

監修医師:
五藤 良将(医師)
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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。
目次 -INDEX-
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の概要
NASH(ナッシュ)とはNonalcoholic steatohepatitisの略で、日本語では非アルコール性脂肪性肝炎と呼ばれています。 大量の飲酒歴がないのにも関わらず、飲酒によるものと類似した脂肪肝が起こることがあり、「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルド/ナッフルディー)」と呼ばれています。NAFLDのうち、進行性の病態がNASHです。NASHの患者さんの1〜2割は5〜10年で肝硬変に進行します。肝硬変になってしまうと、年間2%に肝癌が発生します。 なお、NAFLDの中でも進行しない病態の呼び方は「非アルコール性脂肪肝(NAFL:ナッフル)」です。NAFLDとNASHはそれぞれ互いに移行すると考えられています。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の原因
NASHの最大の原因は、食べ過ぎや運動不足などの生活習慣の乱れ、肥満(特に内臓脂肪型肥満)、ストレス、糖尿病、脂質異常症などです。 近年、食生活の変化に伴い肥満の方が増えており、NASHの患者さんも増加傾向にあります。NASHのメカニズム
なぜNASHが起こるのかは完全にわかっているわけではありません。しかし、生活習慣の問題に加えて、遺伝的なバックグラウンドなどさまざまな要因があることが考えられています。 肝臓の役割の一つは、食べ物から吸収された栄養素を代謝して全身に供給することです。しかし、食べ過ぎや運動不足によって栄養過多が起こると、代謝が間に合わなくなってしまいます。その結果、余分なエネルギーは中性脂肪として肝臓に蓄積します。 さらに、肥満になるとインスリンという血糖値を下げるホルモンが効きにくい状態となります(インスリン抵抗性)。インスリン抵抗性もまた、肝臓での脂肪合成を促進し、肝臓に脂肪を蓄積させる原因になります。 過剰な栄養素を分解する過程で発生する活性酸素などの有害物質による酸化ストレスも、肝臓にダメージを与え、NASHを引き起こすと考えられています。アルコール性と非アルコール性
NASHやNAFLDは「非アルコール性」とされていますが、全く飲酒をしていないという意味ではありません。「非アルコール性」の定義は、1日あたりのエタノール摂取量が男性で30g未満、女性で20g未満です。 エタノール含有量の計算式は以下です。 アルコール度数(%)×0.01×アルコール量(mL)×アルコール比重(0.8) 例えば、缶ビール(アルコール度数5%)350mL缶1本のエタノールの量は14g、500mL缶1本だと20gと計算されます。 女性だと500mL缶1本未満、男性だと350mL缶2本程度までの飲酒であれば、脂肪肝の原因は非アルコール性と考えられるでしょう。 しかし、多くの脂肪肝は飲酒と飲酒以外の要因の両方が関係しています。アルコール性肝炎と非アルコール性脂肪性肝炎の境界が曖昧な場合も少なくありません。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の前兆や初期症状について
NASHの初期には自覚症状がほとんどありません。肝臓は沈黙の臓器と呼ばれており、症状が出た時にはすでに病状が進行してしまっているケースがほとんどです。 ご自身で簡単にできるものとしてはウエストの周りを計測する方法です。男性ではウエストが85センチ以上、女性は95センチ以上の場合は、半数以上の方が脂肪肝です。 また、昔よりも太ったという方も注意してください。20歳の時の体重から10kg以上増えている方は脂肪肝の可能性が高くなります。 しかし、痩せ型でもNASHの方もいるため、全ての方に当てはまるわけではなく、注意が必要です。 健康診断がきっかけでNASHが判明することもあります。血液検査で注目するポイントはAST(GOT)やALT(GPT)という項目です。これらは「肝逸脱酵素」と呼ばれており、肝臓に何らかのダメージがあると高くなります。 また、腹部エコーでは脂肪肝があるかどうかがわかります。 肝逸脱酵素の上昇や、脂肪肝があることが疑われる場合には、消化器内科・肝臓内科に受診をしましょう。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の検査・診断
NASHは肝臓の組織を調べる「肝生検」という検査をしないと確実に診断できません。しかし、肝生検は患者さんに大きな負担がかかり、リスクの高い検査です。そのため、行うべき人をさまざまな検査で絞り込むことが必要です。肝生検以外の検査
