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「認知症」リスク、短期間で資産を減らす“負の財産ショック”で高まる 中国研究グループ発表

 公開日:2024/02/15
「負の財産ショック」で認知症リスク高まるとの研究報告

中国の浙江大学らの研究グループは、経済的困窮や資産減少が認知機能に与える影響について研究した結果、短期間で資産を大幅に減らした人は認知機能の低下速度が速くなり、認知症発症リスクが高まることが示唆されたと発表しました。この内容について田頭医師に伺いました。


田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

中国浙江大学らの研究グループが発表した研究内容とは?

中国浙江大学らの研究グループが発表した研究内容について教えてください。

田頭 秀悟医師田頭先生

今回紹介する研究は中国の浙江大学らの研究グループによるもので、成果は学術雑誌「JAMA Network Open」に掲載されています。

研究グループが注目したのは、急激な資産減少や新たな負債の増加による「負の財産ショック」です。負の財産ショックは、心血管疾患、薬物乱用、うつ病、死亡率の増加などと関連することが報告されていたものの、認知症リスクについてはこれまでほとんど検討されていませんでした。

そこで研究グループは、アメリカのHRS(Health and Retirement Study)の参加者のうち8082人を対象に、認知症リスクの調査・分析をおこないました。対象となった8082人の平均年齢は63.7歳で51.7%が女性でした。分析対象となった期間中、新たに認知症を発症したのは1441人で、2185人が負の財産ショックを経験していました。また、339人がベースラインで「貧困」でした。残りの5558人は資産を維持していました。

資産を維持していた人と比べて、追跡中に負の財産ショックを経験した人はベースラインの認知スコアが有意に低く、貧困状態にあった人も資産を維持していた人と比べて、ベースラインでの認知スコアが低い状態でした。

研究グループは、「今回のコホート研究において負の財産ショックは、年齢や民族による修正を伴いながら、アメリカの中高年者における認知機能低下の促進や認知症リスクの上昇と関連していた。これらの知見は、さらなる前向き研究や介入研究によって確認されるべきである」と結論づけています。

日本における認知症の現状は?

日本での認知症の現状について教えてください。

田頭 秀悟医師田頭先生

認知症は歳をとるほど発症しやすいと言われています。厚生労働省によると、65歳以上の認知症の日本人の数は2020年時点で約600万人と推計されています。2025年には高齢者の5人に1人にあたる約700万人が認知症になるとも予測されています。

認知症には、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程で発症する「アルツハイマー型認知症」、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による「血管性認知症」、幻視や歩幅が小刻みになって転びやすくなる「レビー小体型認知症」、スムーズに言葉が出てこない・言い間違いが多い、感情の抑制がきかなくなる、社会のルールを守れなくなるといった症状が表れる「前頭側頭型認知症」といった複数のタイプが存在します。どのタイプの認知症であるのかによって、医療的な対処法だけでなく介護者が知っておくべき接し方のポイントもそれぞれ異なります。

認知症は今後、高齢化の流れが避けられない日本にとって、まさに全社会的に知識を持ち、対策に取り組まなければならない疾患であると言えるでしょう。そのような流れを受けて日本政府も、2019年6月18日に「認知症施策推進大綱」というものを取り決めました。認知症になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生」を目指し、「認知症バリアフリー」の取組を進めていくとともに、共生の基盤の下、通いの場の拡大など、予防の取り組みを進めている状況です。

今回の研究内容への受け止めは?

中国浙江大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。

田頭 秀悟医師田頭先生

認知症の発症リスク要因といえば、一般的には食生活や運動、睡眠、余暇活動など個人の生活習慣に焦点を当てて考えられることが多いですが、今回の研究は経済状況という社会的な要因と個人の認知症発症リスクとの関連を示唆しているという点で大変意義深いと思います。

特に負の財産ショックという出来事は、例えば社会保険の仕組みが不安定であるなどの背景があります。投資を促進するような社会の風潮が後押しとなって引き起こされやすくなる側面もあり、必ずしも個人の問題だけではなく社会との関係の中で認知症という病気を捉える視座を与えてくれていると思います。

また、貧困も社会情勢によっては個人の努力不足だけでは片づけられない問題となり得ますし、貧困状態であれば栄養のある食事をとることも難しくなるでしょう。そのことも認知症の発症リスクを高める可能性があることも推察され、個人と社会の問題が非常に複雑に絡み合っていることがわかります。

今回の研究結果から、少なくとも真の意味で認知症を予防するためには、個人の予防活動のみならず、社会を構成する一人ひとりが広く社会問題にも関心を持ちながら、より適切な社会を目指して働きかけていくことが大切だと感じました。

まとめ

中国浙江大学らの研究グループが経済的困窮や資産減少が認知機能に与える影響について研究し、短期間に資産を大幅に減らした人は認知機能の低下速度が速くなり、認知症発症リスクが高まることが示唆されたと発表しました。今後の研究にも注目が集まりそうです。

原著論文はこちら
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2813136

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