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「ヘルペス脳炎」の症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

公開日:2022/09/03  更新日:2022/09/02
「ヘルペス脳炎」の症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

ヘルペス脳炎は一般的には単純ヘルペス脳炎と呼ばれます。単純ヘルペスウイルスに初めて感染した場合や、以前に感染して体内に潜んでいたウイルスが再び活性化した場合に発症します。未治療や治療開始が遅れると、重篤な経過をたどって死亡することも多い病気です。
今回はヘルペス脳炎の症状や原因、検査、治療法などをわかりやすく説明します。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(国家公務員共済組合連合会大手前病院)

プロフィールをもっと見る
2007年大阪市立大学医学部医学科卒業、2009年大阪急性期総合医療センター外科後期臨床研修医、2010年大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、2012年国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、2013年大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、2014年国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医員、2021年国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長。 著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など多数。 日本外科学会専門医 日本病院総合診療医学会認定医など。

ヘルペス脳炎とは

ヘルペス脳炎とはどのような病気ですか?

一般的にヘルペス脳炎というと、単純ヘルペス脳炎を指します。ほとんどが単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)による脳炎です。

ウイルス脳炎の中では発症頻度が高く、重篤な経過をたどるケースも多い脳炎です。死亡率は10~15%、寝たきりや重度の後遺症が残る確率は約25%と報告されています。

完全に回復する、もしくは社会復帰できるケースは患者の約50%と推定されています。

ヘルペス脳炎の症状

ヘルペス脳炎ではどのような症状がみられますか?

ヘルペス脳炎は多彩な症状が認められますが、よくみられる症状として意識障害と髄膜刺激徴候があります。

意識障害は、覚醒度が低下する程度から、幻覚や妄想、錯乱などをきたす高度意識障害まで程度はさまざまですが、患者の7~10割に高頻度でみられる症状です。

患者の頭と首を他動的に前に傾けると、首の後ろの筋肉が緊張して抵抗感を生じる項部硬直や、患者の股関節を曲げると強い膝の屈曲が起こるケルニッヒ徴候などの髄膜が刺激されて起こる髄膜刺激徴候は約8割の患者にみられます。

潜伏期は2~12日(平均6日)で、発症年齢(新生児、小児、成人)によって症状の出方に違いがあります。

新生児の症状

生児の症状

新生児ではどのような症状がみられますか?

出生後3週間以内に発症することが多く、発熱、母乳やミルクの飲みが悪い、活気がないなどの症状から始まります。続いて、けいれん、肝機能異常、出血しやすい、呼吸障害、発疹、チアノーゼ、ショックなどがみられることもあります。

新生児は高確率で麻痺や言語障害、認知障害、注意障害などの後遺症をきたします。予後は不良で新生児でヘルペス脳炎になった6%は死亡し、生存した新生児のうち 70%は中等度以上の重症な後遺症を伴います。

小児の症状

小児の症状

小児ではどのような症状がみられますか?

発熱、けいれんが高頻度でみられ、嘔吐頭痛の症状も出ます。加えて、意識障害や構音障害、性格変化がみられる場合もあります。

小児の発症では、成人に比べて急速に進行し、重篤な意識障害に至るケースが多いのが特徴です。

神経症状がみられると、約 2/3 にはてんかん、麻痺、発達障害、認知障害などの後遺症が残ると考えられています。

成人の症状

成人の症状

成人ではどのような症状がみられますか?

発熱、頭痛、倦怠感、 嘔吐、咳や鼻水などが急性期症状としてみられ、数日経ってから意識障害、けいれん、記憶障害、異常行動、言語障害、性格変化などを示すのが一般的です。

不随意運動や片麻痺、同名半盲、失調などや、嗅覚障害、味覚障害がみられる場合もあります。

すべての症状が必ず現れるわけではありません。はじめに発熱や頭痛の症状が認められないケースもあります。

約25%は寝たきり、もしくは後遺症が残り、とくに記憶障害や性格障害が生じるケースがよくみられます。てんかんや見当識障害、運動障害が残るケースもあります。

ヘルペス脳炎の原因

ヘルペス脳炎の原因について教えてください。

単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)に、初めて感染したとき、もしくは潜んでいたウイルスが再び活動し始めたときに発症します。