飲酒歴、生活習慣病の有無、服用している薬、体重の変化、飲酒歴やその量などを確認します。ウイルス性肝炎や肝臓の自己免疫疾患など、ほかに肝臓に影響がある疾患がないかどうかについて血液検査をします。 また、画像の検査も重要です。腹部超音波検査、CT検査、MRI検査などで肝臓の状態を確認します。 これらの初期評価で脂肪肝が疑われた場合、肝臓に線維化が起こっていないかをチェックします。線維化とは、肝臓が炎症を繰り返してダメージを受け、再生する過程で線維組織がたまってきていることです。線維化があると、NASHが進行している可能性があります。 血液検査で線維化が進んでいないかを判断する項目を調べます。近年では血液検査データをもとに線維化を予測するFIB-4 indexや、肝臓の硬さを評価するFibroScan(瞬時的エラストグラフィ)なども利用され、肝生検の代替手段として注目されています。肝生検と組織学的所見
肝臓の組織学的所見の評価と線維化の程度を判定するために肝生検を行います。 肝生検は基本的に入院で行う検査です。皮膚の上からエコーを併用して針で肝臓を取る「経皮的肝生検」と、お腹に小さな穴を開けて腹腔鏡という細い内視鏡を見ながら行う「腹腔鏡下肝生検」の2種類があります。多くの場合は1泊〜2泊で全身麻酔が不要な経皮的肝生検が行われます。 NASHの組織学的所見の特徴は、脂肪変性・炎症・肝細胞障害(風船様変性)などです。NASHの方の肝細胞には脂肪沈着が認められ、肝細胞障害により風船のように膨らんでいます。肝臓の組織には炎症により免疫細胞が集まっている様子が見られます。稀ですが特徴的なのはマロリー体と呼ばれる変性物質が肝細胞内に認められることです。 事前の診察・検査でほかの肝臓の病気が除外でき、これらの特徴的な組織所見が得られればNASHの確定診断に至ります。さらに、線維化の程度により、どのくらい進行した状態なのか評価することもできます。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の治療
NASHの治療の基本は生活習慣の改善です。食事療法と運動療法により体重を減らし、健康的な生活習慣を身につけることが重要です。 NASHは肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病と深く関連した疾患です。これらの生活習慣病の治療も並行して行う必要があります。 食事療法としては、エネルギー摂取量の目標は1日あたり標準体重1kgにつき25~35kca程度が目標です。炭水化物や脂質に偏った食事を避け、バランスよく食べましょう。 運動療法として有酸素運動だけでなく、筋トレ・スクワットなどのレジスタンス運動も効果的です。 糖尿病、脂質異常症、高血圧などの合併症がある場合は、それぞれの合併症に対する薬物療法を行います。 体重の7%以上減量するとダメージを受けた肝組織が修復されるといわれています。また、10%以上の減量で肝線維化も改善すると考えられています。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)になりやすい人・予防の方法
NASHになりやすいのは、肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧などの生活習慣病がある人です。過食や運動不足などの自覚がある人、急に体重が増えてしまったという人も注意が必要です。 予防は治療と一緒で、生活習慣を改善すること、体重を減らすことです。NASHは放置すると、肝硬変や肝がんに進行する疾患です。リスクがある方は生活習慣を見直し、健康的な毎日を過ごしましょう。参考文献
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/1/109_11/_pdf/-char/ja
- https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/nafld_2023.pdf
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/4/110_729/_pdf/-char/ja
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/8/110_1670/_pdf
- https://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/shibousei.html
- https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-011.html
- https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/nafldnash2020.pdf




