

監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
目次 -INDEX-
再発性多発軟骨炎の概要
再発性多発軟骨炎は、全身の軟骨組織に炎症が起こる、稀な炎症性疾患です。
耳、鼻、気道、胸郭、関節などの軟骨に炎症が起こりやすく、進行すると軟骨が破壊され、変形が残ることがあります。
また、目、内耳、心臓、血管、腎臓など、プロテオグリカンが豊富な非軟骨組織も炎症を起こすことがあります。
血管炎や骨髄異形成症候群などの疾患を合併することもあります。
特徴的な症状として、「カリフラワー耳」や「鞍鼻」変形などが挙げられます。
再発性多発軟骨炎は上気道、目、内耳、腎臓、血管に重大な病変を引き起こし、生命を脅かす可能性があります。
再発性多発軟骨炎は、再発を繰り返しながら進行する疾患です。軽症で経過する人もいれば、生命を脅かす合併症を発症する人もいます。最も多い死亡原因は、再発性多発軟骨炎自体または免疫抑制療法による肺感染症です。若年者では、初診時の貧血、血尿、上気道疾患、関節炎、鞍鼻変形が予後不良因子となります。高齢者(51歳以上)では、初診時の貧血および/または骨髄異形成症候群のみが死亡率上昇の予測因子となります。
血管炎を合併すると予後が悪化し、5年生存率は45%となります。
以前から再発性多発性軟骨炎に血管炎や骨髄異形成症候群を合併し、種々の臓器障害を起こす症例があることは知られていましたが、2020年にこのような病態を起こす疾患として、「VEXAS症候群」という疾患概念が提唱されました。
“VEXAS” は”vacuoles”(空砲), “E1 enzyme”(E1酵素), “X-linked”(X連鎖性),“autoinflammatory”(自己炎症性), “somatic”(体細胞)の略です。
成人男性(平均年齢64歳)で、蛋白のユビキチン化に関わるE1酵素をコードするUBA1遺伝子(X染色体上に存在する)の体細胞変異により、UBA1の機能低下が起こって発症すると考えられています。
再発性多発軟骨炎の原因
再発性多発軟骨炎の正確な原因は解明されていませんが、以下のような理由から免疫が関連した病気であると考えられています。
- 炎症を起こした軟骨に炎症細胞や免疫複合体が存在すること
- 軟骨成分に対する自己抗体が検出されること
- ヒト白血球抗原(HLA)-DRとの関連性
- ほかの自己免疫/炎症疾患を合併することが多いこと
- 免疫抑制療法に反応すること
再発性多発軟骨炎の前兆や初期症状について
再発性多発軟骨炎は全身のさまざまな臓器に影響を与えるため、初期症状だけでは特定の診療科を絞り込むのが難しい場合があります。
以下のような症状が現れた場合は、早めに医療機関を受診してください。
- 耳の痛み、赤み、腫れ
- 鼻の痛み、赤み、腫れ
- 喉の痛み、嗄声、息苦しさ
- 関節の痛み、腫れ
- 目の痛み、赤み、視力低下
リウマチ膠原病内科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科などが再発性多発軟骨炎の診断と治療に関わってくることが多いです。
再発性多発軟骨炎の検査・診断
再発性多発軟骨炎の診断には、特徴的な臨床症状の観察に加え、さまざまな検査を行います。
血液検査
貧血や血小板増多などの非特異的な所見がみられることがあります。炎症期にはCRPなどの急性期反応蛋白が上昇します。
尿検査
潜伏性の腎疾患や感染症の有無を調べます。
組織生検
典型的な再発性多発軟骨炎では診断のために生検は必要ありません。しかし、診断が不明瞭な場合は、炎症を起こした軟骨の生検を行い、軟骨周囲炎の有無を調べます。
胸部CT
気管や気管支の狭窄や動的な気道虚脱の有無を検出するために推奨されます。
関節X線撮影
関節裂隙の狭小化や関節周囲の骨粗鬆症がみられることがあります。
肺機能検査
症状のない患者さんでも、再発性多発軟骨炎が疑われる場合は必ず実施します。
気管支鏡検査
気管支鏡検査は、気道に損傷を与える可能性があり、呼吸不全を誘発するリスクがあるため、特に必要性がある場合にのみ実施されます。
心臓超音波検査
大動脈基部と心臓弁膜を評価するために、初診時だけでなく、診断後数年ごとに必要となります。
眼科検査
診断時にルーチンの眼底検査を実施します。異常が検出された場合や症状が現れた場合は、専門機関への紹介が推奨されます。
遺伝子検査
現在のところ、遺伝子検査はあまり有益ではありません。
軟骨バイオマーカーの血清レベル
COMPなどの軟骨バイオマーカーの血清レベルや、軟骨に対する免疫反応の指標(II/IX/XI型コラーゲンやマトリリン-1に対する抗体など)は、日常的に測定されておらず、疾患活動性モニタリングにおける役割は不明です。
再発性多発軟骨炎の治療
薬物療法
非ステロイド性抗炎症薬
鼻、耳、胸壁の軽度の炎症を抑えるために使用されます。
コルチコステロイド
NSAIDsで効果がない場合や、中等度の炎症を抑えるためには低用量で使用します。生命を脅かす疾患や重度の軟骨炎がある場合は、通常高用量(1 mg/kg)の用量で投与し、炎症が改善するにつれて徐々に減量していきます。
ダプソン
重篤でない軟骨の炎症に使用することができます。
コルヒチン
耳介軟骨炎に効果があると報告されています。
免疫抑制薬・生物学的製剤・低分子化合物阻害薬
コルチコステロイドで効果がない場合や、副作用が強い場合、生命を脅かす症状がある場合に使用されます。
- メトトレキサート
- シクロホスファミド
- ミコフェノール酸モフェチル
- アザチオプリン
- シクロスポリン
- レフルノミド
- TNF阻害薬
- 抗B細胞療法(リツキシマブ)
- 抗IL-6療法(トシリズマブ)
- 抗IL-1療法(アナキンラ)
- 抗T細胞療法(アバタセプト)
- ヤヌスキナーゼ阻害薬(トファシチニブ)
免疫グロブリン大量静注療法
難治性の再発性多発軟骨炎に有効であるとされています。
その他の治療
血漿交換療法
難治性の場合に使用されます。
造血幹細胞移植
治療抵抗性の再発性多発軟骨炎に有効であったとの報告があります。
対症療法(起きている症状に対する治療)
気道閉塞
気管切開、気管ステント留置、夜間陽圧換気など
心臓手術(大動脈基部拡張、動脈瘤形成、弁膜症などに対して)
感音難聴
人工内耳
鞍鼻変形
骨移植
再発性多発軟骨炎になりやすい人・予防の方法
再発性多発軟骨炎は誰にでも発症する可能性がありますが、明確な予防法は確立されていません。発症年齢は40~50歳がピークですが、小児や80歳以上で発症することもあります。男女差や人種による差はありません。家族性発症の報告はありません。
参考文献
- Mertz P, Costedoat-Chalumeau N, Ferrada MA, et al. Relapsing polychondritis: clinical updates and new differential diagnoses. Nat Rev Rheumatol. 2024;20(6):347-360.
Beck DB, Ferrada MA, Sikora KA, et al. Somatic Mutations in UBA1 and Severe Adult-Onset Autoinflammatory Disease. N Engl J Med. 2020;383(27):2628-2638.




