嗽)が出現します。この特徴的な咳は、腫れて狭くなった声門下部を空気が激しく呼出する際に発生する音です。
喘鳴と嗄声
息を吸う際に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という笛のような音(喘鳴)が聞こえるようになります。狭くなった気道を空気が通るために起こります。また、声が低くなり、かすれる症状(嗄声)もあらわれます。症状が進行すると、呼吸が苦しそうに見え、息を吸う時にのどの下がくぼむような様子が見られることもあります。
夜間の急激な悪化
多くの場合、夜間に症状が急激に悪化します。夕方まで元気に過ごしていても、夜中に突然呼吸困難が生じることがあります。
急性声門下喉頭炎の検査・診断
子どもをあまり泣かせると呼吸の苦しさが増すことが多いので、検査よりも、それまでの経過や診察で診断されることが多いです。
ただし、他の似た症状を示す病気を鑑別するためにレントゲンなどが検査されることがあります。
バイタルサインのチェック
重症度を判断するため、バイタルサインを確認します。呼吸数、脈拍、体温の測定に加え、パルスオキシメーターを使って血液中の酸素飽和度を測定します。
酸素飽和度が低下している場合は重症のサインとなります。また、呼吸の様子も観察し、急性声門下喉頭炎に特徴的な陥没呼吸や呼吸困難の程度を確認します。
胸部X線検査
画像検査が行われる場合は、喉頭のX線検査を正面と横から撮影し、声門下部の狭窄の程度を確認します。特徴的な所見として「steeple sign(声門下の狭窄)」が見られ、声門下部が腫れて狭くなっている状態を示しています。
他疾患との鑑別
急性喉頭蓋炎、気道異物、細菌性(気管炎)など、似たような症状を示す病気との鑑別を慎重に行います。なかでも、急性喉頭蓋炎や気道異物は生命に関わる緊急性の高い病気のため、確実な鑑別が重要です。
急性声門下喉頭炎の治療
急性声門下喉頭炎の治療の中心となるのは、炎症を抑えるステロイド薬の投与と、アドレナリン吸入です。適切な治療で多くの場合、数日程度で症状は改善していきます。
ステロイド治療
主な治療は、炎症を抑えるステロイド薬(デキサメタゾンなど)を内服または注射や点滴で投与します。また医療機関によっては吸入ステロイドが用いられることもあります。
アドレナリン吸入
アドレナリンの吸入治療は、軽症から中等症の患者に用いられ、気道の腫れを急速に改善する即効性の高い治療法です。喉の腫れを短時間で軽減し、呼吸を楽にする効果が期待できます。効果は一時的なため、アドレナリンの効果が切れる帰宅後の経過には注意が必要です。
急性声門下喉頭炎になりやすい人・予防の方法
急性声門下喉頭炎は、生後6ヶ月から3歳までの乳幼児に多く発症します。性別にかかわらず発症しますが、男児にやや多く見られるのが特徴です。また、秋から冬にかけては、ウイルスへの感染が増えるため、急性声門下喉頭炎を発症しやすくなります。
予防には、基本的な感染対策が重要です。子どもに手洗いやうがいを習慣化してもらい、十分な睡眠、バランスの良い食事を取らせることで、免疫力を維持します。また、室内環境の整備も大切です。適度な温度と湿度を保つようにしましょう。
参考文献