新生児~小児、年長児以上~成人で、原因にはそれぞれ特徴がみられます。

年長児以上~成人

年長児以上~成人の場合の原因について教えてください。

年長児以上の小児と成人のヘルペス脳炎のほとんどは HSV-1が原因で、体内に潜伏していたHSV-1が再び活動することによるものです。

三叉神経節や脊髄神経節などに潜んでいたヘルペスウイルスが活動しはじめ、脳へと侵入し、側頭葉や前頭葉に感染病巣、出血病変や細胞死を起こすと考えられています。

ヘルペスウイルスが脳まで達する経路として考えられているのは、鼻やのどから感染して嗅神経を通る道、血管を通る道、感染した神経節から脳へ移行する道の3通りです。

新生児~小児

新生児~小児の場合の原因について教えてください。

新生児ではHSV-1とHSV-2は約2:1でみられます。一般的にHSV-2に感染する原因は、母体の産道感染です。

新生児のHSV-1は、口唇ヘルペスや指先に水疱ができるヘルペス性ひょうそからも感染するため、新生児に触れる際は注意が必要です。

小児の場合は、ヘルペスウイルスへの初めて感染での発症が多くみられます。新生児~小児ではヘルペスウイルスが血管を介して全身に広がり、細菌やウイルスなどが侵入しないように脳を守っている血液脳関門を通過して脳に達します。

ヘルペス脳炎の受診科目

ヘルペス脳炎の受診科目

ヘルペス脳炎の疑いがある場合は何科を受診すればよいでしょうか?

脳炎の診療領域は、おもに神経内科、小児科、救急科、内科です。

突然の意識障害、けいれん、麻痺、言語障害などが生じたら救急搬送が必要です。

新生児では発熱、ミルクや母乳の飲みが悪い、活気がないなどの症状、小児でも発熱で発症することもあります。いつもと違う様子がみられたら小児科を受診しましょう。

成人では発熱、頭痛、嘔吐、倦怠感、 咳や鼻水などの風邪などでもみられる症状がはじめに出ることがあります。それらの症状のみであれば内科を受診しましょう。

ヘルペス脳炎は、早くに適切な治療を開始しなければ、予後が悪くなります。はじめは発熱や風邪様の症状しかなくても、日が空いてから意識障害やけいれんなどが生じることもあるため、体調の変化には注意が必要です。

ヘルペス脳炎の検査

ヘルペス脳炎の検査にはどのようなものがありますか?

ヘルペス脳炎では髄液検査、頭部CTおよびMRI検査、脳波検査などを行います。

髄液検査

髄液検査はどのような検査ですか?

症状や経過からヘルペス脳炎が疑われたときに、確定診断として行います。ヘルペス脳炎の場合は、リンパ球優位で細胞数が増え、蛋白の増加も認められ、糖は正常のままです。まれに細胞数や蛋白濃度が正常で、糖が低下する場合もあります。

髄液中のヘルペスウイルスDNAをPCRで測定する方法は、正確性の高い検査です。

頭部CTおよびMRI検査

頭部CTおよびMRI検査とはどのような検査ですか?

頭部CTおよびMRIは脳の病変が確認できる検査ですが、初期は頭部CTでは確認できないことがあるため、できるだけ頭部MRI検査が推奨されます。

頭部MRI検査は発症初期の段階で約9割に異常が認められます。片側の側頭葉に病変がみられるケースがよくみられます。

脳波検査

脳波検査はどのような検査ですか?

脳波検査は単純ヘルペス脳炎の特徴的な検査ではありませんが、約8割の患者に脳波の異常が認められます。精神科領域の病気などとの鑑別が行えます。

ヘルペス脳炎の治療

ヘルペス脳炎の治療

ヘルペス脳炎はどのような治療を行いますか?

ヘルペス脳炎が疑われたら入院し、早急に抗ウイルス剤の投与を開始する必要があります。治療が遅れると、死亡率が高くなります

薬はアシクロビル(ゾビラックス)を第1選択として、アシクロビルが効かない場合は、第2選択としてビダラビン(Ara-A)を使用します。ホスカルネットナトリウム水和物(商品名:ホスカビル)を併用することもあります。

アシクロビルでの治療は、治療をしないときやビダラビンでの治療よりも死亡率が低く、予後が良好です。腎臓の機能が低下しているときには投与回数を減らして対応します。

治療が終了したら、 PCR 法により HSVDNA の陰性化を必ず確かめます。

ヘルペス脳炎の性差、年齢差など

ヘルペス脳炎の性差、年齢差について教えてください。

日本での単純ヘルペス脳炎の発症頻度は、年間100万人当たり3.5~3.9人の推計です。どの年齢にもみられますが、小児と高齢者にやや多くみられます。

ある調査においては、201例の内訳は男性110例、女性91例で男性がやや多い結果ですが、明らかな性差はないとされています。

編集部まとめ

ヘルペス脳炎は一般的に単純ヘルペス脳炎をさします。ウイルス性脳炎の中では頻度が高く、新生児、小児、成人によって症状の出方や経過は異なります。発熱やけいれんの症状に加えて、意識障害や記憶障害などの多彩な症状を示します。

少なくない確率で後遺症を残し、社会復帰できるのは患者の約半数です。重篤な症状をきたして死に至ることもあります。ヘルペス脳炎は、できる限り迅速な診断と治療の開始が予後を左右します。成人では風邪様の症状が出た後に何日か経って意識障害や記憶障害をきたすので、体調の変化に注意して症状が見られれば、状態によって救急搬送もしくは迅速に医療機関を受診しましょう。