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特発性食道破裂
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

特発性食道破裂の概要

特発性食道破裂はまれな疾患であり、健常者にも起こりうる疾患です。多くが嘔吐による食道内圧上昇により、食道下部に裂創が出現し、その後胸痛や腹痛を自覚します。特に胸腔内穿孔型は重症とされます。早期診断で救命率が上昇しますが、24時間以内に診断できる割合は3割程度と低いです。診断には胸部X線やCT、食道造影などを用います。全身状態が安定している場合は保存的治療として絶飲食、抗菌薬の投与などを行いますが、多くが外科的治療法を実施されます。

特発性食道破裂の原因

特発性食道破裂はまれな疾患です。食道破裂の年間発症率は100万人当たり3.1例で、そのうち15%程度が特発性食道破裂とされています。特発性食道破裂は、約7割が嘔吐が誘因となって食道全層に裂傷が生じます。努力性破裂とも呼ばれ、激しい嘔吐、いきみ、咳、笑い、痙攣、重量挙げなどにより食道内圧が急激に上昇することで起こります。好発部位は下部食道左側で、支持組織がなく脆弱なことが原因と考えられています。飲食後の嘔吐を契機に生じることが多いため、胃内容物が縦隔内に広がりやすいとされます。内容物が縦隔のみの縦隔内限局型と、胸腔内に流出する胸腔内穿破型に大別されます。胸腔内穿破型は気胸や膿胸を合併し、時間経過とともに縦隔炎や膿胸から敗血性ショックに至る可能性が高いとされます。頸部食道の破裂は比較的限局的であり、重篤な縦隔炎には至りにくく、予後は比較的良好とされます。

特発性食道破裂の前兆や初期症状について

暴飲暴食のエピソードや、多くが嘔吐が誘因となりますが、25~45%では嘔吐歴がないという報告もあります。急激に発症した胸痛や腹痛が約50%の症例で認め、背部痛、呼吸困難も認めることが多いです。その他、嚥下困難、嚥下時痛、嗄声などが出現しえます。

特発性食道破裂の検査・診断

特発性食道破裂が初診時に正しく診断される確率は低く、24時間以内に確定診断となった症例は3割程度という報告もあります。原因として、他の胸腹部疾患との鑑別が時に困難なるためであり、まず、特発性食道破裂の診断は鑑別診断に挙げて疑うことが重要です。身体所見としては皮下気腫を触知することがあり、縦隔部の聴診にて拍動に一致した雑音を認めることもあります。胸部X線にて、縦隔気腫、気胸、胸水の有無を確認します。縦隔気腫は10~20%程度で認めます。CTでは、胸水や膿胸、縦隔気腫の評価、腹腔内病変の有無を確認します。血液検査では特異的な所見はありませんが、白血球の増加がしばしば認められます。胸腔穿刺で未消化食物の混入や酸性胸水、アミラーゼ上昇なども得られることがあります。全身状態が許容されれば、食道造影による穿孔部位の確認、胸腔内穿破の有無を確認することが望ましいとされ、保存的加療が可能かどうか、手術のアプローチ法の決定にも関わります。食道X線造影では、91.5%の症例で造影剤の漏出を認めるという報告があります。

特発性食道破裂の治療

全身状態が安定しているか、発症からの時間経過、縦隔や胸腔の汚染の程度など総合的に判断します。全身状態が良好であれば、絶飲食の上、抗菌薬による保存的治療も選択されます。また、全身状態が極端に不良で、外科的介入が困難な症例なとき保存的加療となる場合があります。保存的治療の適応としては、①破裂が縦隔内に限局している、②破裂孔を通じて内容物が食道内にドレナージされている、③症状が軽度である、④重篤な感染がない、の4項目が挙げられています。保存的加療の内容としては、食道内・縦隔内ドレナージ、胸腔内ドレナージ、中心静脈栄養や経管栄養、抗菌薬投与、プロトンポンプ阻害薬の投与、などが挙げられます。特発性食道破裂の約20%に保存的治療を選択されています。 外科的治療では、破裂創の閉鎖、修復、補強に加え、汚染された縦隔、胸腔の洗浄・ドレナージを行います。手術後には遺残膿瘍をきたす可能性があるため、術後にCTなどの画像診断で評価を行い、必要に応じて経皮的ドレナージを追加します。 手術困難な高リスク患者に対しては、内視鏡的治療も選択肢となります。耐術能がない、早期発見で限局的な穿孔の場合には内視鏡的治療が考慮されます。破裂部位をクリップで閉鎖する治療や、食道ステント留置による治療が近年増加傾向です。内視鏡的完全被覆型自己拡張性金属ステントを使用した内視鏡的ステント留置術は81%の奏効率でしたが、17%が内視鏡的再介入、10%が外科的介入を要したという報告もあります。観察研究では、内視鏡的ステント患者の85%が、後に手術を要したとの報告もあり、治療後のマネジメントも重要となります。 特発性食道破裂の生存率は、保存的治療で75%、内視鏡的治療で100%、外科的治療で81%であったという報告があり、年々生存率は改善しているとされます。特発性食道破裂の生存率は92.1%であったという本邦の報告もあります。また、発症から治療を早期に開始することで、生存率が有意に上昇したと指摘する報告もあり、早期発見、早期治療が予後を左右するとされます。

特発性食道破裂になりやすい人・予防の方法

健常者でも発症する可能性があります。一部の患者では基礎疾患としての食道病変(食道癌、薬剤性食道炎、好酸球性食道炎、Barrett食道、感染性潰瘍など)を伴う場合があります。回復後には、上部消化管内視鏡や生検を必要に応じて施行し、基礎疾患の有無を評価することが望ましいとされます。

関連する病気

参考文献

  • 平岩 訓彦:特発性食道破裂. 臨床雑誌外科 82巻 5号 pp. 403-407.南江堂, 東京, 2020
  • Up to date:Boerhaave syndrome: Effort rupture of the esophagus
  • Brinster CJ, Singhal S, Lee L, et al. Evolving options in the management of esophageal perforation. Ann Thorac Surg 2004; 77:1475.
  • J P de Schipper, et al. Spontaneous rupture of the oesophagus: Boerhaave's syndrome in 2008. Literature review and treatment algorithm. Epub 2009 Jan 15.
  • 目片英治ほか:肝硬変を合併した特発性食道破裂の1 例.日臨外会誌 64:2134, 2003

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