監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
器質性精神障害の概要
器質性精神障害とは「脳そのものの物理的な損傷や疾患により、または脳以外の身体的な疾患の影響で脳機能が障害を受けたことにより、何らかの精神症状を認める状態」のことです。
精神障害の分類は歴史的に見ても繊細で複雑なものです。過度のストレスで発症するうつなどに代表される「心因性精神障害」、原因を特定しづらい統合失調症などに代表される「内因性精神障害」と区別するためにこの「器質性精神障害」という名称を用いることがあります。
なお、頭部の外傷、あるいは脳疾患などの後遺症として、行政などでもしばしば使われる「高次脳機能障害」も、本項の器質性精神障害に含まれるケースが大半です。
器質性精神障害の治療方針は、その原因が急性のものであるか、慢性のものであるかによって異なりますが、いずれにせよ原因となる疾患の治療を優先することが求められます。さらに、症状を緩和するための薬物療法や、認知機能を回復・維持するためのリハビリテーションなども含まれます。
器質性精神障害の原因
器質性精神障害の主な原因は、脳の器質的な異常や損傷であり、次のようなものがあります。
分類 | 原因の具体例 |
---|---|
頭部外傷 | 脳震盪・脳挫傷・外傷性脳内血腫、外傷性くも膜下出血など |
中枢神経疾患 | 脳腫瘍・脳血管障害(脳出血・脳梗塞)・頭部外傷・認知症(アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症)・パーキンソン病・ハンチントン病・クロイツフェルト・ヤコブ病・てんかんなど |
代謝性疾患 | 甲状腺機能亢進症または低下症・副甲状腺機能亢進症または低下症、クッシング症候群、ビタミンBl2欠乏症、電解質異常など |
急性感染症 | 日本脳炎、ヘルペス脳炎など |
その他の全身疾患 | 全身性エリテマトーデス・多発性硬化症・エイズ・肝不全・腎不全・悪性新生物など |
薬剤 | インターフェロン・抗精神病薬・抗生物質など |
器質性精神障害の前兆や初期症状について
器質性精神障害はその性質上、前兆や初期症状を定義するのは難しいと言えるでしょう。また、他の精神障害と症状だけで区別することも難しく、器質性精神障害に特有の症状というものは存在しません。
器質性精神障害の症状は、認知機能の低下、意識障害、幻覚、妄想、記憶障害、感情の不安定など、他の精神障害と同様に多岐に及びます。
代表的な症状としては、物忘れや集中力の低下といった認知機能の変化が挙げられます。これにより、日常生活の些細なことを忘れやすくなったり、仕事や会話で注意を持続するのが難しくなったりします。
意識障害のレベルはさまざまで、強い刺激を加えても目を覚まさない、いわゆる昏睡(こんすい)と呼ばれる重度のものから、思考がぼんやりしていたりする軽度のものまで含まれます。
器質性精神障害の検査・診断
器質性精神障害の検査・診断は、主に脳の異常を確認するために行われます。
問診と認知機能評価(長谷川式簡易知能評価スケールやMMSEなど)を通じて、患者さんの症状や背景を確認した上で、脳の画像検査を行います。代表的な検査方法としてMRIやCTなどがあります。
これにより、脳の萎縮や損傷、腫瘍などの異常がないかを確認します。ほかにも、脳波検査や血液検査、神経学的なテストを行い、器質性精神障害を診断します。
また、抗精神病薬や抗生物質などの薬剤によって器質性精神障害をきたす可能性があるため、服薬状況の確認も必要となります。
器質性精神障害の治療
器質性精神障害の治療の基本は、原因である脳の障害や疾患、身体的な疾患を優先して治療することです。原因疾患によってあるいは急性の原因であるか慢性の原因であるかなどにもよって、治療の方針や具体的な治療手段は大きく異なります。
例えば、脳血管障害や脳腫瘍、頭部外傷が原因の場合は、外科的手術や処置が必要です。また、日本脳炎や甲状腺機能亢進が原因であれば薬物療法を行うこともあります。器質性精神障害の原因が認知症であるケースでは、薬を使いながら生活環境を整えたり、リハビリテーションをしたりするなどの治療がおこなわれます。
治療においては家族や介護者のサポートも重要な役割を果たします。患者さんの生活環境を整え、適切なケアを提供することで、症状の進行を遅らせたり、生活の質を向上させたりすることが期待されます。また、定期的な経過観察と専門医によるフォローアップが必要です。
器質性精神障害になりやすい人・予防の方法
脳に影響を与える病気や外的要因にさらされるリスクが高い人は、器質性精神障害を発症するリスクが他の人よりも高いといえるでしょう。
例えば、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を抱えている人は、脳血管障害を発症するリスクが高く、それが原因で器質性精神障害を発症する可能性があります。
また、アルツハイマー病やパーキンソン病などの疾患を持つ人も発症リスクが高いです。
器質性精神障害の原因となりうる疾患を罹患している人は、定期的に脳機能の検査を受けることが予防につながる可能性があります。
頭部外傷を防ぐために、交通安全、業務上の安全に注意し、必要に応じてヘルメットの着用義務を守ることなどは、予防方法の1つと言えます。
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