「2型糖尿病」のインスリン治療、1日1回よりも週1回の方が優れる【海外論文解説】
アメリカのテキサス大学らの研究グループは、「インスリン治療を開始する2型糖尿病患者を対象に、週1回投与の基礎インスリン製剤アイコデックと、1日1回投与のデグルデクを比較した結果、26週後までのHbA1c値の減少レベルで週1回投与のアイコデックが優越性を示した」と報告しました。この内容について、甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループが発表した内容とは?
アメリカのテキサス大学らの研究グループが報告した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回紹介するのは、アメリカのテキサス大学らの研究グループが実施した研究で、ノボノルディスク社の支援を受けて実施されています。研究内容は、2023年6月24日の医学雑誌「JAMA」の電子版に掲載されています。
週1回投与型の基礎インスリン製剤アイコデックは、1日1回投与の基礎インスリンの代替となる可能性があるとのことです。第3相臨床試験には、11カ国の92施設が参加しました。対象となったのは、インスリン以外の血糖降下薬を使用しているもののHbA1cが7~11%で、インスリン治療を開始する2型糖尿病の成人患者588人です。対象者はアイコデック群294人とデグルデク群294人に分けられました。平均年齢は58歳で、そのうち37%が女性でした。
26週間後のHbA1c値の変化は、アイコデック群でベースラインの8.6%から7.0%に減少し、デグルデク群では8.5%から7.2%に減少していました。アイコデック群の非劣性が確認されたため、優越性についても検討したところ、優越性も示されたとのことです。
研究グループは「インスリン使用歴のない2型糖尿病患者に対して週1回投与するアイコデックは、26週間後までのHbA1c変化では1日1回のデグルデクよりも優れている。体重の変化には差がなく、レベル2または3の低血糖イベントはアイコデック群に多かったが、両群ともに発生率は人・年あたり1回に満たなかった」と結論付けています。
発表内容の受け止めは?
アメリカのテキサス大学らの研究グループが報告した内容についての受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
今回の研究を通じて、インスリン未治療の2型糖尿病患者において、 週1回投与のアイコデック群は1日1回投与のデグルデク群よりも26週投与後のHbA1c低下率が優れていたという結果が得られました。アイコデックはグラルギンと同等以上の効果が認められ、懸念される副作用の出現頻度は同程度でした。一方、週1回で済むインスリンの投与はインスリン治療に対する患者や家族の治療に向き合う心理的ハードルを下げる効果が持たれます。ただし、アイコデックの血糖降下作用の持続時間が長いことに伴って、遷延して繰り返される低血糖出現のリスクにも注意する必要があると考えられます。
週1回のインスリン投与のメリットは?
インスリンを週1回投与することは患者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか? また、インスリン治療の開始を受け入れやすくする効果も出てくるでしょうか?
甲斐沼先生
糖尿病に対するインスリン製剤は日々進歩しており、個々の病態や治療方針に合わせて、作用の出現する時間や持続する時間などを考慮して様々な製剤が処方・服用されています。
新たに開発が進められている週1回のインスリン製剤であるアイコデックは、注射の回数を週1回に減らすことで糖尿病患者の自己負担をより少なくし、治療と患者の管理の利便性を高められるとして注目されています。今回の研究結果から考えると、週1回投与型の基礎インスリン薬であるアイコデックは、1日1回投与の基礎インスリンの代替療法となる可能性が期待されます。アイコデックは治験中の薬であるため、現在のところは日常診療の場面では使用できません。しかし、週1回投与であれば患者自身も治療開始を受け入れやすく、服薬のアドヒアランスも向上すると予想されます。
まとめ
アメリカのテキサス大学らの研究グループは、「インスリン治療を開始する2型糖尿病患者を対象に、週1回投与の基礎インスリン製剤アイコデックと、1日1回投与のデグルデクを比較した結果、26週後までのHbA1c値の減少レベルでは1回投与のアイコデックが優越性を示した」と報告したことが今回のニュースでわかりました。糖尿病は世界的に患者数が多い病気なので、こうした新しい技術は注目を集めそうです。
原著論文はこちら
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2806635