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心身症
伊藤 有毅

監修医師
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

心身症の概要

心身症とは、心の問題やストレスが原因で身体の機能に異常をきたし、様々な疾患が生じる状態です。身体的な疾患と異なり、検査を行っても明確な異常が見つからないこともあります。

「日本心身医学会」では、心身症を「精神的・心理的因子が密接に関連して身体症状が発現または進行する身体疾患」と定義しています。心と体の健康は深く関わっていることから、過度なストレスが蓄積すると自律神経やホルモンバランスなどに乱れが生じ、様々な身体症状を呈することがあります。

心身症では特定の臓器や部位に症状が現れることが多く、胃腸や心臓、皮膚などに症状を認めることがあります。ストレスが直接的な原因となっているため、症状の現れ方はストレスの程度や患者さん自身のストレスに対する耐性によっても大きく異なります。

心身症として発症する疾患には、過敏性腸症候群や起立性低血圧、高血圧、慢性胃炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎など様々な種類があります。

心身症の原因

心身症の原因には、精神的ストレスや心理的な特徴、環境要因、身体的要因などが挙げられます。心身症の患者さんはストレスや感情を抑圧していることも多く、ストレスへの対処法を誤ることで心身症の発症リスクを高める可能性があります。

ストレス

心身症の発症には精神的ストレスが深く関わっています。例えば、職場での過度なプレッシャーや家庭内での問題、社会的な孤立感などがストレスの要因となります。
長期間に渡ってストレスにさらされると身体の機能に悪影響を及ぼし、様々な身体的症状を引き起こすことがあります。

心理的な特徴

個人の心理的な特性も心身症の発症に関わることがあります。例えば、完璧主義な性格や自己肯定感の低さ、対人関係での不安などが挙げられます。
このような心理的特徴がストレスの感じ方や対処法に影響を与え、心身症を引き起こしやすくなることがあります。

環境要因

環境要因も心身症の原因になることがあります。例えば、人間関係のトラブル、引越しや転職などの生活環境の変化、職場での競争環境などが挙げられます。
これらの環境要因がストレスを増幅させ、心身症を引き起こす要因となるケースもあります。

身体的要因

心身症の発症には身体的な要因も関与しています。例えば、遺伝的な要素やホルモンバランス、自律神経の乱れが心身症発症のリスクを高めることがあります。
特に自律神経系が乱れると身体の様々な機能に悪影響を及ぼし、心身症を引き起こしやすくなります。

心身症の前兆や初期症状について

心身症の初期症状は症状が現れる臓器や部位によって異なるものの、一般的には以下のような症状がみられます。

消化器系の症状

緊張や不安を感じたときに腹痛が起こることがあります。また、ストレスが原因で腸の働きが乱れ、下痢や便秘が繰り返されることもあります。この他、食欲が低下することもあります。

循環器系の症状

ストレスや不安によって自律神経が乱れ、動悸や胸の痛みを感じることがあります。

呼吸器系の症状

精神的なストレスが呼吸に影響を与え、息苦しさを感じることがあります。また、緊張や不安が強まると過呼吸になることもあります。

神経系の症状

ストレスが原因で慢性的な頭痛が続いたりめまいを感じたりすることがあります。さらに、精神的な不安が原因で寝付きが悪くなったり、眠りが浅くなったりすることもあります。

その他の症状

慢性的な疲れや手足の痺れ、痛みなどを感じることがあります。

心身症の検査・診断

心身症の診断では、問診や身体診察、血液検査、画像検査、神経生理学的検査などが行われます。

問診

症状の程度や症状が現れた時期、症状が悪化する因子・軽快する因子などを確認します。また、心理テストとしてストレスの原因や患者さんの生育環境、家庭・職場環境について聴取したり、質問紙を用いて心理的状態を確認する質問に答えてもらったりすることもあります。

身体診察

体温や血圧などのバイタルサイン測定や胸部・腹部の聴診などを行い、血圧や心臓・腸の動きに異常がないかなどを確認します。

血液検査

全身の臓器に異常がないかを調べるため、肝機能や腎機能など様々な項目について確認します。

画像検査

症状を認める部位に異常がないかなどを確認するため、必要に応じてX線検査やCT・
MRI検査などを行います。心身症では胃腸に異常を認めることも多く、腸の運動について評価するために「消化管輸送能検査」などを行うこともあります。

神経生理学的検査

自律神経や脳神経などに異常がないか確認するため、自律神経機能検査や脳波計測、脳血流シンチなどの検査が行われます。

心身症の治療

心身症の治療では、患者さんの心理状態や症状に応じた薬物療法、心理療法が行われます。

薬物療法

心身症によって生じている症状や身体疾患に対する薬剤のほか、抗不安薬や抗うつ薬などを用いることがあります。

心理療法

心理療法として、リラクゼーション法や認知行動療法などが行われています。
リラクゼーション法では、心身の過度な緊張を和らげるため、「自律訓練法」などの治療法が考慮されます。
認知行動療法では、ストレスや心理的な問題の原因となる偏った思考パターン・行動パターンをより健康的なものに変えていけるようアプローチします。

心身症になりやすい人・予防の方法

心身症を発症する人は、無意識のうちにストレスをないものとしたり、感情を押し殺したりすることがあります。また、小児の場合には、感情をうまく表現できないことも考えられます。

心身症を予防するためには、ストレスに適切な対処法を取ることが重要です。日頃からストレスを解消できるよう、十分に休息を取ったり、周りの人に話を聞いてもらったりすると良いでしょう。子供の異変に素早く気づけるよう、保護者が子供の言動や行動をよく観察することも重要です。

ストレスに対してうまく対処できないという場合には、1人で解決しようとせず、心療内科等で専門医に相談してみましょう。


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